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愚者の舞い 4−5

 何気無い動作で首の横に手を添えられ、ショコラは恐怖に全身を硬直させた。

その手が横に動いた時、その手に自分の頭が乗っている、そう確実な結果として認識したためだ。

それだけの殺気を、シダは平然と放っていたから。

「お前を殺せば、親父は慌てて駆け付けるかも知れないな。 なにやら大事な存在のようだ。」

「あのぉ、シダ様? 本気でございますかぁ?」

「私は冗談を言う趣味は無い。 怖いのか?」

「はい、それはもぉ。」

メフィストは即答した。

「大魔界王様がお怒りになられたら、わたくしめ如き、瞬殺されてしまいますので。 期待した魔王も召喚できなかった事ですし、わたくしめはまた消えますです。」

そう言うと、有無を言わさず姿を消した。

卑怯者! と、思わなくもないが、魔族などそんなものだ。

ショコラはいつ死が訪れるか、逃れる術はないか、そこに神経を集中させた。

「私より長く生きたお前でも、死ぬのは怖いか?」

シダに問いかけられ、ショコラはフッと全身の力が抜けた。

言われて見れば、何故自分が生きているのか分からない。

今死んだとて、何か問題あるのか。

人間に復習したい気持ちは、今もある。

しかし、それに固執するほど、今や気持は強くも無い。

「お前は怖くないのか? 死ぬ事が。」

だから、どうせ死ぬなら聞いてみたい、そんな気持ちになった。

「どうであろうな。 私は恐れているのかもしれん。 だが、一番恐れるのは、私達を見捨てた親父を越えられない事、ただそれだけだ。」

(見捨てた? あいつが??)

感情を表わさないシダが、静かに怒りを燃え上がらせたのが感じ取れた。

殺気が徐々に膨れ上がり、ショコラの全身を冷汗が濡らす。

「どうやらお喋りが過ぎたようだな。 恨みはないがお前の命、貰う。」

平然とそう言い、グッと強く喉に添えられた手が押し付けられた瞬間、手はパッと放され、代わりに青い物体が視界を埋めた。

(なんだこれは?)

と、視界を埋めた物体に集中して見ようとした時には、消え失せてしまったが。

「やはり現れたか。 親父。」

「息子の顔を、たまには見てやらんとな。」

そう言いながら、スッとショコラの前に左側から庇うように立つ。

その右手には、巨大な青色をした刀身の大剣が握られていた。

「そう言いながら、私を前にしても偽りの姿のままですか。」

「普段はこれに黒装束を着て、顔も隠しているけどな。」

そう言いながら、アラムはニヤリと笑う。

長身・細見でありながら、目は鋭く吊り上り、いかにも暗殺者というイメージを具現化したような姿。

普段はスキアーと名乗る、アサッシン時の姿だ。

「魔界へ行って腕を上げたから、腕試しがしたいんだろ? 相手してやるぜ。」

「それはそれは、珍しく気前がよろしいようで。 その女狐を庇う理由も聞きたいですな。」

「それは自分で調べるんだな。 そのために来たんだろう?」

「生憎、動物の生態を調べに来た訳ではないですね。」

そう言うと、シダは目にも止まらぬ速さでアラムに斬り込み、そのままドサッと倒れた。

「まだまだだな。」

そう言ってニヤッと笑うと、アラムはそのまま姿を消した。

独り取り残された感のショコラは、呆然としながら気を失い倒れたシダを見降ろしたまま、立ちつくしていた。

強い事は知っていたし、このシダが強い事も分かっていた。

だが、ここまで圧倒的な差が出るものなのか。

今まで自分が最強と思った事はないが、まさか何が起こったかも分からないとは。

ショコラはもう、呆れるばかりだった。

それに、シダからアラムが自分を守った理由も分からない。

敵か味方かと別ければ、確実に敵の筈なのに。

多くの謎と、生きる目的を失ったまま、ショコラは立ち尽くしていた。


 霊峰ファレーズの名を知らぬ者は赤子だけ。

そう言われるほど有名な山の中腹に、一件の小屋がある。

目の前には小さな小川が流れ、その川はいくつもの小川と合流し、やがてペイネへと辿り着く。

その小屋は今にも潰れそうなボロ小屋なのだが、数百年経った今も変わらず存在していた。

ルーケが見たら、懐かしいと思うだろう。

そんな小屋の前で、1人の少女が洗濯をしていた。

年の頃は13才くらいなのだが、不思議と落ち着いた雰囲気で、ただの童顔な女の人に見える時もある。

籠の中身は少女の衣服のみで、他の者が着れるような物は一切ない。

少女はこの小屋に、1人で住んでいるのだ。

そこへ、1人の小人こびとが山道から姿を現した。

「おっすお♪ ミカちゃ♪ お薬持って来たお♪」

巨大な白い背負い袋を右手で持ちながら、左手にはしっかり食べかけのお菓子を持っている小人の女の子の声に、ミカはちょっと驚いて顔を上げた。

「あら、ポルンさん。 お久しぶりです。」

「モリオンちゃと約束だからお。 ほい、今年の分お。」

そう言って、袋から2本の筒を取り出した。

「毎年すいません、こんな山奥まで。」

「お客がどこに住んでいようと、届けるのがお仕事だお♪ 気にしないお〜♪」

ニコニコと答えるポルンに、ミカも笑顔で感謝を表す。

ポルンには空気の奇麗な場所でないと、長く生きられない病気だと説明してある。

その治療のため、年間少しずつ、ポルンの運んでくる特別な薬が必要なのだと。

「それにしてもポルンさん、毎年1人で来られますけど、よく無事で来られますね。」

「慣れれば平気だお。」

そういうものではないのだが、と、ミカは思う。

このファレーズは、ベテランでもなかなかここまで登って来れない場所なのだ。

プティ族であるポルンは、小柄で器用だからと言われれば納得してしまいそうだが、そんな事は決してない。

比較的安全と言われる、ペイネ方面からの登山でさえさっき言った状態であり、他の場所からでは自殺に近い。

恐らく、はしっこいポルンの事だから、独自のルートを作り上げたか発見したのだと思うが。

「今、お茶でも入れますね。」

ミカがそう言って立ち上がろうとしたが、

「お茶はいいお。 今日は急いで下山しないといけないお。」

「そうですか。 お急ぎなんですね。」

「まったく困るお。 ハプルーンちゃ、愛の逃避行に走ったお。」

「え? ハプルーン・・・。 確か、お仲間ですよね? 冒険者の。 それがなんで逃避行なんですか??」

「詳しくは言えないお。 とりあえず、今はシノンちゃしか一緒にいないから、急いで追いかけないといけないお。 それじゃ、ミカちゃ、またお♪」

「はい、お気を付けて。」

ミカがそう言った時には、後ろ向きに走りながら森の中へ消えて行った。

プティだけの特技かどうかは知らないが、人の半分しかない身長で人と同じように走るのだが、何故か速度は一緒なのだ。

不思議な存在ではあるが、ミカも人の事を言えないので、深く知ろうとはしなかったが。

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