愚者の舞い エピローグと
東日本大震災から幾星霜 と言ったら言い過ぎかもしれないけれど 早9年。
子育てに日常にと過ごしているうちにいつの間にか今日にいたる。
久しぶりに時間ができ書こうと思い 筆を走らせ・・・。
書けないものですねぇ。
と 言うわけで 引退いたします。
僅かながら 読んでくれていた方 申し訳ありません。
しかしながら まったく放置と言うのもルーケ達にも悪いので 今後の展開はどうなるか メモ程度にあらすじを。
ルーケを守り ポシスの自然魔法 移転の扉により時空の彼方へ飛ばされたパール。
その直前に幻惑の霧から脱出したルーケは 事態を察し怒りに任せて斬りかかりポシスを重体に追い込むが、ショコラの身を挺した身代わりに救われ逃走する。
ショコラにとどめを刺そうとしたところにアラムが現れ庇い シェーンのためにと身柄を引き取る。
その後 ルーケ達はどの時代に飛ばされたかわからないけど もし自分達が生きている時間に飛ばされたなら安易に合流できるようにと名を馳せるために行動を開始し 著名な魔物退治にまい進することになる。
その中には ノールブスライムも含まれていた。
そして魔王が降臨し 人々に切望されて仕方なく決戦を挑む。
数々の難関と戦いを乗り越え魔王と対峙したルーケ達だったが 魔王はルーケ達にかけられたアクティースの呪いを見抜いていた。
それは 栄光の挫折。
呪いをかけられた後 人生において一番輝く瞬間に 必ず大失敗をする呪い。
かくして 彼らは一番輝ける一番の強敵との戦いに 金縛りにあい 無抵抗で死を迎える。
そして数年後。
魔王の城の前には 帝国を中心として大陸中の戦力が集まっていた。
人種も国家も すべての垣根を越えて ただ 魔王討伐のために。
その中心になった人物の名は 勇者カナン。
少女と言うには成熟し 若者と言うには一寸早い そんな年頃の娘。
ルーケの死後 魔王軍によって滅ぼされた故郷から旅立ち 大陸中を旅してまとめあげた 元大魔王にして始原の神の一人アラムの子孫であったが これは別のお話である。
エピローグ
パールは不意に目が覚めた。
そこは 見た事もない家の一室。
ここはどこだ・・・? と、戸惑っているうちに、メイドの姿をした若い娘が戸を開けて入室し、パールの変化に気が付いて、声をかける暇さえなく慌てて部屋から飛び出して行った。
その数分後、部屋に飛び込んで来た若者が知り合いに凄く似てるような気がして、なんとなく驚く。
「君、怪我はないか? 帰路の途中に倒れていたので連れ帰ったのだが。 ああいや、怪我はないのは彼女らに聞いて知ってはいるんだが・・・。」
「あの・・・あなたは・・・?」
「ああすまない。 私はアレス。 この館の主人だ。」
「アレス・・・? 聞いたことがあるような・・・。」
「君の名は? 何と言うのかな? 御嬢さん。」
「私の名は パール・・・? 私は・・・誰・・・?」
「誰? 君 記憶が・・・?」
戸惑うパールに、アレスは彼女が記憶喪失なのに気が付く。
そしてこれが、大魔王アラムを倒した勇者アレスとパールとの出会いだった。
二人は後に、ルーケと言う名の男児を授かる事になる。
そして、結局彼女の記憶が戻る事無く、別れの時を迎える事となる。
「お前に最後の選択肢を与えよう。」
そう言う師匠に ルーケは戸惑うしかなかった。
「一つ 普通の人間と同じく 転生するために死を迎え入れ 冥界に堕ちたのちに転生する。」
不機嫌そうに仁王立ちでそう言う師匠アラムは かなり面倒くさそうな感じだ。
「一つ 勇者の一人として この原野で魔物と戦う事。」
そう、ここは草と大地しかない原野の真っただ中。
周りではあちこちで、魔物とかつて勇者や英雄と呼ばれた人々が戦っていた。
生憎、魔物も人も、ルーケ達は見えていないかのように振る舞っているが。
「そしてもう一つ。 始原の神として、お前も俺と同格として世界のために生きる。」
あからさまに予想外の選択肢を提示され、ルーケは戸惑う。
だが、師匠であった彼の顔を見るに、珍しく冗談ではないようだ、
「お前には残念と言うかなんというか。 第四の始原の神としての資格がある。 成りたいならならせてやるが?」
始原の神の一人である戦神アラム。
知神である兄は、第三の始原の神予定であった巫女シェーンと共に異界へと旅立ち久しい。
全知全能の神であった父親、原始の神から生まれ落ちた兄弟神。
その父親の遺産で作り上げた、不完全なこの世界。
時に手助けし、時に仇なす父。
その父が今回やってくれたのが、ルーケの正体の隠匿。
ルーケは魔力が無い、のでは、なかった。
魔力と言うのは、それぞれ許容量が決まっている。
普通の人間が洗面器なら、大賢者と呼ばれるような魔法使いはバケツと言うような具合だ。
だが、ルーケの場合は桁が違った。
ルーケは海ほどもあったのだ。
つまり、あまりに巨大な許容量のために、多少の水(魔力)では入った事さえわからなかった、と、言う事だ。
そのため常に空っぽの状態に見えたために、魔力が無いと思えたのだ。
しかも、吐出口が非常にでかい。
普通の初級魔法を使っても、メガトン級の威力と魔力消費量になってしまうのだ。
「で、どうするよ。 俺と共に世界に覇を唱えるか?」
師匠にそう言われ、ルーケは暫し躊躇したが、ハッキリと答えた。
「師匠。 僕はただの人間として、転生します。」
「だろうなぁ。 お前はそう言うと思ったよ。 まったく、親父もやってくれるぜ・・・。 さっさといけ。 冥界で後悔すりゃいいさ、まったく・・・。 俺のライバルは、いつになったら生まれるんだ?」
頭をボリボリと掻き毟りながらそうぼやくと、アラムは口の端を吊り上げ、皮肉っぽく笑った。
「お前なら好敵手になると思ったが、まあいい。 ただの普通の人間として、お前はやっていけ。」
そう言うと苦笑しながら姿を消し ルーケも迷わず冥界へと旅立って逝った。
こうして、勇者にも神にもなれた男は、平凡な人間としての生き方を選んだ。
彼は結局、常に少しずれていた。
後に勇者一行と言われたカナン達と、大なり小なり関わりながらも結局勇者にはなれなかった。
そもそも、最初の提案通り魔術師として生きていたら、彼は歴史に名を残した大賢者になっていただろう。
そして、自らが勇者としてではないが、その一行の一人として魔王も討伐していただろう。
アクティースを討伐する事も、アラムに見限られる事も無く・・・。
その全てを自ら切り捨てて、望みを叶えるべく突き進んだルーケ。
結局、彼はたった一人の、始原神の記憶の中だけで輝き続けるのだった。
愚者の舞いを、舞い続けて。
愚者の舞い 終わり。