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愚者の舞い 4-36

「その物の怪ってななんだ? ロスカ。」

「私も存じません。」

油断なく身構えつつラテルが聞くと、ロスカが残念そうに答え、代わりにルーケが答える。

「物の怪は名前を与えられ、寿命よりも長く生きた動物がなる魔物だ。 身体能力はずば抜けて高く、力こそ驚愕すべきものではないが、機敏さは目に霞むほどだ。 その他、特殊な魔法を使うらしい。」

「特殊な魔法って、どんなんだい?」

フーニスがダガーを構えながらそう聞くと、

「俗に言う自然魔法と言うものなんだが、精霊魔法とはまた違うらしい。」

馬から少し離れ、ロスカを3人が守るように囲み込んで陣取り、グレルことポシスを警戒する。

早々に撃退し、馬車を追撃したいところだが、相手が木の上にいては手出しのしようがない。

だが、ルーケは焦る心を落ち着けて、戦闘に集中する事にした。

たとえ離されたとしても、この物の怪を倒せば追撃は可能だ。

こちらはほぼ空身の乗馬に対し、相手は馬車。

旧街道は整備が余りなされていないので、全力で走っても元々馬車が重いために早くない上に悪路でさらに遅くなる。

それにフーニスがいれば、わだちなどを見て追う事ができる。

まずは眼前の敵を撃退する事が先決だと、腹をくくった。

「自然魔法? どんな魔法だい?」

「雨を降らせたり、地震を起こしたりと聞いている。 精霊魔法を広範囲にしたような魔法だな。 聞きかじり程度だから、あまり詳しくは無いんだ。」

ルーケの説明をクスクスと笑いながら聞いていたポシスは、ヒラリと木から飛び降り、音もなく着地して立った。

「なるほど、けっこう知っているのね。 でもね。 知識があれば、勝てるわけじゃない。」

そう言うと、シャキッと指の爪10本が伸び、姿が消え失せる。

「はい♪」

楽しげなポシスの顔がすぐ近くに忽然と現れ、咄嗟に引いた剣を激しく爪が叩きつける。

「グオッ!」

ポシスの斬撃をなんとか剣で受け止めたが、思いもよらないほど力があったために手が痺れる。

ポシスはわざとルーケの剣を爪で叩き、即座に宙返りをしながら後方に飛び、音も無く着地する。

「さて、誰から切り刻んであげようか? やっぱり一番年上のあんたかい? ルーケ。」

ルーケが一番年上と言われ、一瞬仲間達はキョトンとするが。

考えてみれば、実質生きた年数ならロスカが一番年長だが、産まれた年月で考えればルーケが確かに最年長だ。

「や、止めなさいグレル! あなたに私達と戦う理由は無い筈よ!」

ルーケへの斬撃で、咄嗟に助けようとして意識が戻ったパールがそう叫ぶ。

ポシスは一瞬キョトンとしてから、ニタリと笑った。

「確かに、あんた達に戦う理由は無いかもね。 ガキの誘拐だって私の管轄外だし、追撃を阻む理由も無い。 だから見逃してあげるか~なんてなるわけないだろ? 本当に馬鹿だねぇ、あんたは。 アハハハハハハ!」

「グレル! あなたは確かに腕は立ったけど、こんな事に加担する人じゃ無かった筈よ!」

「それは私の演技力の賜物さ。 あんたとグレルのやりとりは、けっこう前から眺めていたからね。 実に、騙しやすかったよ。 それにあんた、自分の父親の事も良く分かってないんだろ?」

「父親? 良く分かっているわ! 勇者の血を引く立派な人よ!」

「ククク・・・ア~ハハハハ! 本当にあんたは、ピエロだねぇ。 教えてやるよ、死ぬ前に。 あんたが立派と言う養父は、実に立派な男だよ確かに。 本当のグレルを地下室に監禁し、餓死するまで犯してたけどね。」

「な・・・!」

「勇者の血を引くなんてのも大嘘さ。 そういう触れ込みでオルーガの駒として商人として住みついたにすぎない。 まあ、元々は勇者の家系と言っても良いかもしれないけどね。 ただ、勇者の血を引く女と結婚した男の親族だけどさ。 その夫婦もろとも魔物に殺された時、唯一生き残った幼い息子から全財産を奪いつくし、放逐した一族の1人だけどさ。 アッハッハッハッハ! 元々が卑しいんだよあの男は! それを立派とか、本当に馬鹿だよあんた!」

「な・・・! 何を根拠にそんなデマを!!」

「嘘じゃないさ。 私が何年生きてると思っているんだい? だいたい勇者一行の大元の話、銀竜倒しだって誰がお膳立てしてあげたと思っているのさ。 ねぇ、そこの魔法使い。」

突然話を振られ、ロスカはギョッとした顔になる。

「この姿に、見覚えはあるだろ?」

ポシスがそう言って変身した姿は・・・。

「あ! まさか!?」

「フフフ・・・地竜の肋骨の剣に毒薬、役に立っただろう? さて、もう一つお前に真実を教えてやるよお嬢様。 あんたの本当の父親の事さ。」

「本当の・・・父親・・・?」

「そうさ。 あんたは父親が行方不明の時に母親が死に、プレリーに引き取られた。 そう聞いているね。 あんたの実の父親は、実はあんたが良く知ってる人物さ。」

「良く知って・・・いる?」

「そうさ。 オルーガって言うんだよ。」

「「「なに!?」」」

黙って話を聞いていたルーケ達も、これには驚いた。

「本人達の会話を聞いていたんだから間違いないさ。 さぁて、いつまでも話し込んでる場合じゃないね。 これから町に戻って、お宝を手に入れてこなくちゃいけないし。 手っ取り早くいかせてもらうよ。」

そう言いつつ再び木の上に飛び乗り、距離を確保したうえで短く素早く、呪文を唱える。

その途端、まるで雲海が流れて来たように濃霧に視界が閉ざされる。

「私の得意な戦法、とくと味わってくださいね。 ウフフフフ・・・。」

「やばいよルーケ! 素早い上にこの霧じゃ!」

フーニスが焦ってそう言うが、ルーケに名案があるわけではない。

霧をどうにかするには自然魔法か精霊魔法が有効だが、両方とも使い手がいない。

黒魔法使いのロスカは初級魔法しか使えないから、霧を吹き飛ばすほど威力のある攻撃魔法も使えない。

まさに、八方塞だった。

(一か八か・・・ラテルの言うようにするしかないのか・・・?)

焦りと戸惑いの中、ルーケは無念さをかみしめつつ、周囲の物音に集中する。

先ほど、パールとポシスが話している時、不意に尻を軽く叩かれた。

何かと思いつつ、視線だけラテルに向けると、同じようにロスカもラテルへと視線を向けた。

2人が自分を見た事を確認すると、ラテルはポシスから見えないように、クイッと空いていた左手の親指で、自分を指差し視線をポシスに戻す。

一瞬何を示したか理解できなかったが、理解できた時、ロスカと共に目を見開いた。

が、悟られては全てが無駄になると、ルーケもロスカもすぐにポシスに視線を戻しす。

だが、出来ればしたくは無いやり方だ。

そんなやりとりの直後だっただけに、話を振られたロスカは大げさに驚いてしまった。

フーニスもそのやりとりは見えていたらしく、だからこそ焦っているのだろう。

「ふん、可愛いもんだな、え? 雌猫ちゃんよ。」

ルーケ達が迷っている間に、ラテルは始めてしまった。

こうなったら、やるしかない。

返事の無いポシスの気配を掴もうと、フーニスとルーケは必死に神経を研ぎ澄ます。

ロスカは出来るだけ静かに、呪文を唱え始めた。

「人間は安定した生活と、いつ産まれても子供を育てる環境が整ったために発情期ってもんが無くなったそうだが、お前もその口か? だから男が欲しくてたまらねぇんだろ? いいぜ、こんな回りくどい事しなくても、俺が抱いてやるぜ。 可愛いもんじゃねぇか。」

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