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愚者の舞い 4-35

 不安を胸に、ルーケ達は静かに時が来るのを待った。

木々のざわめきが、これから何か不吉な事が起きると言っているようで不安になる。

「誰か来たぞ。」

ラテルが囁くようにそう言うと、ルーケもその存在に気が付いた。

町の方からゆっくり近付いて来るのは、複数の馬蹄の音。

人影は先頭に一人しかおらず、馬商人だろうか、と、ルーケには思えたが。

ともかく、今夜はここを通すわけにもいかない。

そもそも、こんな夜になる時間に旧街道を通るなどおかしい。

相手が驚かない程度の距離を置き、ルーケは街道に姿を見せた。

「すまない。 この先は今夜、通れないんだ。 悪いが引き返してくれないか?」

旧街道を通るのは、新街道を通れない何かしらのやましい理由のある人に限られる。

何かあった場合、即座に飛び出せるようにラテルとパールは身構え、ロスカはすぐに魔法を唱えられるように、使えて効果のある魔法の選択を脳裡でする。

ルーケの声に、馬上の人物は馬を止め、

「そう言われて、あんたは素直に引き返すのかい? ルーケ。」

「フーニス!?」

他よりも先に夜の訪れる森の中だけに、光も無いため顔も見えないが、まぎれも無くフーニスの声だった。

「あんたらも間抜けだね。 見事にオルーガの策略に引っかかっちまってさ。 今町は、ボットの娘が攫われたって大騒ぎだよ。」

「なん・・・だって・・・!!」

「あたしも詳しい話は知らない。 たまたま実行犯の話を聞いちまったから、こうして準備も出来たけどね。」

「実行犯に!? 何故捕まえなかったんだ!?」

「馬鹿かい。 相手が行動に移す前に、どうやって捕まえるのさ。 盗み聞きが証拠になるなら苦労はしないよ。 邪魔をしようにも、そこまでその辺で話してる馬鹿はいないし、あんたらは町中を無目的に動き回ってるから探し出すのも安易じゃない。 仕方が無いじゃないか。 後は雇われた連中に期待するだけさ。」

そう言いながらも、襲撃者の情報を伝えたのはフーニスだ。

皮肉にも、それが原因で拉致を許す事になったが、分る筈もない。

「じゃあ、急いで戻らないと!!」

「あんたね・・・。 戻ってどうするのさ。」

「どうするって・・・。」

「いいかい、あんた達はオルーガに依頼を受け、交替を早めてまでここに来た。 ボットの娘達が誘拐された時間は、本来はまだ、あんた達が警邏を担当してる時間だよ? 誘拐犯の仲間以外、何に見えるのさ。」

「それを説明して」

「拷問にあった末に潔白を? 冗談じゃないよ。 潔白になんてなるもんかい。 シーフギルドをなめてるんじゃないかい? 白を黒と言わせるのが拷問なんだよ。」

「でもそれじゃぁ・・・!」

ルーケがそう言いかけた途端、町を迂回して来たのであろう、森の入口脇から猛烈な勢いで走って来る馬車があった。

目印のランプ2個も、ハッキリと見てとれる。

間違いなく、オルーガの示した馬車だ。

「止まれ!!」

ルーケは咄嗟にそう叫び、前に飛び出そうとして・・・ラテルに首根っこ掴まれて阻止される。

「な、何をしているんですかラテルさん!!」

隠れながら話を聞いていたパールが、思わず身を起こし叫ぶ。

「無駄死にしたいのか? お前が飛び出したって止まらねぇよ。 だからフーニスが用意してくれたんじゃねぇか。」

「神に啓示された勇者は、そんな事では死にません! 驚いて止まった筈です!!」

「今はお前の信仰に付き合ってる暇はねぇ! ルーケ!!」

「ああ、追うぞ! すまんフーニス!!」

「馬の金であたしゃすっからかんだよ。 後で払っとくれよ?」

「当然だ!」

ルーケ達はそれぞれ馬に跨り、馬車を追撃しようとしたが。

「お待ちください、パールお嬢様。」

そう言って、グレルが馬車の走り去った方向から姿を現した。

もっとも、明かりが無いので声とシルエットしか見えないが。

「その声はグレル!? 何故ここに!?」

「お嬢様、それにルーケ様。 あなた達はここを守るのが役目の筈です。 何故持ち場を離れるのですか?」

「グレル! そこをどきなさい! 私達は!」

「いけません、お嬢様。 冒険者と・・・」

「ラテル! その女を切り捨てろ!」

ルーケが苛立たしげにそう言うと、ラテルは一瞬躊躇はしたが、すぐに抜剣して斬りかかった。

だが、グレルはスッと身を横に移し、華麗にかわした。

「なに!?」

ラテルは驚き、己の剣とグレルを交互に見る。

不意打ちに近かったのにかわされる、そんな剣を振ったわけではない。

ルーケが言う以上、何か理由があると信じて、せめて苦しまないようにと必殺のつもりで剣を振ったのだ。

その剣が、余裕でかわされた。

「明かりよ!!」

ロスカが素早く呪文を唱え、暗闇を魔法の光りが照らし出す。

そこには、紛れも無いメイド姿のグレルが立っていた。

「あなたは何か、ご存じのようね? 勇者様?」

「ああ。 プレリー邸に放った密偵グレルが、結構前に行方不明になったとな。」

「あたしもその話は、ギルドで聞いたね。」

フーニスがそう追随すると、パールは唖然とし、グレルはニコッと笑った。

「他には何か、聞いていますでしょうか?」

「いや。 だが、それだけで十分だ。 お前、何者だ?」

「そうですか。 では、そちらのお嬢様に私が啓示し、あなたに付き添わせた事はご存じないのね。 フフフフフ・・・アッハハハハハ!!」

「な・・・!」

絶句するパールだが、驚いたのはルーケ達も同じだ。

「お前が・・・啓示?」

「そうさ。 その娘に夢見でね。 滑稽だったよ、翌朝のその娘の喜びようは。 私がどれだけ笑うのを押し殺すのに苦労した事か。 『聞いてグレル! 私に勇者様ができるのよ!』だってさ。 堪え過ぎて、はらわたがねじ切れるかと思ったよ。 ククククク。」

「夢見・・・変身・・・。 お前、物の怪か!」

「おや、流石始原の悪魔の弟子だけはあるね。 で、それが分った所でどうできる? 私を倒せるとでも? まあ、それも一つの手だね。 今あんたらを返り討ちにし、町にとって返せば宝剣エフォートは私の物。 オルーガの奴は外れを掴んで手を出せず、間抜けなプレリーは人身御供で処分され、ボット一味は事後処理に忙しく、取り戻して安心している娘には気が向かないだろうさ。」

「そうはさせない。 お前をこの場で、倒す。」

ルーケはそう言いながら馬を下り、すかさず抜剣する。

仲間達も馬から降り、それぞれ武器を構えた。

ただ1人、パールを除いて。

あまりに驚愕の真実を知り、放心状態だったためだ。

「馬から降りたのは利口だね。 でも、私の動きについてこれるかい?」

そう言うなり、グレルは近くの木の枝に素早く飛び乗った。

その跳躍力は、軽く4mはあった。

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