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愚者の舞い 4-32

「あのねぇ。 パパが帰って来たら、遊びに行けるじゃん。 今出て行っても後で怒られるだけ。 そんなの嫌。」

「約束守らないママが悪いんだもん! ね~、行こ~よ~!!」

この当時、ミリアは素直で、親や周りの大人が言う事を良く聞く素直な子だった。

カナは素直ではあったが、時々スイッチが入る事があった。

そうなると、頑として言う事を聞かないし引かない。

それでもいつもは、ミリアが嫌がれば最終的には諦めていたのだが。

ミリアは暫く渋っていたが、片付けが終わったらと約束し、部屋を綺麗にしてから部屋を抜け出した。

護衛についていた人々も2人は顔を知っている。

だから見つからないように抜け出す事は簡単だった。

侵入防止も中から出る者には効果は無く、また、護衛もターサも侵入者や襲撃者を警戒する事に集中していたため、抜け出る方を警戒していなかったのだ。

こうして2人は、難なく抜け出す事に成功した。

「おい、どうする? なんか、向こうから出て来てくれたが。」

「決まってんだろ。 付けるんだよ。」

しかし、影は見逃さなかった。


 その数時間前。

「で、どっちを攫うんだい?」

「落ち着けよジラーニイ。 まったく、欲求不満なんじゃねぇのか?」

「馬鹿言うんじゃないよ。 そんな気遣いして無料ただで私を抱こうって魂胆だろう? その手にゃ乗らないよ。 やりたきゃ金寄越しな。」

「馬鹿言え淫乱女が。 金貰ってもお前なんざ願い下げだぜ。」

「なんだってぇ!?」

「なんだよ!?」

「やめんかぁ!!!!」

バールに一喝されて、ジラーニイとソルダが不満気に口を塞ぐ。

「もっと優秀な後継者が欲しいのは分かるが、落ち着けジラーニイ。 慌てて仕損じては命が危ない。 相手はシーフギルド幹部なんだからな。」

「分かってるさバール。 で、どうすんだい? 私はどっちでもいいけどね。 見た目はどっちもどっちだし。」

「そりゃ双子だもんよ。 似てない方が珍しいだろ?」

「ソルダも茶化すな。 だがそうだな。 いい加減結論を出さねばな。 ソルダ、お前ならどっちを選ぶ?」

「俺は子供に興味がねぇ。 どっちでも構わん。」

「なら、長女に決まりだ。」

バールの一言で、ジラーニイは眉根を寄せる。

「その根拠はなんだい?」

「簡単な話だよジラーニイ。 封印が受け継がれると言う事は、何代にも渡って受け継がれていかなければならない。 だが、2人目以降が生まれるとも限らない。 ならば、さっさと1人目に受け渡す筈だ。」

なるほど、と、2人は納得する。

「だが、万が一と言う事がある。 ジラーニイはあくまで長女を。 ソルダは監視を継続しつつ、隙が出来次第次女も攫え。 俺は馬車で待機し、運び込まれて来た方から魔法で探知してみる。 もし外れたら、その時はその時だ。 報酬半分で諦めるしかない。 いいか、ぬかるなよ?」

2人は無言で頷くと、馬車から出て闇へ消えて行った。

犯罪と言う、闇の中へ・・・。


 2人は暫く進むと、ミリアが立ち止った。

「で、どこ行くの?」

「う~んとね~・・・川に行こ?」

そうカナが提案すると、ミリアは物凄く嫌そうな顔になった。

「川・・・かぁ。」

「いいじゃない、行こ! ねぇ、川に遊びに行こうよ!」

何故か判らなかったが、無性にカナは水遊びがしたかった。

この日、何故かいつもよりカナは強引だった。

なんでこんなに自分を抑えられなかったのか、後日、どんなに考えても分からなかったが。

とにかく、強引にミリアを引っ張り、カナは川まで遊びに来た。

来てしまえばミリアもやはり子供で、打って変わって水遊びに専念する。

2人は時間が過ぎるのも、また、完全に監視の無い解放感からも、自由気ままに遊び始めた。

そして、影はそれを待っていた。

「いいかい、ぬかるんじゃないよ。」

「おい、ジラーニイ。 一辺にやっちまった方がよくないか?」

「馬鹿かいあんたは。 罠かも知れないだろ? こんな無防備に獲物を曝け出す馬鹿がそういると思うかい? 予定通り、あんたはまず周囲の警戒をするんだよ。 いいねソルダ。」

「へいへい。」

ソルダは肩を竦めると、やる気がなさそうにそう答えた。

「行くよ。」

人気が無い事を確認し、ジラーニイは仲間にそう声をかけて前進した。

遊びに夢中だったミリアもカナも、ジラーニイ達が近付くまでまったく気が付かなかった。

不意に人の気配に気が付き、迎えが来たかと2人が顔を上げた時には遅かった。

今、ミリアが作ったばかりの砂の山を蹴散らし、見知らぬ男がミリアを抱えて駆け出したのだ。

「おねーちゃん!!!!」

1人取り残されたカナは、何が起きたか分からないまでもそう叫んだ。

ミリアは抱え上げられると同時に何か嗅がされたらしく、意識が無いようでグッタリしている。

ただその首にある、先日の誕生日に自分が送った手作りのネックレスが、揺れていた。

「おねぇちゃん! おねぇちゃ~ん!!!!」

とにかく泣き叫びながら、必死に追いかけた。

石に躓き倒れ、もう追いかけられないカナの視線の先。

遠ざかる数人の大人と、小脇に抱えられた姉ミリア。

嫌だって言ったのに。

今日は嫌だって言ってたのに。

嫌がるミリアを自分が無理言って連れて遊びに来て、そして、ミリアは攫われた。

絶望と後悔がカナを支配し、倒れたまま動けなかった。

そこへ、横合いから駆けて来る足音が聞こえ振り返った。

ミリアを助けて!

そう言いたかったが、言えなかった。

必死の形相で、駆けて来るのは見知らぬ戦士。

カナは直感で、敵だと悟ったのだ。

完全なる絶望に、カナは自分も連れて行かれると思いこみ、諦めた。

それでも、ミリアと同じ場所に連れて行かれ、一緒にいられるなら・・・と。


 ソルダはあまりにも上手く事が運んでいたため、逆に不安になった。

警戒していた家から2人が抜けだし、無防備な状態で遊びに夢中になっている。

しかも姉と妹が見分けられやすいように、首飾りまでしてくれている。

ジラーニイ達が飛び出し、姉の方を攫ったのを確認し、素早く周りを見渡すがやはり誰も妨害しようとはしない。

次は自分の番。

姉のミリアを攫うために重きを置いていたため、妹のカナを攫うのは自分しかいない。

それでもこれで失敗したら、後で何を言われるか分らない。

カナ目掛けて飛び出しつつ、ソルダも手に持った布に薬品を染み込ませながら、全力でカナへと迫った。

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