愚者の舞い 4-30
魔王戦争終結後、百年の年月を経て、アラムの息子、現魔界王アルーガが、魔王として自然界に降臨した。
数々の悲劇と災厄を巻き起こし、人々は前魔王アラムと共に、双璧の悪魔と恐れた。
各王国もそれぞれ騎士を費やし抵抗はしていたが、魔軍を駆逐するには至らなかった。
そんな中、大陸中央に位置する、帝国にある神殿にいたアラムの娘でアルーガの妹の巫女王が、選りすぐりの冒険者を魔王の籠るデュナミスの洞窟へと派遣した。
数々の罠や魔物との戦いで命を落とす冒険者達だったが、生き残りの6人、忍者もどきのタケ、クウォーターデビルのブルー、バードマンの娘ぱっち、小人族メターの娘スナ、エルフの姫ミュウ、人間の女戦士ゆうが、ついにアルーガと決戦を迎えていた。
そこへ、天界から天王の命を受け、黄金竜の娘まりんこが駆けつけ、巫女王を辞めて後から追いかけた元巫女王と、その昔、冒険者仲間だった妖精みはっちが加わり、激しい戦いを今、繰り広げているのだ。
三本の剣と一本の槍が繰り出され、アルーガはその全てを避け、受け、弾く。
その背後からは魔法と弓矢の援護が飛び、誰かが傷つけば即座に回復魔法が飛ぶ。
激しい戦いが繰り広げられる広い空間で、アルーガは嬉しそうに剣を振るっていた。
「久しぶりに楽しいぞ!! これだ! 戦いだ!!」
ドババキン!! ブゥンと一薙ぎで最前線の4人が斬られて吹っ飛ばされる。
ぱっちとブルーとタケとゆうは即座に跳ね起き、元巫女王の回復魔法が飛び、タケに追撃しようとしたアルーガに攻撃魔法が飛んで足を止め、そこに再び回復した四人が斬りかかる。
ブルーの振り下ろされた剣を受け止め、動きの止まった瞬間に蹴り飛ばして背後から突っ込んできたタケにぶち当ててその攻撃を潰し、頭上から突き下ろされたぱっちの槍を開いてる手でガシリと掴むとそのままぱっちごと振り回してゆうにぶつける。
前線が崩れた瞬間飛んで来たミュウの矢をちょっと横にずれて避け、スナの放った魔法の矢を剣で粉砕し、平然と立つアルーガ。
「レーザーアロー♪」
シャコーーーー!!!!
掌サイズとは言え、自らの体より太いレーザーをみはっちが解き放つ。
その魔力の奔流たるレーザーを、瞬時に構成した魔力の盾で受け止め消滅させる。
「ルアラーーーー!!!」
まりんこが理解不能な叫びを発した瞬間アルーガが飛び退き、今まさにいた空間に六角形の水晶の檻が組み立てられて砕ける。
そんな戦いを、2人のアラムは静かに見守っていたが。
「なあ。」
「ん?」
「こいつらだろ? 祭りの主役は。」
「そうだ。 楽しめそうだろ?」
「・・・そうか?」
「ああ、まだ力不足だがな。 だが、天王・冥王・妖精王には既に打診してある。 これから鍛えればいいさ。」
「そうか。 どうしてもやるんだな? 祭りを。」
「ああ。 お前の世界ではどうか知らんが、こっちはもう限界だ。 兄貴とシェーンだけでは支えきれない。 異界の弁を補強しないとな。」
世界の構造は共に同じ。
シェーンと兄神バーセが、人間の英雄の魂の代わりに自ら弁に成ったのも同じ。
英雄が足りなければ鍛えて作ればいいと、かつてアラムは主張したが、バーセは聞き入れる事無く異界へと旅立ち、シェーンも後を追った。
「そうか。 まあ、俺もこの状況ならそう選択するなって、本人だから当たり前か。」
「そうだな。 そっちこそどうなんだ? 親父が悪さしているようだが。」
「まあ、悪さと言うか悪戯と言うか。 馬鹿弟子利用して、遊んでやがる。」
「滅ぶのか?」
「いや、そのつもりはないだろうな。 恐らく、お前が今やってる事を、親父が俺達にしているんだろう。 と、思う。」
「そうか。 ある意味羨ましいな。 こっちは猛る一方でおさまりゃしねぇ。」
「お互い、忙しいよなぁ。」
「それが運命、か?」
「さてなぁ?」
「さて、そろそろ決着がつきそうだ。 メフィストの悪ふざけを成功させるわけにもいかんし、俺は行くぜ。」
「ああ、元気でな。」
「お前もな。」
それぞれ異世界の自分に笑顔でそう言うと、この世界のアラムは姿を消した。
後に残されたアラムも、戦いの行く末を見る事無く、姿を消したのであった。
フーニスは目覚めると、置いてあった水差しからコップに水を注ぎ、一気に飲み干した。
昨夜はかなり飲んでしまったために、今日は流石に二日酔いだ。
頭がズキズキと痛み、吐き気がする。
(結局、始末には来なかったか・・・。)
と、言う事は、自分の勘が外れたのだろうか。
ともかく、生きている以上行動を起こさねばならない。
と言っても、今さらルーケ達に合流する気も起きず、1階の食堂で軽い朝食を食べて、再び横に成る。
個人的な財産はけっこう貯めてあるので、数ヶ月滞在しても問題は無いし、ともかく、二日酔いを治さないと何をするにも支障が出る。
一寝入りして昼過ぎに目覚めた時、かなり二日酔いは収まっていた。
する事も思いつかないので、昼食がてら市の方へを向かい、なんとなく普通の食堂に入って品を注文する。
朝はあっさりだったため、かなり空腹だった。
「まったく、ヒヤヒヤさせるなよジラーニイ。 ドタキャンかと思ったぜ。」
届いた昼食に一口口を付けた途端、1人の若い戦士と、一目でジプシーと分る娘が食堂に入って来た。
「すまないね。 ちょっとサービスしてやったら、なかなか帰してくれなくてさ。」
「あの親父も好きもんだな。 勇者の末裔じしょ」
「シッ。」
軽口叩く戦士を鋭く制止し、2人は開いていた奥の席へついて注文をする。
(・・・勇者の末裔? このノウムじゃ、あのプレリーしかいない筈だけど・・・。)
フーニスは平然と食事をしながら、全意識をこの2人へ向けた。
ベテランシーフのフーニスは、普段と全く同じ動作をしながら聞き耳を立てる事ができる。
フーニスはあまり目立たないが、幹部クラスの実力があるのだ。
養父さえ欲望に負けて育て方を間違えなければ、すでに帝国シーフギルドの幹部だったのは間違いあるまい。
冒険者に重きを置き、ギルドにあまり貢献していないから、実力はあれども優遇されてはいないが。
「首尾に間違いはないかい?」
食事をしつつ、小声で話す2人の会話は、鍛え抜かれたフーニスには良く聞こえていた。
周りには家族連れなどの客もいるし、市場に面している食堂なので、静かではないのだが。
店舗を構える店が多くなったとは言っても、まだそれなりに市場に活気はあるのだ。
「ある筈もない。 例の冒険者も雇ったと聞いたし、あとは・・・だな。」
「ま、いざって時はあんたが頼りだけどね。 頼むよ? ソルダ。」
「へいへい。 しっかし、バールの奴、何を考えてこの依頼を受けたんだろ。」
「金だろ。 あんただってそうじゃないのかい? あたしは少なくともそうだよ。 もっとも、後継者も欲しいからだけどね。」
「あんたは産めないからな。 あの二人、見込みがあるのか?」
「なきゃ捨てるだけさ。」
(ジラーニイ、ソルダ、バール? ギルド員じゃないね。)
サインをさりげなく出し念のために確認し、フーニスはさらに意識を集中した。