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愚者の舞い 4-29

 召し使いたる巫女に夜の挨拶をし、ボニートは自室へと入って服を脱ぎ捨て、本来の姿に成る。

始原の双子神の子供は、二十歳前後の一番美しい年齢で肉体の変化は止まる。

その子である神々と人間などが交わり子をなせば、相手の種族よりは成長が遅い程度で、寿命も長くはなるが普通に年を取る。

理屈は分らないが、そうなっていた。

ボニートは、本来の姿では魅了フェロモン全開に成ってしまうので、普段は7歳程度の童女に姿を変えていた。

これは時間を遡る魔法で成しているため、けっこう疲れるのだ。

やはり、大人の姿の方が気楽だし、落ち着く。

そのため庭園など、公共の場に出ない限り、フェロモンを抑えるティアラをして本来の姿でいるのだが。

今日は天王の宮廷で、定例議会があったので出席していたために童女の姿だった。

子供の服のまま大人になると首が絞まってしまうので、先に脱いだのだが。

「いきなりストリップとは、目のやり場に困るな。」

天蓋付きのベットに腰掛けてそう言う、1人の若そうに見える男。

「そう言いながら、目を逸らしもしないのは誰ですか。」

ニヤッと笑う父親に対し、クスリと笑って答える。

慈愛と共に娼婦も司ると言われる女神は、裸体を見られてもなんとも思わない。

相手を癒すため、求められれば性的関係も慈愛心で行うゆえに。

「今日はどうしたのですか? ベットに腰掛けているとは珍しいですね。 お相手を御所望ですか?」

「ちょっと出かける前に顔を見に来ただけさ。」

そう言うと、勝手にベットに横に成ってしまう。

何か疲れているようだと、ボニートには思えた。

「1つお聞きしてよろしいですか? プリが転生したと聞きましたが・・・?」

「俺は関与してねぇよ。 なんでも冥王が勧めたそうだがな。 まったく、あんだけ苦労して悲しんで、挙句に実らぬ恋と思いつめて死んじまったってのに。 女心は分らんなぁ、こんだけ生きて来ても。」

「アクティース殿も死に、ミカと言う巫女に命を託しましたが・・・。」

「あれはなぁ・・・。 馬鹿弟子が勘違いでしでかした事だし、断る口実も無いしよ。 仕方ねぇわな。」

「勘違いですか?」

「そうだ。 あいつはアクティースが寿命で死んだら、巫女達も後を追って自殺すると思ってたんだ。 確かに太古の人間は、慕う王の後を追って自殺する風習が一部あったけどな。 なまじ脚色などの無い文献ばかり読んでいたために、知識が先行して思い込んじまったようだ。」

「そうですか。 彼はいったい、どこへ世界を導かれるのでしょう。 今日の議題にも上るほどでしたが・・・。」

「どうでもいいが、全裸のまま立ってないで来いよ。 たまには親として添い寝してやるぜ。」

ボニートはちょっと面喰ってから微笑むと、遠慮無く横に寝そべった。

男性の肌の臭い、どれだけ久しぶりなのだろうか。

不意に、人肌恋しく感じられた。

「・・・あいつは、今や世界を破滅へと動かしている。」

「破滅へ・・・。 回避は出来ないのですか?」

「もしあいつが、次元の書庫で銀竜の事を詳しく調べていたら、今の事態は無かった。 竜巫女は一心同体、あるじたる竜と運命を共にする事も分った筈だからだ。 それを知っていたら、それなりに対策はあったんだ。 それに、あいつに係わったために、あいつも死ぬ運命になったのかもしれん。 もっとも、あいつに係わる前に命運が尽きる運勢が出ていたから、確実ではないが。」

「彼女と彼、それが何故破滅へと繋がるのですか?」

「アクティースはメガロスと共に、自然界に流れ込む精霊の力を吸収して生きていた。 水に例えれば、湧き出た水は川となり集まり、滝などを経て海へと注ぎこむ。 精霊界から自然界へと注ぎこまれた精霊は、本来受け皿に成る海が無いんだ。 それを、アクティースとメガロスが吸収して調和がとれていた。 その均衡が崩れる事自体、破滅への1歩になりかねないのさ。」

なるほどと、合点がいく。

これらの理由があったために、天王もミカの存在と、儀式の時間を認めざるを得なかったのか、と。

もっとも、天王の使者として儀式の前に殴りこんでまくしたてたファソリを、「煩い。」と、問答無用で天界宮廷にテレポートしたためにああいう事態になったわけだが。

その後訪れた自分は、追い返されはしたが簡素に説明された。

「今や、世界の運命はあいつを中心に渦巻いている。 シダの奴がチョコチョコと手出ししているが、防波堤に成るのかどうか。 あいつに係わるだけで、どんな力の持ち主も死へと追いやられる。 そういう運命に捻じ曲げられちまうんだからたちが悪い。 しかも確実にそうなるわけじゃないから、天界も手出しを控えちまう。 まったく、親父も性格悪いよなぁ・・・。」

「え?」

「いや、なんでもねぇ。 お前は明日も議会があるんだろ? ゆっくり寝ろよ。」

「・・・出席する義務は、私だけではない筈ですが?」

「欠伸が出る阿呆の戯言に付き合っていられるかっての。 こちとら忙しい身分なんだ。」

確かに、眠くなるようなくだらない内容は多いが。

「・・・朝まで、居てくださいます?」

ベットはダブルより広いので、不便はない。

「お前がそう望むなら、そうしよう。」

「では、望みます。」

そう言ってクスッと笑うと、父親は苦笑いを浮かべた。


 洞窟の入口の前に立ち塞がり、忍者と侍達を気絶させ、瞬間移動させたのち、アラムはクルッと振り返って自分と全く同じ風貌の相手に向き直った。

「よう、俺。」

相手はニヤッと笑うと、

「よう、俺。」

そう返して来た。

「久しぶりだな。 何か用事か?」

「いや、用事と言うほどでもないんだが、こっちの状況を見にな。」

「そうか。」

2人は共に、名前をアラム・ヤウンデンと言う。

共に同じく、天界第8軍将の地位にある。

これがどういう事かと言うと、2人共同一人物と言う事だ。

と言っても、全く同じではない。

なぜなら、2人は別次元、つまり、パラレルワールドの自分なのだ。

ユグドラシルと共に次元を渡り歩いていた時に知り合った、もう一人の自分。

他にも何千と言う自分に会ったが、妙に気が合い馬の合う自分は彼だけだった。

そのため、時々互いに会いに来るのだが、同じように世界を作っても微妙に違いは出るという面白い結果の確認をしに来ていると言っても間違いではない。

たとえば子供。

方や1人息子しか産まれなかったが、こちらは息子と娘。

その息子も、同じく力を求めて魔界へと行ったが、今、魔王として自然界に降臨している。

そして今、この洞窟の奥で、彼の気に入った冒険者達と激戦を繰り広げていた。

忍者もどきの指示の下、小人族メターの少女が魔法を唱え、有翼人種バードマンの娘の槍が繰り出され、若い黄金竜の娘が火炎を吐き・・・。

「手助けには行かんのか?」

「まさか。 全滅でもすれば助けてやるけどな。 あいつの討伐はまりんこ(黄金竜娘の名)の仕事。 俺の仕事じゃねぇし。」

そう言いつつ、2人はしっかりと戦いの行く末を遠見の魔法で見ていた。

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