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愚者の舞い 4-28

「なんでも分るほどではないが、それなりに分る。」

「なら、分る筈だ。」

そう言われても、何が何やら。

改めて夜空を見上げつつ、ショコラは自分自身に呆れてもいた。

なんで魔界の斥候であるシダに、協力しているのだろう?

そもそも、何故こいつは私と共にいるのか?

もう何度目になるか分からないが、そう思いつつ空を見上げ、星を見つつ・・・。

「・・・? あっ・・・!」

「分ったか? 今や世界はあいつを中心に」

「ポシス! そんな・・・。」

「ポシス?」

動揺した声をあげたショコラに、珍しくシダが振り向く。

ルーケの部屋が見える向かいの家の屋根の上、そこに小さい結界を張っているので、ル-ケに声が聞こえたり姿が見える事は無いが。

「ポシス・・・お前の部下だったか? それがどうした?」

「・・・風前の灯に・・・何故だ・・・?」

茫然とショコラが呟くと、今度はシダが呆れたように鼻を鳴らした。

「フン。 ネコマタ如きで。 あいつに運命が巻き込まれたんだろうよ。」

「あいつ?」

「本当に気が付いていないのか? 今、あの男が、世界の中心にいる事に。」

「世界の・・・中心?」

ショコラはアクティースを倒した直後あたりから、世界がどうなろうと興味が無くなっていたので星など見てはいなかった。

だから、変化など特に気が付かなかったのだ。

「そうだ。 親父に弟子入りし、子弟に成った事で世界の運命はあいつによって歪み、変動している。」

「だから・・・注目し、手出ししていると?」

「そうだ。 あいつを蚊帳の外に出さねば、世界が滅びる。 この自然界を滅ぼすのは我らで無くてはならん。 だから、手出しをしているのだ。」

「・・・おかしいではないか?」

「何がだ?」

「そんな輩、なぜ始原の悪魔が放置しているのだ? まがりなりにも世界の管理者なのだ。 そんな存在を放置しているなど、おかしいではないか?」

そう言うと、いつもは無表情なシダが複雑な表情になった。

「・・・あいつは、恐らく関与しない。 させてもらえないのだろう。 あいつは万能ではないからな。」

「させてもらえない・・・? どう言う事だ?」

「言葉のままだ。 とにかく、お前の介入で仲間としての意識を再び持った筈だ。 後は、成るようにしかなるまい。 私としては、世界を崩壊させる事無く立ち塞がって欲しいがな。 そうすれば・・・遠慮無く始末できる。」

そう言ってクツクツと笑うと、シダは姿を消した。

「今さら世界などどうでもいい。 ポシス・・・どうすれば・・・?」

ショコラは1人残され、暫し考えにふけるのだった。


 プレリーはベットの激しい軋みに、壊れるのではないかとヒヤヒヤし始めた。

それほど、ジラーニイの腰使いは激しかったのだ。

ジプシーは特定の国に係わる事の無い、放浪の民族をさす。

占いや踊り子などで有名だが、娼婦としても有名だ。

特にジプシーは婚姻と言う制度が無いため、男女共に奔放な民族である。

もっとも、ジプシーに限らず、望まれれば踊り子が雇主の夜のお供をするのは普通ではあるのだが。

ただ、ジプシーの場合は国家と言う庇護下に無いため、自分の身は自分で守らなければならず、特定の居住地を持たないために財産もあまりない。

そのために金持ちと知り合い、縁を持つのは死活問題であった。

ポシスはネコマタであるがゆえに、耳も良く、聞き耳を立てているわけではないが会話から物音まで良く聞こえていた。

ただ、感覚が違うためにどうとも思いはしないが。

「人間って、年中発情してるって言うけど、本当だねぇ。 さて、明日の晩の下ごしらえでもしてこよう。」

ニヤリとして呟き、ポシスは猫本来の姿に成って、ヒラリと壁の上に飛び乗った。

満天の星空が、とても美しく感じる。

月の力も、良く感じる。

ポシスはご機嫌の鳴き声を一つ上げると、闇夜の中に飛び込んで行った。

ポシスは占星術を、ほぼ知らなかった。


 フギャ! フギャ! と言う短い泣き声が館に響き、待機していた召使いやメイド達は安堵の息を吐き出した。

「産まれたようだな。」

突然背後からそう声をかけられ、プリンは文字通り飛び上がった。

「ご主人様! 驚かさないで欲しいですの!!」

「驚いたプリンが見たかったのさ。」

ニヤッと笑ってそう言われ、プリンはふくれっ面に成る。

「意地悪ですの。」

「悪魔だからな。」

即座にそう返され、反論しかけて口をつぐむ。

それは自分もだと言いたかったが、人間の医者がすぐそこの部屋にいるのだから言うわけにはいかない。

そんなプリンに構わず、プレシャスは平然とその医者のいる部屋に入って行き、相好を崩した。

「おめでとう、キュエーシス。 しかし、世にも珍しい赤ん坊の誕生だな。 ハーフダークエルフは魔界でも珍しかろうよ。」

「あなたの庇護下で産む方が、珍しいと思うが?」

疲れ果てた面持ちながら、気が強いのは変わらないらしい。

思わず苦笑いが浮かぶ。

「まあ確かにな。 俺は出産や安産の守護神じゃねぇから。 さて、あいつとの約束の一つはこれで果たしたわけだが、出て行きたくなるまでいつまでも居ていいぞ。 正直、お前が出て行くと、なおさらあいつが頑張っちまうから出来れば居てほしいが。 ところで名前は決めたのか?」

「・・・リーフ。」

「リーフ?」

「ダークでもエルフらしいですの。 葉っぱですの。」

横からヒョコっと顔を出してプリンがそう言うと、キュエーシスはニヤッと笑った。

エルフは森の妖精だけに、木や動植物関係の名前が多いのだ。

ウッド(木)とかリーフ(葉)、ウルフ(狼)など。

「いや、こいつの事だから違うだろうな。 古代エルフ語で岩礁という意味じゃ無かったか?」

そう言うと、キュエーシスは笑みを浮かべたまま頷いた。

「岩礁・・・ですの?」

「そうだ。 恐らく、荒波にも動じる事無く不動で居てほしいと言う願掛けだろう。 お前らしいな。」

「私の娘が、ひ弱では困るのでな。」

「そういや性別を聞いていなかったな。 ま、母娘共に元気でいてくれ。 俺はちと、出かけて来るがな。」

「今度はどちらへ行くんですの?」

「天界と、俺に会いに。」

そう言うと、キュエーシスはキョトンとし、プリンは複雑な顔で頷いた。

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