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愚者の舞い 4-27

 フーニスが酔いに身を任せて夢の世界へ入った頃、ラテルはフーニスと出会った頃を思い出していた。

あの頃はまだ街に活気が満ち溢れ、ラテルはまだ冒険者に専念していなかった。

なぜなら、その頃の帝都は戦争が多く、冒険者が活躍する場所が少なかったためだ。

そもそもラテルが冒険者になったのは、フーニスに魅かれたからだ。

それまでは、物心ついた頃から傭兵だった。

4大国に並ぶ領土を占領した帝国は、約70年と言う歳月を経ても、まだ完全に平定しきれてはいなかった。

あっちで反乱が起き、やっと平定すれば今度はこちらでと、休む暇も無いほど。

そんな中、やっと帝都に凱旋し、貯まった金を使って遊ぼうと傭兵稼業を一旦休み、暫らく休暇を取ったその初日。

色街へ繰り出したその時、フーニスに出会った。

娼婦の立ちんぼが立ち並ぶ中、たった一人だけ媚びも誘惑もせず、睨みつけて来たのだ。

「おいおい、娼婦が睨んでどうする。 もっと愛想よくするもんだぜ。」

ラテルがニヤッと笑ってそう言うと、

「あん? 金貰って股ひらいときゃいいんだろ? 顔なんて関係ないだろ。 売ってやろうか?」

いかにもつまらんと言いたげな顔と声でそう言い、フーニスは聞えよがしに溜息をついた。

「あのなぁ。 買ってもらわなきゃ金にならんし、困るのはお前だろうが。 買ってもらうために媚を売るのが娼婦だろうよ。」

「生憎あたしは、娼婦以外でも食っていけるからさ。 どうしても買って欲しいわけじゃねぇよ。」

その反抗的な態度が変に気になり、結局ラテルはフーニスを誘って酒を飲みに繰り出した。

安居酒屋ではあったが、本当は飢えていたらしく食べる食べる。

そこで冒険者になりたいと、話をしているうちに馬が合う事に気が付いたフーニスは、酒の力もあり気安くそう語り始め、ラテルもその気になっていった。

傭兵の合間であったが、何度かフーニスと依頼をこなすうち、傭兵より冒険者の方が面白くなってきた。

そして、帝都では仕事が少ないので西の王国へ移動し、専業とし始めた時にルーケに出会ったのだ。

「あいつは、今も昔も変わってねぇなぁ・・・。」

互いに年を取り、80年もの年月を超えてしまった仲間。

ラテルはフーニスの性格をよく知っていた、だからこそ、探しに行かなかった。


 ロスカは暫らく読書をしたのち、ベットに横になった。

フーニスの事を考えているうちに、もう生きている筈も無い妻の事を思い出す。

ロスカは元々、ある小国の貴族の次男として産まれたため、成人と共に家を出なければならない存在だった。

大概の貴族の子息は、その王家の騎士になるのがほとんどだったが、ロスカは体が丈夫な割に争い事を嫌い、勉強が好きだった。

そのため、魔術師の道を選んだのだ。

最初、魔力がほとんどない事を知った時は打ちひしがれ、見事にやさぐれた時期があった。

何度も親と兄に迷惑をかけ、最終的に勘当された。

争い事は嫌いだったロスカが、慣れない剣を使って人を害し、母国にもいられなくなった。

仕方なく各地を放浪し、やがて西の王国に辿り着き、魔術研究所の存在を知った。

魔法を使うのが魔術師だが、研究なら。

そう思い立ち、必死に懇願して一員に成れたのだ。

ただ、順風満帆というわけにはいかなかった。

魔力の少ないロスカは、魔法を行使できる回数が極端に限られるため、書類整理や書庫整理など、やらされるのは雑用ばかり。

それでも、暇を見ては大陸屈指の蔵書を読めるのが最大の利点だった。

根が真面目だったロスカは、いつの間にか研究所に無くてはならない存在となり、知識なら誰にも負けないくらいになっていた。

妻は所長の紹介で結婚したが、最初は口も利かないほどだった。

それはロスカが女性に興味を示さず、暇さえあれば本や書物を読み漁っていたからだった。

そんなある日、ロスカは自分が何故、ここまで知識を得られたのか、その事に思いを寄せ、妻の存在を意識した。

妻が何も言わず、黙々と家事をこなし、ロスカが本を読む時間を作りだしてくれている事に気が付いたから。

ロスカはそれ以降、妻を大事にするようになり、妻もロスカを夫として、今まで以上に愛情を持って接してくれるようになった。

その経験から、ロスカは人を良く見るようになった。

だからルーケの人柄に魅かれ、フーニスの想いも気が付いていたのだ。

いつか自分のように気が付けばいい、そう思っていたが、そこへパールが加わった。

ルーケにとって、フーニスは頼れる姉、パールは口やかましい妹と言う感じなのだが、2人は共に相手に対し、恋心を抱いているのが問題だった。

ルーケにとって、どちらか選ばなければならない日が来るかもしれない。

そんな不安を抱きつつも、何かフーニスには考えがあるように思えて、ロスカはフーニスを追う事をためらい、やめたのだった。

それは確かに、間違いはなかった。


 パールは日課の祈りを捧げると、着替えてベットに横に成った。

いつもなら、祈りを捧げた後は心が落ち着きすぐに寝れるのだが、今日は違った。

フーニスの言葉が深く心に刺さり、イライラすると共に、自分の未熟さにも気が付き、さらに苛立ちが増したためだ。

どうして、フーニスは自分に冷たく接するのだろうか。

そこが分らない。

パールが自分の理想を押し付けるために、仲間が本当の仲間に成っていない事に気が付いていなかった。

ストライクダガーと戦ったあの場所で、仲間に認められたと言う事実だけで、仲間と思い込んでいたからだ。

まだ15程度の娘に、そんな知識も経験も無い事は分っているから、ルーケ達も強くは言わないし、小煩く思いつつも付き合っているのだが、その辺の機微がパールには分っていなかった。

ルーケと出会ったあの啓示以降、ボニートの声は全く聞こえない。

でも、神の声はそんなものだとも知っていたから、多少の不安は感じながらも不満に思うほどではない。

パールは、根本的な部分を勘違いしていたために真に打ち解ける事は無く、しかし、その技能ゆえに仲間でいられ、ルーケ達にとっては未熟な手間がかかる存在ながらも受け入れられていたのだ。


 ルーケは虚しさを感じながら、窓を開けて月を見ていた。

フーニスの言いたい事は良く分かる。

自分もできるなら、この依頼を断りたかった。

しかし、依頼を断ればオルーガを敵にまわすことに成る。

それは確信だった。

そして、オルーガはアサッシンとして向かって来た場合、太刀打ち出来ない相手だった。

だから引き受けざるをえないのだが、何故フーニスはそれを分ってくれないのか。

ルーケには、それが不満だった。

だから探しに行く事も出来ず、悶々と一夜を過ごす羽目になった。


 ショコラはふてくされたように屋根の上で胡坐をかいて座りこみ、ため息をついた。

だが、その相手は一向にショコラなど気にはしない。

「なんでそこまで、あいつらに係わるのだ?」

ショコラとしては、不思議で仕方が無いのだが。

「お前は妖狐ようこだが、占星術はできぬのか?」

シダにそう言われ、ショコラは思いっきり鼻を鳴らした。

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