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愚者の舞い 4-26

 その日の晩、集まった仲間に依頼を受けた事を伝えると、瞬時にフーニスの顔色は変った。

「で、内容は?」

「明日の晩から翌朝まで、旧街道を守備する事なんだが・・・。」

そうルーケが言い終えた瞬間、バンッ! と、フーニスはテーブルに拳を打ち付けた。

「なんだがじゃねぇよ! 何考えてんだよ!! 警備終わった直後から旧街道の守備だぁ!? まんまと乗せられて、いけしゃあしゃあとよく言えたもんだね! えぇ!?」

あまりの剣幕に、ルーケ達はギョッとした。

「おい、フーニス!?」

「気安く呼ぶんじゃねぇよラテル!! あんたは納得してんのかい!」

「おいおい、落ち着けって。 何をそんなに怒ってるんだ? お前らしくもねぇ。」

「あたしらしくってどんなんだよ! こんな間抜けをリーダーにしてたなんて情けなくって涙が出るよあたしは! どう考えたって策略の一端だろ!? 何を考えて引き受けてきたのさ!!」

「策略と決まったわけじゃないだろう? そもそもどんな策略だ?」

「そんな事知るもんか!」

そう怒鳴ってから、不意に静かに。

「だけどね。 あいつが何の意味も無く、あたしらにこんな話を持ち込むと思うのかい?」

「それは偏見です! オルーガさんは、そんな」

「何を知ってるんだい? お嬢ちゃん。 オルーガはアサッシンの長だよ。 そのアサッシンが依頼をしました、どこそこの警備ヨロシク、何も無かったああよかった、そんな事になるとでも思っているのかい。 あんたじゃなく、あたしが行けば良かったと、本気で後悔してるよ。」

「わ・・・私がそんなに頼り無いですか!?」

「無いね。」

即座に断言され、パールも怒りに顔を紅潮させ、椅子を蹴倒して立ち上がる。

「なんだい。 あたしとやろうってのかい? 言っとくけど、あんたじゃあたしに勝てないよ。」

「やめろ!!」

ルーケがそう怒鳴ると、飛び掛かりかけたパールが足を止め、フーニスと同時にルーケを見た。

「やめろ、2人とも。 納得いかないなら、協力してくれなくて良い、フーニス。 明日の行動は決めた通りだ。 変更はない。 それに、策略と言うが、確たる理由も証拠も無いだろう? 何故そこまで言えるんだ?」

「あたしの勘と経験じゃ、理由にならないのかい?」

「それを理由に断れると言うのかい? ギルド幹部の依頼を。」

「あたしなら断るさ。 シーフはね、勘が頼りなんだよ。 鍵を開ける時、罠を外す時、探す時。 全て勘さ。 経験による裏付けの上でね。 あんたはそれを感じないのかい? この依頼は胡散臭い、そう思わないのかい? あたしは御免だね、こんなやばい依頼は絶対に受けない。 たとえそれでアサッシンに命を狙われても、掛け替えの無い物を失うより、自分が死ぬだけで済むならそうするさ。」

「フーニス・・・。」

「断言するよ。 この依頼、絶対取り返しがつかない事になる。 あたしは降りる。 悪く思いたきゃ、思ってくれていいよ。 でもね、この依頼だけは、絶対に、やばい。」

そう言い捨てると、フーニスは家を出て行ってしまった。

「ともかく、明日は長い一日になる。 みな、十分に休んでおいてくれ。」

ルーケはそう言ってから、疲れたように溜息をつきながら自室へ入って行ってしまった。

後に残された仲間達は気まずげに眼と眼で会話をし、無言で各々の部屋へと引き上げていったのであった。


 冒険者の宿で部屋を頼むと、マスターはヒョイッと片眉を上げた。

が、仲間同士のいさかいなど珍しくも無いので、何も聞かずに部屋の鍵を渡す。

金さえ払ってもらえれば、誰であれ客である事に違いは無いし、この宿を拠点とする冒険者だけに門前払いをするわけにもいかない。

鍵を受け取り、フーニスはカウンターで1人、酒を頼んで飲み始めた。

ここなら、もしルーケ達が探しに来ても、すぐに見つかる筈だった。

ほっといてほしいという気持ちと、探してほしい気持ち。

相反する気持ちが、苛立ちと共に思考を占拠して動かない。

「珍しいではないか、お主1人か?」

不意にドラのような声でそう言われ、振り返ると。

いつの間にか、1人のドワーフが背後に立っていた。

「・・・1人で飲んでちゃ悪いのかい?」

「悪いとは言わんさ。 酒は人生の友。 喜びを増幅させ共に分かち合い、悲しみを紛らわせる魔法の水だ。 心行くまで飲むがよかろうよ。」

流石、酒を自然界にもたらしたと言われる妖精種族だけに、酒好き理論はたいしたものだ。

思わずフーニスに、笑みが浮かんだ。

「そうそう、酒に辛気臭い顔は似合わん。 何があったが知らんが、酒を飲むなら味も知らんとな。」

そう言って、ドワーフ自身がニコッと笑う。

「お!? 珍しい事もあるもんだ!」

このドワーフの仲間の戦士が、ドワーフの動きに今気が付いたらしい。

本当に驚いた顔してそう声をあげ、

「スカラーが人間の女の・・・女性を口説いてるぜ! 明日は雨だなこりゃ。」

(今、女の子って言おうとしたのを言い直したね?)

直感の鋭いフーニスは、瞬時にそれを悟って見せるが。

「うっさいわ! ひよっこが! 酒の飲み方も知らん若造が偉そうに! そもそもだな、女性と言う者は、もっとこうふくよかでなけりゃならんっ!」

「でたっ! スカラー親父の女性講座! でもそりゃドワーフ限定だろうよ!!」

「人の好みにけちつけるでないわっ!! 大体ほそっこいおなごでは、抱きしめただけで折れそうでいかん!」

「そりゃ、ドワーフの怪力じゃねぇ・・・。」

思わずフーニスも突っ込みを入れる。

ドワーフは土の妖精種族だけに、体は頑丈だし腕力も怪力と言えるほどある。

もちろん例外はいるし、平均的な話だが。

それでも人間に比べれば、身長はエルフよりも低いが体力もあり、戦士としてうってつけではある。

斧やハルバードなどの重量武器を好んで使用する性質があり、魔法をまったく使えない種族でもある。

また、顎鬚が立派であるほど地位が高いと言う話がある。

「力の問題でも無いぞ。 まあ、もし手が空くようなら一緒に冒険でもしようではないか。」

「ありがとよ。 でも、もし1人になっても、もう冒険者は卒業するさ。 あたしもいい加減、いい年だしね・・・。」

「なんの、お主はまだまだ頑張れるわい。 だが、無理に続けろとも言う気はないがな。」

そう言うと、スカラーは仲間の元へ戻って行ってしまった。

フーニスはそれから暫らく1人で飲んでいたが、結構酔って来たので部屋で寝る事にした。

探しに来ない仲間達だが、フーニスには都合が良くもあった。

あれだけの大声でやり合った以上、今回の喧嘩はギルドに知られているだろう。

その、中身さえも。

なら、狙われるなら今晩。

自分の死で警告になるなら、それはそれで良いと思った。

このままルーケのそばにいるのも疲れたし、何より、今までと違って自分の意見を信用してくれなくなったルーケと共にいるのが辛かったから。

ルーケはフーニスの直感の鋭さを、今までは信用してくれていたのだ。

なのに、パールが加入してからは・・・。

あの娘を恨む気にはなれないが、辛かった。

だから、珍しく泥酔するほど今日は飲んだのだ。

暗殺されるなら、痛みを知らないうちに死にたかったから。

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