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愚者の舞い 4-20

 フィリアは不満気ではあったが、今さらどうにもできないので、仕方なくリーベンの元へ戻る事にした。

不可解なのは、記憶の引き継ぎがなされなかった事だが、こちらは悩んでも答えなど出る筈もないので、早々に考えるのをやめた。

そもそも、記憶が引き継がれる事自体、理解できてはいないのだから。

もっとも、アラムはなんとなく理由が分っていた。

魂の力が感じ取れる始原の悪魔は、ルウに宿ったその魂が、プリの転生したものだと感じたのだ。

恐らく、半神であるプリの魂の力が強すぎて、フィリアの魂の力を凌駕したために起こった現象だろう。

フィリアはプリの娘だが、そんなに特別強い魂と言うわけでもない。

「ま、なった以上は仕方がないか。 それにしても、なんだって孫に転生するかなあいつも。」

そう呟き苦笑いを浮かべ、空を見上げる。

プリはスライムとして生を受けたために、色々悲しい思いをしてきたと言うのに、と、親としては思うのだが。

「・・・またあいつが中心か。 どこまで禍を広めるのか。 親父よ、そこまで俺が憎いか・・・?」

全知全能であるがゆえに、孤独に耐えられなくなり狂った父、原始の神。

息子として、倒さねばならなかった苦しみと、親へ対する愛情と渇望。

「俺は負けねぇよ。 いつかあんたに追いつくために。 それまで・・・待ってろよ親父。」

そう呟き、姿を消した。


ストライクダガーと戦った翌日、ボットに呼び出されたルーケは、一人でボットの家に出向いた。

珍しく一人だけという指定なので、妙に緊張してしまう。

「そう緊張するな。 明日は一日付き合ってもらうが、ギルドの仕事なんでな。 金も出る。 ガハハハハ!」

そう言ってバシンと強く背中を叩かれ、肺の空気全てを吐き出されもしたが。

ともかく、ギルド本部内でボットと簡単な仕事をこなし、ルーケはボットの家で夕食を御馳走してもらう事になった。

最初からそう予定されていたのか、しっかりと人数分用意されているあたり、やはりボットは抜け目が無いと感じる。

「ルーケおじちゃん!」

食前の軽い談笑をボットとしている時、不意に足元からそう声をかけられ、ビクッとする。

「なんだい? ・・・えっと・・・ミリアちゃん?」

「あ~!!」

間違えたか? そう思ったら。

「ちゃんと分るようになった~! 偉い偉い!」

そう言いながら、背伸びしてルーケの頭をなでようとして・・・届かないので椅子に無理矢理よじのぼ・・・ろうとして落ちそうになり、それでもなんとか踏ん張り、持ちこたえて、背もたれにつかまりながら何とかなでる事に成功する。

それで満足したのか、ミリアは身軽に床に降りると、テテテと奥に走って消えた。

(とてもシーフギルドの幹部の家とは思えないな・・・。)

幼い娘の活発で身軽な行動に、思わず笑みが浮かぶ。

本来なら、ルーケ達だってこのくらいの子供がいてもおかしくはない年齢だ。

それなのに、最年長のロスカ以外、誰も結婚していない。

もっとも、ロスカは過去に奥さんを置いて来てしまっているので、もうこの世にはいないのだが。

他に、この場で結婚していないのは・・・給仕の奴隷娘だけだ。

浮かんでいた笑みが、奴隷娘を見てつい、こわばってしまう。

「? 何か御用ですか?」

「いや、なんでもないよ。」

そう言って、ルーケはボットに視線を戻し、その真剣な眼差しにギョッとする。

奇しくもこの時、ルウが産まれた瞬間だったが、ルーケに知る由もない。

「ど・・・どうしたんだい?」

「・・・実はな、お前に教えておきたい事があってな。」

「俺に教えておきたい事?」

いつも気さくなボットが、改まって言うだけに余程重要な事に違いないと、ルーケは姿勢を正した。

「お前、プレリーの娘を仲間にしたそうだな?」

「ああ。 何か問題でも?」

「正直に言うと、大ありなんだが・・・。 無いかもしれん。」

「なんだいそれは?」

微妙に自信なさ気な言い回しに、思わず脱力する。

「何もない事に越した事はねぇんだが・・・。 まず、先日お前が町中で、ターサとデートしてる時に」

「ちょっと待った!」

「軽い冗談だ。 そこまで真剣に反応するな。」

そう言ってニヤリと笑い、再び真顔に戻る。

「あの時、お前に斬られた山賊どもな。 昨日、お前らが化け物と戦ってる時に、遺体で川に浮いていた。」

「え!? ・・・それを、何故わざわざ俺に?」

「山賊をやったのは、多分、オルーガの奴だ。 それは傷を見ればわかる。 お前、プレリーの所で奴に会っただろ? あいつはアサッシン部門の長。 何が狙いでお前に接触したのか分らんがな。」

「それは俺も知りたいところなんだが・・・。 依頼するかもしれないとか言ってたけど・・・。」

「そこなんだ。 全く冒険者に依頼しないわけじゃないんだ、アサッシン部門も。 だがな、それは普通のアサッシンの場合だ。 その長が頼むような依頼って言うと、個人的な事か、アサッシン部門で最高の技術を持つ者でも任務を遂行できないような場合なんだが・・・。 率直に言って、お前らが全員でかかっても、あいつ一人に勝てん。」

オルーガの技量は、ライバルとして競い合ってきたボットが一番分っていた。

「つまり、暗殺の依頼を持ち込む事はない。」

「それは、依頼されてもこっちが困るよ。」

冒険者は暗殺者ではない。

根本的に、存在すべき位置が違うのだから当たり前だ。

「まあ、そっちはお前らの問題だから、俺はどうこう言う気はない。 問題は、あいつがお前らに接近した事と、プレリーに係わった事なんだ。」

「それがどうして・・・?」

「これは内密なんだが・・・。 俺の部下の一人が、プレリー邸で消された。」

声を潜めたボットの言葉に、思わずルーケは息をのむ。

「それだけならまだしも、何者かが入れ替わっているそうだ。」

「入れ替わる? つまり、その本人と?」

「そうだ。 完全に見分けがつかないほど完璧な変装なのか、または、中身だけ入れ替わったのか。 その辺は分らん。 とにかく、密偵としてのそいつは存在が無くなったのは確かだ。」

シーフギルドは、常に金持ちや有力者に目を光らせている。

当たり前な事なのだが、改めて事実を眼前に突き付けられると、やはり動揺はする。

「その面は、何が問題か理解したようだな。」

「入れ替わった事が問題と言う事だろ? だが何故だ? シーフギルドの密偵として発覚し、邪魔なら何かしらの理由をつけて排除すれば良いだけだよな。 たとえば、解雇するとか。 入れ替わったと言う事は・・・。」

「そうだ。 知られてはまずい事をしている。 そして、それにオルーガも係わっていると言う事だ。」

「それが何かは?」

「わからん。 それを知ったがために消されたんだろう。」

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