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愚者の舞い 4−11

 フーニスは予想外の話に、思わずルーケを見る。

「このくらい、何でも無いさ。」

「そうかい? じゃあ頼むか。」

ラテルはそう言うと、いつの間にか先に横になってたロスカの横にある寝床に潜り込んだ。

「フーニスも次頼むから、今のうちに休んでおいてくれ。」

「・・・分かったよ。」

複雑な表情を浮かべながらも、フーニスはラテルの横に用意しておいた寝床に横になる。

フーニスとしては、心底その真意が気になった。

いつもは水浴びするような場所があっても、フーニスは必ず仲間に伝えて行く。

もれなくラテルが覗いているだろうが、気にはしない。

仲間として大部屋に一緒に宿泊し、目の前で着替えたりもしているし、見られる姿に下着姿も全裸も大した違いは無い。

男女別に、風呂や水浴びをする時代ではないからでもあるし、トイレだって男女別に用意している場所など超が付く高級ホテルくらいだ。

しかし、感覚の違いとでも言うべきか、仲間や知り合いなどなら気にはならなくとも、赤の他人だとそうはいかない。

今日は別のパーティと共に宿泊しているから、特に言っては行かなかったのだが。

そのために、フーニス不在に気が付いたルーケが、たぶん仲間の制止も聞かずに慌てて飛び出したのだろう。

フーニスにとって、問題はその理由だ。

仲間として捜しに来たのか、女として捜しに来たのか。

あの様子では、たぶん前者だろう。

冒険者をするにしろ、シーフとして活動するにしろ、仲間の存在はありがたい。

その事は、フーニスにだって良く分かっている。

そして、仲間内での恋愛もご法度だと言う事も。

そう、今までは思っていた。

だが、ハプルーン達のパーティはどうだ?

闇に消えたハプルーンとシノンだけではなく、ダークエルフと付き合っていたり。

魔王の言い方から、予測ではあるが、あのダークエルフは妊娠している。

それも、あのハプルーンの子供だろう。

もしシノンの立場に自分がなったら、どうするだろう。

好きだと自覚し、想いを告白する前にヒョイッと現れた他人に奪われてしまったシノン。

しかも、ハーフだけにあまりこだわりが無いのかもしれないが、天敵とまで言われるダークエルフにだ。

もっとも、そのダークエルフも別れざるをえないようだが、それでも、自分がそういう立場になったら守る事が出来るだろうか。

答えは当然出る筈もないが、そんな事を考えているうちに、いつの間にかフーニスは夢の世界へと行ってしまっていた。

そして、この破天荒な一行と一夜を明かしてから、約3年の月日が過ぎ去った。


 ルーケは、この南の王国が好きになれなかった。

「野菜炒め定食、お待ちどうさま♪ 何か追加注文はありますか?」

「いや、今はいいよ。」

「わかりました♪」

幸せそうに、軽快な足取りで去って行く給仕娘。

しかし半袖から出ているその左腕には、鎖状の刺青がしっかりと存在を誇示していた。

それは、奴隷の証。

顔立ちは可愛く、活発で明るいこの娘は、奴隷でさえなければ求婚者が殺到しているだろうと思う。

だが現状は、奴隷であるがためにそんな相手はいない。

奴隷は畜生と同等かそれ以下の存在であり、まかり間違って好きになり結婚したいと思ったら、自分が奴隷の地位に落ちなければならなくなる。

そして、奴隷から人の地位へ昇って来る事は、ほぼ不可能だ。

世界を統一したら、絶対にこんな制度を無くしてやる。

そう強くいつも思うのだが、現状では不可能なだけに、さらに想いは増す。

ともかく、頼んだ食事を食べながら、ルーケは今日何をしようかと、そっちへ意識を向ける事にした。

ラテルは町の警護組織の指導員として出向いているため、今日は一日不在だ。

ロスカも魔術師ギルドに頼まれ、調べ物の手伝いで一日不在。

フーニスもボットの手伝いで、夕方までいない。

久しぶりに一人だけ暇になってしまい、羽根でも伸ばそうかとも思うのだが、久しぶりすぎて何をするかが決まらなかった。

仲間達ならどうするだろうと想像してみるが。

ロスカは借りた家で一日読書、フーニスは市場へ買い物、ラテルは色町で娼婦と遊ぶだろうか。

どれも、ルーケには魅力的に思えないが・・・。

ルーケの場合、読書は嫌いではないのだが、いかんせん今まで読んでいた書物が書物だけに、ちまたにある書物はどれも幼稚に思えるのだ。

スキュラにされたハルマのように、真実のみしか書かれていない書物ばかり読んでいたら、そうなってもおかしくはない。

また、特に買いたい物も無いのに市場へ出向いても無駄に金を使うだけだし、ラテルのように金を出して女を買うと言う行為がルーケは好きではない。

「ルーケさん。」

「ははい!?」

考えに没頭していたために、いつの間にか横に来ていた給仕娘に声をかけられ声が裏返る。

「食器、下げてもよろしいですか?」

いつの間にか、食事も終えていたりする。

「あ、はい、お願いします。」

そう答えてから、ルーケは席を立つ。

いくら冒険者の宿の食堂とは言っても、食事や飲む以外の理由で席を占領し続けるわけにもいかないからだ。

「あ、そうだルーケさん。 最近市場へ行かれましたか?」

「いや? どうしてだい?」

「なんでも魔法の剣が入荷されたとか。 興味があるなら、一度行ってみてはいかがですか?」

「魔法の剣・・・か。 そうだね、今日は暇だし、見に行ってみようかな。」

「もし見れたら、後でどんな物だったか教えて下さいね。」

「分かった。 教えてくれてありがとう。」

「どういたしまして。」

笑顔で答える給仕娘に笑顔で返しつつ、内心舌を巻く。

ルーケが暇を持て余している事に気が付き、そう言って来たのだ。

良く気が付くし、気配りも出来る。

本当に良くできた娘だと、ルーケは己の非力さを悔みながら、唇を噛みしめつつ宿を後にした。


 市場に向かう途中、ターサと双子の姉妹とばったり会い、市場まで一緒に行く事になった。

3年前に出会って以降も、時々ボットはルーケ達を家に招いて食事をしていた。

恐らく、本来は組織や町に害になる存在かどうか定期的に調べるためなのだと思うが、ルーケ達にその気はなく、ボット一家もそんな気配は微塵も見せないので楽しいものだった。

それどころか、知り合った日に生まれた姉妹の成長がなんとなく嬉しく、また、姉妹も良く彼らに懐いていた。

「「おじちゃ〜ん! いまいくつ〜?」」

不意にまったく同じ声で、まったく重なって言うものだから、一人の声に聞こえるほどだ。

今でこそ聞きなれたが、普通は驚く。

ルーケはそれまでニコニコしていたが、答えに困って表情が固まる。

(俺・・・いくつになるんだ・・・?)

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