歩
全力で走ったせいなのか...。
それとも、貴方と一緒に居るから?
耳に心臓が付いているのかと思うくらいに心臓の音がうるさい。
体全体が脈を打ってるみたいだ。
隣に居る貴方にも伝わりそうで手を強く握った。
私は幼稚園の先生に友達と遊びなさいと言われる。
私は絵を描くのが好きで友達は鬼ごっこと、おままごとをするのが好き。
合わないの。
だからね。
見つからないように、ひっそりと絵を描くんだ。
外で寝っ転がりながら、可愛いピンクのお花の絵を描く。
遠くから見ると小さいけど、近くから見るとお花が大きく見える。
不思議で面白い。
夢中で絵を描いてると背中が痛くなった。
「痛い」
「え、ごめん」
私の背中を踏んだの誰って思って見たら、同じ花組の男の子だった
「綺麗」
「何が?」
「髪の毛がね。お日様みたい」
「ありがとう」
男の子は嬉しい様な、悲しい様な、微妙な顔だった。
なんで?
本当にお日様みたいにキラキラなのに、嘘じゃないのに...。
「ごめんね。背中に僕の足跡が付いちゃった」
「いーよ」
これが私と貴方の出会い。
小学3年生のオリエンテーションでかくれんぼをする事になった。
ジャンケンで負けたので皆が隠れるのを待ってる。
「もう良いかい?」
全力で叫ぶ。
数人が「まだだよ」と叫ぶ
まだかなと暇になってきた。
校庭の砂を足でグリグリと掘る。
幼稚園の時から変わらずに、こういう遊びが苦手だった。
鬼じゃなかったら適当に捕まるのになぁ。
鬼になったら、全力で皆を見つけに行かなきゃ行けないから、大変だ。
「もう良いかい?」
「もう良いよ」
待っていた言葉を掛けられて、張り切って走る。
「見つけた。ゆうまくん」
「見つけた。ゆきちゃん」
あれは...。
「あゆむくん、見つけた。」
順調に人を見つけていった。
そして、授業時間中に全員を見つけられて、達成感を抱いた。
その帰り道、あゆむくんは聞いてきた。
「他の人は見つけてから名前を呼ぶのに、何でいつも僕は、名前を先に呼ぶの?」
「他の人は見分けつかないけどあゆむくんは姿を見なくても分かるよ」
「なんで?」
「私、皆より足が小さいの。そしてね、あゆむくんは私と同じ足の大きさだから足跡で分かるよ」
「こっから大きくなるんだ。見てろよ」
あゆむくんは不貞腐れながら言った。
中学生になって写真部に入る。
今回の写真のテーマが「綺麗」だった。
私は小さい時から花が好きで美しいと思ってる。
今日の課題にピッタリだなと思って、校舎裏に移動する。
学校の正門に、沢山の綺麗な花が植えられてる花壇があるけど、そこを選ばずに校舎裏を選んだ。
校舎裏には花壇は無く無造作に花が沢山咲いていた。
他の人には雑草と呼ぶだろう。
私には人の手を加えてられてない、逞しく咲き誇る、美しき花に見える。
最初は普通に数回、撮ってみるけど地味だ。
ジャージだから汚れても良いかなと、うつ伏せに寝っ転がる。
花と同じ目線で撮ってみる
さっきのより、断然に良い。
花の下からも撮ってみた。
逆光も相まって迫力がました。
これこそが、私の頭の中で想像してた、逞しく咲き誇る美しき花を演出してる。
良いのが撮れたって感動してたら、背中に衝撃を食らった。
「痛っ」
人の背中を踏むって誰だよと、イライラしながら振り返った。
「ごめん」
「あゆむ、痛いんだけど」
「ごめんって気づかなかった。てか、背中に足跡が付いた」
「あー、いいよ」
水色のジャージだからくっきり付いてそう。
校舎の出入口の近くで、寝っ転がっていたから、気づかないのは分かる。
あゆむの生まれつき、濃い茶色の髪が日に照らされて、明るめになって綺麗だった。
自分の直感のままに写真を撮る
「急になんだよ」
「綺麗だなって思って、つい...。」
「綺麗って」
「ほら見て綺麗に写ってるよ。」
見やすいようにカメラの画面を見せてるのに見ようとしない。
「あんまり、自分の写真とか見たくない。」
「何で?」
「髪の色が日本人ぽくないだろ?」
あゆむの手を取って、引っ張る。
「ちょ、おい」
「ほら、見て」
私は無理やりにカメラの画面を見せた。
「綺麗でしょ。さっきも言ってたけど、あゆむの髪が陽の光に当てられて綺麗だよ。あゆむの顔にも似合ってる。私はあゆむの髪の毛が好きだよ」
「簡単に好きって言うな」
「何で、私は好きなものを好きと言いたい」
「ダメだよ」
今まで、聞いた事ない迷子のような声に、あゆむを見る。
あゆむの顔がが段々と近づいてくる。
そして、あゆむの唇と私の唇が重なった。
ふにっと柔らかい。
そして、ゆっくりと離れてく...。
「期待しちゃうんだ」
「期待していいよ」
私たちは付き合い始めた。
高校3年生になって、私達は人生初めての家出をした。
家出をしても解決しないのは分かってる。
でも、誰も私達を知らない所に行きたかった。
「海だ」
私達が住んでる地域は、海がない。
初めて見る海に、はしゃいでしまう。
夏が過ぎて、人を見かけない。
恐る恐ると海に入れる。
時期が外れてるから、海の水温が低くて、とてもじゃないけど遊べない。
「冷たい」
「本当ね」
それでも、私達は何も可笑しくないのに笑いが止まらなかった。
一時の楽しい時間だと分かる。
でも、この瞬間を逃したくないと思ってる。
「なぁ、旗が立ってる所まで全力で走らないか?」
「走るって」
「なんだよ。自信ないのか?」
「そうじゃないけど」
躊躇ってると、あゆむが勝手に走り出す。
「ちょっと、待ってよ。」
全力であゆむを追う。
運動神経の良いあゆむと運動が苦手な私では勝てない。
全力を出したのに手を抜いたであろう、あゆむに勝てなかった。
全力で走ったせいなのか...。
それとも、貴方と一緒に居るから?
耳に心臓が付いているのかと思うくらいに心臓の音がうるさい。
体全体が脈を打ってるみたいだ。
隣に居る貴方にも伝わりそうで手を強く握った。
「傷になるよ」
私の手を握る。
「心臓が痛い」
「運動不足」
「うっさい」
あゆむは後ろを見た。
目線に映る先は砂で象られた私達の足跡だった。
リズミカルに一定の歩幅があゆむ。
あゆむより小さな足跡で一定とは程遠い、ぐちゃぐちゃな足跡。
「僕らの出会いって足跡から始まったよね」
「え?同じクラスだから、もっと前に出会ってるよ」
「でも、僕は君を意識したのは、その瞬間だった」
「あー、うん。」
ただの同じクラスから、綺麗な男の子って認識したのは、あの出来事があったから...。
「気になってる女の子に足跡が一緒で悔しいと思ったんだ。その女の子の足跡は、クラスよりも小さいから余計に悔しくて、頑張って大きくしようとしたんだ」
「そんな前から好きなんだ」
「うん」
羞恥の無い素直な返事が帰ってきた。
もう一度、足跡を見る。
いつの頃から私より足が大きくなったのだろうか。
「貴方の足跡が欲しい」
「え?」
「貴方が生きた証の」
「ごめんね」
何故、貴方が死ぬのだろうか。
私達は数年前に家出した先の海にやってきた。
あの後、家に帰れば、色んな人に怒られた。
けど、私はあの時の家出を後悔しない。
「あゆみ、あの旗の所まで競走だよ」
そう言って、私は全力で走った
「ママ待って」
誰に似たんだが、運動神経が良い娘に追いつかれた。
「ママ、あゆみの勝ちだよ」
「そうだね」
私と娘が走った足跡を見る。
ちっちゃくて可愛い私達の子供の足跡。