ベンツ赤坂
当時の新人国会議員が当選の喜びに我を忘れ、記者に囲まれながら「ベンツに乗って赤坂の料亭に通いたい」というような発言をして、マスコミや市民から猛烈な批判を受けた。国会で問題になり、議員は謝罪を繰り返した。その後も匿名掲示板では長くバッシングが続けられた。しかし徹底的に叩き続けられた末に、今度は一周周って擁護する意見も出てくる。もしもう一度選挙に出たら当選させてやろうという書き込みも見られるようになってきた。そこにモグラは噛み付く。
◆(モグラ)
こいつ、議員にしちゃダメだよ。
だって全然反省してないもん。こいつ。
こいつは本音を正直に語ると言う点では美徳を実践した。その本音もたいした悪じゃない。
ベンツに乗って赤坂の料亭に通うなんてとんでもない、時代錯誤だ、ってバッシングされてたけど、
バッシングしてる先輩議員はベンツに乗って赤坂の料亭で酒盛りしてるんだろう。
実際にそれをやってる先輩議員はでかい面してのうのうと議員続けてんのに、
やりたいと言っただけのこいつが、何で袋叩きにされなきゃいけないんだ。
こんなもん、バッシングしてる先輩議員の乗ってるベンツに轢かれて、
バッシングしてる先輩議員の酒盛りの中に飛び込んでるようなもんだ。
かわいそうに。もう被害者だよ、こいつ。逆に。
だけどこいつは赦しちゃいけない。
だってこいつ、赦されるつもりで謝ってるもん。
本当に謝るときは、罰されるつもりで謝るもんだ。
加害者が、被害者に、
罰してくれ、罰してくれ、って言って。いや赦さん、いや赦さん、って言って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。いや赦さん、いや赦さん、って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。で、チラッと見て、いや赦さん、って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。で、じゃあそろそろ……、いややっぱり赦さん、って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。判ったよ、赦してやるよ、って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。うるせえな、赦すって言ってんだろ、って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。しつこいなこのやろう、ぶん殴るぞ、って。
なんかもうどっちが悪いんだか判んなくなってきて。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。てめえばかやろう、赦させろ、頼むから、って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。胸倉掴んで引きずり起こして、もういい、もういいから、って。
でも罰してくれ、罰してくれ、って。
最後はお互い抱きしめあっておいおい泣いちゃって。それでようやく毒が抜ける。
被害者の怒りが消えて、それでようやく加害者の罪も消える。
だけどこいつは「罰してくれ」なんて思ってない。
「赦してくれ」って思ってる。「赦される」と思ってる。
赦されるつもりで謝るやつは、謝れば赦されると思って悪事を働く奴だ。
こいつはそういう奴だ。
ベンツ赤坂のときは、こいつ、悪くなかったけど、こいつはいつか本当に悪いことをする。
こいつが謝ったのはバッシングされて謝罪会見にまで追い詰められたからで、
そうじゃなかったらこいつは、先輩議員のやっている悪事を真似して、自分もやっていただろう。
こいつは自分の悪を自覚できない。悪い奴だ。本当に悪い。
だからこいつは、二度と議員にしちゃいけない。国会でも何でも。
◆(モグラ)
冷静になって考えたら、ちょっと怒りすぎたかな。
じゃ、こいつが議員になってもいいや。
もし次の選挙でこいつが落ちたとしても、こいつの代わりに議員になるやつがどうせベンツ赤坂するわけだし。
◆(モグラ)
もしこいつが本当に悪い奴でも、議員にしてもいい気がしてきた。
ただしちゃんと反省してから。
反省するためには悪いことをしなくちゃいけないんだから、こいつ1回、本当にベンツ赤坂してくりゃいいんだよ。逆に。