魔王再誕5
牙をはやした猪豚巨体の化け物がけたたましく咆哮しながら現れた。
「あれ?オークじゃん、珍しい。この森にオークなんていなかったよな。なんで?」
「恐らく御主人様がゴブリンを狩まくったことにより勢力範囲図が置き換わったと思われます」
オレの疑問にイナンナが答える。
「なーる。ゴブリンが減ったからその分の溢れた魔素がゴブリンよりランク上のコイツを代わりにリポップさせたんだな」
魔物は魔素から生まれてくる。人間や動物の繁殖交尾みたいな仕様では生まれないし増えもしない。故に魔物は生物とは異なる生態系を形成する。死ねば死体になるし、素材にもなる不思議謎仕様だ。
ちなみにこの世界ではゴブリンやオークが人間の女を拐って繁殖苗床にしたりはしない。
オレは魔王だったが魔物を完全支配してるわけでなかったし、適当に力ずくで無理矢理使役したり、言うこと聞かないヤツは始末したりしていたから詳しい生態系のことはあんまり知らん。そういうのは神のヤロウの領域だろう。
「ほほう。オークでありますか。これは食い出があります。じゅるるる………」
「ブヒィッ!?」
ハリティアが涎を垂らしギラギラした食欲に満ちたヤバげな視線で巨漢の豚を見やる。すると、怖気を感じたか、たじろぐオーク。
「あー、オーク肉は食用になるからなぁ。ゴブリンは硬くて臭くて食えないけど。オークは個体にもよるけどどれも美味いからな」
「御主人様。このオーク、ハンティングしてもいいでありますか?あの出っぷりした脂が乗った腹肉、じゅるるる、我慢できそうにありません。じゅびび」
「構わん。好きにしろ」
「ひゃっハアアアアアアアッッッ!!!久しぶりのオーク肉ッ!腹一杯食うでありまあああああああすゥゥゥッッッ!!!」
ヨダレを垂らし腰に下げた鞘から立派な騎士剣をスラリと抜いて狂気に染まった顔で嬉々とオークに切り掛かっていくハリティア。
お前、何処の世紀末モヒカンだよ。
コイツこんなに意地汚かったけ?昔はもっとキリッてしてたような………。
「剣技ソードスラッシュッ!!」
剣閃が煌めきオークの両腕が根本から斬り飛ばされた。
「ブヒイィッ!!」
いきなり両腕を叩き斬られ、タタラを踏むオーク。
「焼肉っ!すき焼きっ!しゃぶしゃぶっ!全部食べるでありますっ!!剣技クロスブレイドッ!!」
ハリティアが犬歯を剥き出し涎を飛ばして鬼気迫るまさに鬼女に相応しい表情で十字に剣を交差すれば、哀れオークは縦と横に巨大を真っ二つに分かたれ血飛沫と内臓を撒き散らし絶命した。
流石は剣聖鬼。力は弱体化していても技のキレは半端ない。オークごときじゃ相手にならないな。
「ふふふ、旨そうなモツもたっぷり詰まってるでありますっ!御主人様っ、私は魔法が使えませんっ!火を起こして下さいっ!!」
ブチ撒かれた臓物を器用に剣で腑分けしながら返り血で染まった爽やかな笑顔で言ってくるハリティ。
うん。軽くホラーだ、コレ。
オレは昼飯食ったばかりなので腹は減ってない。むしろスプラッタな屠殺現場目の当たりにしてリバースしそうなんだが。
「分かった、分かったから。血の滴るハラワタ持ってニコニコ笑いながらこっち向けんな。まったくどんだけ食い意地はってーーーー」
「報告します御主人様、複数のオークの気配反応感知。まもなく接敵します」
「ん?まだいるのか?」
イナンナがしごく冷静に報告してくる。と、
「ブキィイイッ!!」「ブモオオオッ!!」「ブヒヒヒヒィッ!!」「オークックックッ!!」
ドッシンドッシン地鳴らして森の草むらから何体ものオークが飛び出してきた。
野生の オークたちが 現れたっ!
ひい、ふう、みい、よう……
「5匹もいやがるのか。大漁だなぁ」
「いかがしますか?ミレイお嬢様」
「うん?適任がいるだろ。ここに」
肉を捌いていたハリティアがプルプル震える。
「………肉がこんなにたくさん………これは、オーク肉祭り………まさに肉の桃源郷………大豊作謝肉祭でありますうううぅぅぅッッッ!!!ハアアアアアアアッッッ!!!」
カッと目を開いて雄叫びを上げ、騎士剣を振りかざし勢いよく飛びかかるハリティア。
「ブヒィいいっ!?」「プギャアアアアアっ!!」
襲い掛かってきたオークどもが逆に襲い掛かられて慌てる。
鬼の形相で複数のオークを斬りまくる。もうどっちがモンスターか分からんぞ。
ハリティアの騎士剣に凄まじいオーラが収束する。
「剣奥義 鬼哭血華斬」
薙ぎ閃いた裂刃。風切り唸る剣尖が一瞬で数多のオークを首、動体、手足とバラバラに寸断した。
遅れて屠殺されたオークの肉体から血飛沫が噴水のごとく放たれ周辺を文字通り血の雨にする。
「………ふふふ。食べ放題。食べ放題であります。今生も魔王様の下僕になって私は幸せであります」
全身を豚の血で染めて不気味な満悦の微笑みを称えるハリティア。
だからその顔やめろや。
オレの金玉がヒュンッとなったわ。
金玉ないけども。