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魔王再誕3

 









「お母さん、森に薬草を取ってくるね」


 白銀の長い髪を腰元まで伸ばしたくりっとした愛らしい銀の瞳を持つ5歳ほどの小さなお人形のような美幼女。


 紳士諸君が身守りたくなるような麗しい天使な女の子が洗濯物を干している同じ白銀の髪と銀色の瞳を持つ大きなお腹の美人母親に籠を見せる。


「また森に行くの?最近は少なくなったけど、魔物に気をつけて行くのよミレイ」

 

「分かってる。イナンナさんと一緒に行くから大丈夫よ」


「奥様、ミレイお嬢様は私がお守りいたします。ご安心ください」


 籠を持つ少女の後ろにメイド服の黒髪ポニーテールの美女が真面目な顔で応える。


「……イナンナさん、娘をよろしくお願いします。それと貴女も気をつけてね。私たち家族同然なのだから」


 にっこりと大きな臨月末期の張り出た丸いお腹を支えてイリアはニッコリと笑いかける。


「かしこまりました。それと途中で旦那様にお弁当をお渡ししておきます。では、行ってまいります」


「いつもありがとう。貴女がウチに来てくれて本当に助かるわ」


 丁寧に頭を下げるイナンナと呼ばれるメイド。


「それじゃ行こう、イナンナさん」


 幼女ミレイが籠を持って小さな足をパタパタさせ先導する。


「走ると危ないですよ、お嬢様」

 

 そのあとをメイドがゆったりとしながらもしっかりとした歩幅で歩いて追いかける。


 そんなふたりの様子を見守り、大きなお腹を撫でながらイリアは幸せを噛みしめ自然と笑顔になる。









 農村部の田園風景な街道を歩く幼女とメイドのふたり。


「……はあ、まさかオレ様が女になるとはな。予想外だったぜ。けっ!」


 先程までの愛らしさとは似ても似つかないぞんざいな態度で道端に唾を吐き捨てる美幼女ミレイ。


「ご主人様が生前世界中に男が産まれなくなるようにチートスキルを使った影響かと」


 黒髪ポニーテールメイド、イナンナが淡々と答える。


「……そうなんだけど、そのこと完全に忘れてたぜ。まったく便利なチートも時と場合によるな。おかげでオレ様の相棒もオサラバしちまったんだが。今のオレ様は力が足りなくてチートスキルが制限されちまってるから、性転換は無理だ」


 幼女がワンピースのスカートを捲り、かぼちゃパンツの上から平かな股間をペシペシ叩く。


「女同士も存外悪くありませんよ?なんなら私と試してみませんか?」


 イナンナの口が耳元まで裂けて長い紫色の二股に別れた舌がチロチロと這い出てくる。


 このメイド、実は普通の人間ではない。

 

 かつて魔王が専属ハーレム奴隷戦士として魂ごと魔改造された者の生まれ変わりだ。


 聖女の力を持ってしても魔王の呪縛から解放出来ずに殺されたが、魔王のチートスキルにより殺された側近たちは何処かで別の人間の女性として憑依転生するのだ。


 そして己れの主人である魔王の元に再び集うようプログラムされている。


 このイナンナは、そのひとりであり、一番最初に魔王の元に戻ったハーレムの一員である。


 かつての魔王直属精鋭部隊としての力はないが、それでもそれぞれが恐るべき異能を持つ魔人であり、忠実な下僕(しもべ)だ。


「……いや、やめとくわ。なんか大事なものを失いそうな気がするし。それにまだまだガキの身体だ。成長すれば魔力量も上がるし、チートスキルも徐々に解禁されるだろう。そのためにはまずレベル上げだ。今日も雑魚モンスターを倒して経験値を稼ぎまくるぞ」


 ミレイはフンスッと鼻息荒く小さな拳を振り上げる。


 途中行き交う村人たちに可愛らしさ全開に愛想を振りまき擬態しつつ目的の場所を目指して歩く。


「おっ、いたぞ。自分の娘に嫁を寝取られた情けない種無し無能親父だ。ま、あんなでも一応父親だ。実際は血はまったく繋がってないんだけどな(ゲス顔)。おい、イナンナ。いつものようにオレ様特製のハッスル弁当をくれてやれ。お父さーん!お弁当持って来たよー!(にやけ笑)!」


 街道沿いの畑にクワを持って耕す青年に声をかける。


「やあ。ミレイ、イナンナさん。いつもありがとう」


 朗かな人を疑うことを知らない満面の笑顔を見せるテオドア。


「イナンナさんと一緒にお弁当作ってきたの。食べて食べて(さっさと食って馬車馬のように働けや、無能が。お前の価値なんざオレ様の代わりに精子作るだけの代用品なんだよ)」


 土手に布を敷いてお弁当を広げるミレイの傍らに腰掛けるテオドア。


 肉を挟んだサンドイッチに野菜サラダ、季節のフルーツを並べられて、食べ始める。


「ん、美味しいな。ありがとうミレイ。イナンナさんも毎日僕たちのために働いてくれて、なんてお礼を言ったらいいのか……」


「お気になさらずに、旦那様。私はあなた方に命を救われた身、私が勝手に世話を焼いているだけなので」


 イナンナは冷たい飲み物を水筒からカップに注いで渡す。


「……本当にありがとう。娘の世話まで見てくれて感謝しきれないくらだ。何か困ったことがあったら力になるよ。ミレイ、イナンナさんの言うことをよく聞くんだよ、いいね?」


 そう言ってテオドアは愛しい娘の母親と同じ白銀の髪を撫でる。


 ミレイはくすぐったそうに笑う。


「大丈夫だよ。だってもうすぐ私はお姉ちゃんになるんだから(オレ様の妹兼娘だがな!)」


 キラキラした瞳で力強く答える娘についつい頬が緩んでしまう。


 そうなのだ。妻イリアは第二子を宿しており、そろそろ産み月が近いのだ。


 だからあまり無理はしないでほしいのだが、元来融通が効かない、頑固な気質なので家の事を普段通りしてしまう。


 今は家政婦として雇っているイナンナが代わりに身の回りの世話をしてくれるので、大いに助かっている。


 妻のお腹には女の子が、ミレイの妹が宿っている。イナンナが魔法で調べてくれて解ったことだが、魔法とは実に便利なものだ。


 妻イリアは数年前に世界を魔王から救った聖女、救世主にして勇者だった。


 魔王を倒したことにより任は解け、神から授かったという力は消えてしまったが、元々魔法の才能も剣を扱う腕前もあったらしい。


 情けない話だが、幼馴染みとして一緒の村で暮らしていたが分からないことばかりだった。


 何故彼女が聖女として選ばれ、魔王と戦わなければならなかったのか。


 突然神託を受けて、村を出て行った彼女。


 自分は何も出来ない。


 討伐の旅に着いて行くなど有り得ない。


 魔法の才能も剣の腕もないただのうだつの上がらない百姓農家の小倅(こせがれ)


 ただ彼女が魔王討伐の旅から無事に帰ってくるのを祈り、待つばかりだった日々。


 無事に帰ってくるのだろうか。魔物と戦って大丈夫なのだろうか。彼女が村を発つ前に約束した、絶対に帰ってくるという約束だけを信じて。


 そして長いような短いような日々が過ぎて風の噂で魔王が討伐されたことを知った。


 誰が倒した?何処の勇者?英雄?聖女?誰だそれは?ウチの村?いたか、そんなやつ?ほら、あそこの娘さんの?


 噂には尾びれが付く。


 さらに背びれや角や羽が付いて噂はよく分からない魔物になる。


 王や王子、名のある貴族や大金持ちの商人に求婚された?世界中のあらゆる財宝を貰った?一国の城を貰って領主になった?王都に住むらしい?すでに結婚した?


 田舎の村にも広まる噂に居ても立っても居られない自分がもどかしい。


 もし、自分が神に選ばれた勇者だったらどうしていたか。


 物語の英雄のように姫と結婚したか?世界中の宝の山をお礼に貰ったか?沢山の妻を娶って何処か知らない国で幸せに暮らしたか?まだまだ冒険の旅を続けたか?そもそも約束を覚えているのか?片田舎の村などとうに忘れているのではないか?置いていった幼馴染みなど記憶から抜け落ちているのではないか?


 そんなしがない考えの海に耽る中、彼女が帰ってきた。


 小さな頃に、結婚しよう、という約束を果たしに。


 自分のためにこの辺鄙な時の流れから置き去りにされたような田舎の村に戻ってきた。


 ああ、そういえば彼女は昔から頑固だった。


 約束を違えることは一度たりともなかった。


 だからテオドアはいつものように畑仕事から帰ってくる彼女にするように言う。


 お帰り。


 彼女も少しやつれた、だが美しい笑顔で言う。


 ただいま。


 そうしてふたりは結ばれて、この素晴らしい宝物に巡り会えた。


 白銀の艶やかな髪を優しく撫でるテオドアは思う。


 神様がまた自分たちにステキな贈り物をしてくれることに感謝しながら。


 頭を撫でられる美幼女ミレイは張り付い笑みを浮かべて心の中で思う。


(男が汚い手でオレ様の頭ベタベタ触んじゃねえよ!なんだそのムカつく気色悪い笑いは!あぁ〜、テンションダダ下がるわ〜。さっさと魔物ブチ殺して家に帰ってオレ様の子供孕んだ嫁とイチャラブすっか〜)


 側から見たら、なんとも仲睦まじい父娘の姿に周りで農作業している村人たちはほっこりとする。


 ただひとり内情を知るメイドが無表情で自分の分のサンドイッチを黙々と食べていた。









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