魔王再誕
唐突だが、オレ様は転生者だ。
地球という惑星の日本という国から転生した元日本人、そして現魔王である。
この異世界ラピスタリアをチート能力で無双して支配し、君臨する超無敵ハンサム覇王様だ。
そして今オレ様の前に悠然と剣を眼前に掲げて力強い眼差しで、オレ様を睨む銀髪の超絶美少女がいる。
蒼穹の煌めきを纏うナイトアーマーを身に付ける勇ましい姿は、ヴァルハラの戦乙女ヴァルキュリアそのもの。
青く澄み渡る瞳は己に課せられた使命感と憎き倒すべき仇敵を滅すべく正義感に満ち溢れ、凛と美しい輝きを燦々(さんさん)と放っている。
嗚呼、美しい。
本当に美しい。
あらゆる美術品や芸術品の類などこの美しい少女を前にすれば月とスッポンであり、他の美女美少女など尽く霞んでしまう。
だから、自分のものにしたい。
どうにかして手に入れたい。
今まで古今東西様々な国の美女、美少女にそうしてきたように乱暴に組み伏せ、泣き喚き様を堪能しながら滅茶苦茶に汚し蔑めたい。
時間の流れを止めて動けないまま、じっくりたっぷり大勢の観衆の中、辱しめ弄ぶのも良い。
魅了の術で脳細胞が壊れるまで洗脳して、自ら腰を振る淫らなビッチギャルに改造してオレ様専属娼婦にするのも楽しそうだ。
彼女の取り巻きの、お仲間たちの少女も負けず劣らず綺麗どころばかりで大変結構。
オレ様の性奴隷コレクションに加えてやっても良いくらいだ。
だがやはりこの凛然と、一等眩ゆい光りを放つ蒼穹の乙女が一番オレ様の好みドストライクだ。
オレ様は血の滴るような明滅する真紅の双眸を燃え奮い立たせて、仇敵者である神に選ばれし勇者であり、穢れなき聖女であり、世界を救わんと勇ましくオレ様の前に立ちはだかる救世主の美少女を射止めんと魔力を溢れさせる。
かつてヒキニートのゲームオタクであった30過ぎの童貞キモデブブサイク男のオレ様はもういない。
通販で取り寄せた外国のエナジードリンクを毎日徹夜明けエロゲプレイのハッスル後に飲み過ぎてテクノブレイクした黒歴史はもはや闇に葬られたのだ。
今ここにいるのはチート無双で世界中の美女美少女を虜にし、世界中の男どもが羨むハーレム帝国を築き上げて天下を取った最強のイケメン魔王様なのだ。
退かない。媚びない。顧みない。
そして揺るがず、屈せず、負けない。
この無敵のオレ様にかかれば、屈強なむさい男どもなど指先ひとつですべて皆殺しだ。
世界中の美女、美少女を嫁にして数多と囲い込み、全世界の男どもが羨むハーレム超帝国を築き上げた。
おっと、可愛い美少年もオレ様のものだ。女装させて男の娘と組んず解れつ遊ぶのも乙なものだが、性転換させて男の尊厳をいたぶり、強制的にメス化させるのも実にいい。
生まれ持った万能チートスキルで、全てはオレ様の望むように思うままに出来る。
どんな強力な魔法もオレ様には効かないし、どんな強力な武器も防具も意味を成さない。
剣聖と謳われた気高い女騎士も、世界一強豪国の傲慢な高飛車姫君も、のじゃロリババアな幼女賢者も、伝説の不死身の女竜戦士も、健気な美少年勇者も、全員オレ様の忠実な下僕となり、毎日可愛がってやった。
今まで何人もの英雄や勇者がオレ様を討伐しようとやってきたが全て返り討ちにしてやった。
もちろん邪魔な男は軒並み存在を消して、好みの女だけは生かしてオレ様の手駒にする。
オレ様のハーレム奴隷軍団がオレ様以外の男を殲滅するために、オレ様だけの種を欲し宿すために世界中の男を血祭りにあげて、根絶やしにしていく。
オレ様以外に繁殖出来る種雄は必要無いのである。
故にオレ様に敵う奴などいない。
なのに、彼女が、この少女が、この女が神に選ばれし乙女が、麗しき勇者にして聖女が、現れた。
オレ様のチートな魅了の術を無効化し、洗脳されたメス奴隷どもを次々と解放していったのだ。
オレ様の築き上げた帝国が、ハーレムが、消えていく。
オレ様お気に入りの美少女、美女たちが、正気に戻り反旗を翻してくる。
この聖女はチート能力者だ。
オレ様もチートを使っているから解る。
今までの数多くの勇者や英雄が挑んできたが、コイツは違う。神どもめ、とうとう手段を選ばなくなったな。
オレ様の力が通用しない相手を寄越してきたのだ。
無双には無双を、チートにはチートを。
だが、そうはいかない。
オレ様お気に入りの側近美人部隊は細胞、魂レベルまで徹底的に調教、魔改造済みだ。
洗脳などという生易しいものではない。
殺すしかオレ様の呪縛から解放する手段は存在しない。
戸惑いながらも、嘆き苦しみ、命をその手にかける蒼穹の乙女が流す涙の雫はとても綺麗だ。
その清らかな眼差しを怒りに燃やしてオレ様に存分にぶつけてくる。
いい。
いいぞ。
実にいい。もっと。もっとだ。
彼女の剣が全ての物理現象を無力化するオレ様の肉体を傷付ける。
彼女の魔法が全ての魔力反応を無効化するオレ様の結界を打ち砕く。
彼女にオレ様の攻撃は効かない。
オレ様のチートは通用しない。
この戦いでオレ様は負けるだろう。
死をもってオレ様は敗北するだろう。
それでいい。
それがいい。
今は甘んじて受け入れよう。
彼女の振るう聖剣がオレ様の胸を深々と貫く。
彼女の白銀の長い髪が靡き、美しい輝きを纏い煌めく。
彼女の凛々しく映える青い瞳に、嗤うオレ様が映り込む。
嗚呼、本当に綺麗だ。
絶対にこの女をオレ様のものにする。
だからこそ、この死は意味があるのだ。
次に目醒めるその時まで、彼女の美しさを微睡みの中で夢に観よう。
その時が来るまで。