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医者

大変遅れました。 

誤って書いたものを消し飛ばし失意の底にいましたが書き直しました。

 ズシーン、ズシーンと鈍い音がコンクリートで固められた天井から響いていた。だが、それを気にもとめず、壕の中を様々な人が行き来していた。


「負傷者です。処置をお願いします」


その言葉を何度聞いたことか、担架で運ばれてくるもの、肩を借り運ばれてくるもの、次々と患者が地下の野戦病院へ運ばれてきていた。


「お医者さん、こちらをよろしくお願いします。」


陸軍の救護員が、この島にたった一人の医者に声をかけた。衛生小隊の連中も、ある程度の処置はできるが、医者にしかできないこともある。


「ああ、分かったやろう」


医者は額から止まらない汗を拭き、なけなしの医薬品を使い次の患者を見始めた。


 もうこの島に補給は来ない。


医者はそれを知っていた。彼が乗って来た船が最後の船だ。


あの日、気仙沼から最後の1隻がこの島に向けて出港した。軽武装された商船は、人々の不安を気にもとめず港を後にした。


○○○


米海軍は、バカヤロウ(海兵隊)共が曲芸飛行を見せたあとも攻撃の手を緩めることはなかった。その効果あってなのか島はすっかり大人しくなり、黒い砂浜に築かれつつある陣地への攻撃は、散発的になってしまった。


「我が艦砲射撃のため敵は痛撃されて沈黙せるものと思われる」


黒い砂浜から届く戦況を聞いた海上の米兵たちは、冗談半分にこういった。


「俺たちの取り分がないじゃないか」


砂浜で繰り広げられた1次攻防戦を、知らない彼らには3日もあれば日本軍は一掃されるだろうという感覚が広がっていた。一方で司令部は、攻撃されていないにもかかわらずアムトラック大破報告が次々に届き激しい海流に頭を悩ましていた。


「いち早くこの海域の海図を組み立てなければ」


司令は、自然のいたずらに苛立ちを覚えていた。


「潮の流れを弱める必要がありますね」


一人は地図を眺めそういった。


「そうだな」


司令は、頷いた。その時司令部の扉が開いた。


「失礼します。我軍の第8波までの500両が、島への上陸を完了しました。内陸に向け200ヤード前進しています。」


司令は、窓の外を見た。砲撃で島中の土がひっくり返され、茶色いの煙が漂う島の浜には無数の揚陸艇が密集していた。

砂に足を取られていたシャーマン戦車を兵士たちが押し上げ次々島の中へと進み始めていた。


○○○


日本人は、生きていた。地下に作られた迷宮は、ガッチリと彼らを攻撃から守っていた。だが迷宮は、30度近くになり絶えず湿度は、100%という過酷なばしょでもあった。


「陸軍兵団長さんが、敵を引き込んでからと言うとるからあともう少しのしんぼうや。必ず本土に帰るんや!」


日本人たちは、言い聞かせあっていたその時、伝達が届いた。


「敵が予定地点に到達した。攻撃を開始せよ」


トーチカからこのときをじっと待っていた兵器たちが一斉にグイッと首を伸ばした。獲物は自ら浮足で罠へと入ってきたのだ。 


パーン


シャーマン戦車の装甲を玉が跳弾する音で戦いの幕が切られた。米兵9000人の前に突如として速射砲第8大隊が攻撃を開始。一式機動四十七粍砲が、前線の歩兵部隊に砲弾の雨をふらした。三次元の空間に逃げ場はない砲撃は、米兵を恐怖の世界に陥れるには十分であった。


「撤収!撤収!」


その声も虚しく強力な弾幕の前になすすべなく倒れていった。


「戦車を盾に!」


シャーマン戦車は、背後に兵士をかばい後退しつつ攻撃を開始した。


パーン


鉄板が貫通する音がかすかに聞こえた。


「ヤバイ!」


その声とともにハッチが開け放たれた。一人が転げるように出たその時。


ドッカーン


大爆発が起こると同時に砲塔が吹き飛んだ。逃げおくれた兵士が、爆風で中に舞い上げられ、肉片が宙をまった。


「あいつらもぐらたたきみたいにそこらじゅうから顔を出しやがる」


ほぼ360度あらゆる方向から銃弾が飛んできていた。アリの巣のように張り巡らされた地下壕は、無数の入り口が空き叩くことができないもぐらたたきとかしていた。


そこら中に追撃砲の雨が振り始めると、一度に数十人が空へと飛ばされ、血肉が黒い砂浜にまで及んだ。しかし海岸から増援が島の中へと進むことはなかった。砂浜では上陸した海兵隊が、機関銃の洗礼を受け苦戦を強いられていた。海兵隊が支援を要請したシャーマン戦車は、砂浜に足を取られ身動が取れずにいた。


「クソ!狙ってくださいと言っているようなもんじゃないか」


アチラコチラで頓挫している戦車は、ご丁寧に火薬の山を見せびらかしているようなものだった。せっかく苦労してあげた戦車は、次々と撃破されていった。


「おい!こっちへ来るな!」


最後には、味をしめた砲弾が戦車を狙うようになり、逃げ惑う戦車から血の川を跳ねるように逃げる兵士というなんとも言えない状況になっていた。


『こちら第25海兵連隊第3大隊、エリア 北部岩場(ブルー2)への支援攻撃を要請する。』


揚陸艦エルドラドに設けられた司令部に支援の要請が届いた。


「あれほど接近した状態では、艦砲射撃をしたら味方まで吹き飛ばしてしまいます。」


双眼鏡を覗き戦場を見ていた一人がそうゆった。


「支援砲撃は、行わない。」


スミス司令は、そう断言した。無電を聞いた戦艦の艦長らは悔しそうにそれを受け入れた。それでもなお憎たらしげにスミス司令を見ている。指揮官に対して彼はこういった。


「あれほど頑丈な鉄筋コンクリート製の陣地など100ポンド砲でも破壊できんよ。隙間から手榴弾でも投げ込まないと制圧できないだろうな」


その時、新たな無電が、司令部に届いた。


『こちらB24爆撃隊、まもなくシマ上空に達しますが、どこを狙ったらいいですか?』


どこからともなくB24爆撃機が飛来したのだ。


「おい!爆撃機を要請した覚えはないぞ」


司令部は、混乱した。しかしすぐに理由はわかった。


「海兵隊が、曲芸飛行士と一緒に要請したものです。」


ぶっ飛んだ演技を見せたおかげですっかり忘れられていたのだ。


「B24が44機飛来します。」


空には無数の鉄の塊の群れは、見えなかった。


「曇り空なのですが…精度に影響が出るきがしますが…」


その不安は何倍にも増幅された結果として司令部にどどけられることとなる。


「計器のみでの投下であるならばブルー2に投下は無理だな」


マリアナ諸島の海軍基地より入電


「航法の計算を誤ったため15機ほどしか島に到達できません」


「おい!それでは全く意味がないじゃないか」


スミス司令は、怒った。


「第一もう焼き払えるところなどないおまけにどうせ通常弾だ。島中央の滑走路にでも落としておけ」


島中央に作られた滑走路こそ、米軍がいかなる犠牲を払ってでもほしいのだ。そのため飛行場の周りは厳重に守られている。





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