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旧友

辺一面に火の手が上がったが鉄筋コンクリート造りのトーチカは、全くびくともしなかった。騒がしいタカ共がただ外でぎゃあぎゃあと騒いでいるだけであった。トーチカから空を見上げた日本人は、一言こういった。


「騒々しい奴らめ晩飯の足しにしてやる」


全金属製のタカは食えないが、蚊の音を聞いたら叩きたくなるのと同じである。高射砲に手をかけると曲芸飛行中のタカを叩きにかかった。そして案の定、立派なとりの丸焼きが出来上がってしまった。 アーカンソーの航空管制官が、頭を抱えたのはいうまでもない。


◇△◇


あけぼのは、島を三分の一ほど回った沖合に再び錨を降ろしていた。


「こんな場所があったとは」


副艦長は、思わず唸った。


そこには穏やかな海が広がっていた。あれほど強かった潮の流れはほとんどなくなり船の下は濃い青色に染まっていた。


「ところで艦長は、どこに行かれたのですか?」


航海士が、疑問に思ったときにはすでに操舵室から艦長は、消えていた。


「また本でも読みに行っているさ」


副艦長は、探さなくて良いと合図した。


「参ったな〜来客があるというのに…」


艦長室に彼の姿があった。


「アメリカ軍が血眼になって探した港がここにあるとは誰が思うかな?」


艦長の手元には、古びた一冊の日記が開かれ置かれていた。開かれたページには、島の周りの暗礁の位置や、先程あけぼのが通った道のりが赤く書き込まれていた。アメリカ軍は、この島に港をつくるためにその基礎としてたくさんの船をわざと沈めたが、潮の流れに勝つことはできなかったのだ。


「彼は、入口を見つけたかな」


艦長は、独り言のようにつぶやいた。


○○○


「本当にこれなのか?」


鈴村は、トーチカの中にポッカリと空いた穴を指して中野に聞き返した。


「ええ間違いないです。」


中野の手は和紙を掴んでいた。勲章を包んでいた和紙には海岸周辺の略地図が書かれていたのだ。


「こんな地図が書ける人間は数少ないが、よく80年も残っていたなぁ」


鈴村は感心していた。


「だけど、中野さんの身内がこの島にいたとは…」


(ああ…話がややこしいことになってきた)


「そのようですね」


(艦長は、こんなものどこから手に入れたのやら)


中野の前には、人一人がやっと通れる穴が空いていた。地図が正しいのであれば、これが島中にはりめぐらされた地下壕の1つとされていた。


「酸素濃度が心配なので蠟燭でも入れてみましょう」


火がつけられた蠟燭がゆっくりと穴の中へと入れられていく。

静かに揺れる光が地中へとつながる穴を照らしていく。


「入口付近は、大丈夫そうですね。一様、酸素濃度計測器とガスの検知にを持っていきましょう。」


○○○


 ブーンとプロペラの音が島に響く。


「予定よりお早い到着で」


副艦長は、そうつぶやいた。島の上をプロペラ機は、旋回しつつ高度を下げていった。そしてザーっと水しぶきを上げてあけぼのの近くに着水した。


「水上機でおいでとはまた立派なこった。迎えを出してやってくれ。」


すぐさま迎えの船が出され、プロペラ機へと向かっていった。

プロペラ機の扉が開けられるとそこからサングラスをかけたアメリカ人が姿を見せた。


「追加で人が来るとは聞いていましたがまさか外人とは思いませんでしたよ。」


双眼鏡でその様子をまじまじとみていた航海士の加藤は、副艦長に語りかけた。


「ああ、僕も詳しいことは聞いていなかったが、あれだろ艦長の知り合いといったところかな」


「変人には、愉快な仲間が伴うものなのですかね…」


彼は艦長が立っている甲板へと双眼鏡を向けた。


肉付きのいいアメリカ人は、タラップを軽々と登ると船の甲板に立った。

 

「久しぶりだねジョン」


艦長は、旧友を懐かしむように握手をした。


「ああ、君こそ元気にしてたかい?」


ジョンは、若者のように問い返した。


「もちろん元気だとも。操舵室でクルーに紹介したいんだ。来てくれないか?」


艦長は、その外見よりずっと若く見えた。


「いいとも。君が船長の船に乗れるとは嬉しいよ。」


それからすぐ、大抵の船員は、操舵室へと集められた。


「紹介しよう。こちらアメリカ議会図書館のジョン·アルバート研究員長だ。」


ジョンは、軽く栄爵をした。そして流暢な日本語を使った。


「皆さんはじめまして、ご紹介頂いたジョンです。今回の調査に関して米国より派遣されてきました。よろしく」


彼の日本語に船員は、驚き目を丸くしていた。ジョンは話を続けた。


「この島は、未だ多くの遺体が埋まっています。今回はその遺骨の調査と、この知られざる激戦地を調べるべくやってきました。艦長とは、古いなかなのです」


40代後半に見える外人は実に75歳を超えていたが、まだピンピンしていた。


○○○


湿度100%のじっとりとした空気が人一人やっと通れる地下壕を包んでいた。


「80年たってもしっかりと残っていますね」


辻は、額の汗を拭いながら素掘りトンネルを見回しながら興味深そうに見て回っていた。


「ええ、おまけに防御面でも優れていますよ。入口があれほど小さいと火炎放射も奥には届きませんし、左右には逃げられませんから入ってきた敵は一網打尽ですよ。」


先頭を歩く鈴村もまたその作りをまじまじと見ていた。


「あ、部屋に出ますね」


鈴村の懐中電灯が照らした先は急に広くなった。


「コンクリートですか」


中野は随分と広い部屋の壁を触った。部屋は端から端まで綺麗にコンクリートで固められていた。


「立派ですね。これなら天井が崩れてくることはないでしょうし」


がらんとした部屋には空っぽの救急箱がいくつも転がり、黒いシミが壁に残っていた。


「ここでなけなしの手当をしていたのか」


○○○

艦長室には、ソファーに腰掛けている艦長とジョンの姿があった。


「ジョン、朝鮮戦争のあとに始めて会ったんだったな」


艦長は、氷の入った水を飲みながら語りかけた。


「ああ、はじめて会ったのは、慰霊のときだったな。あんたの親父とうちの親父は、LSTで出会ったんだ」


ジョンはコーヒーを飲んだ。


「親父は、昔から海の男だったよ。35で船長になった頃には操船は、誰にも劣らなかったらしい。」


「親父たちは、お前の親父のことを親しみを込めて海の亡霊と呼んでたよ。亡霊じゃないとあんなことできないからね。」


ジョンは微笑ましそうに思い出していた。


「物騒な名前だと言われてたけど、本人は気に入ってたよ。そんな親父が死ぬまで語らなかった航海がある。」


「この島へ来たときだな」




次作は、2週間後を予定しています

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