81
明と白田カップルは車を走らせ、遠く離れた場所へ向かっていた。
81
車を走らせて一時間。
今は山の中の高速道路を走っていた。
向かう場所は、静かでのどかな場所。
そこでピクニックをしようと、白田は言った。
てっきり賑わう街へ行き、そこで食事でもするのかと思っていた明。
ピクニックと言うのだから、お弁当の用意はしているのだろう。
「なぁ・・・この車、まだ新しいよな」
車に乗った時、少しばかり違和感を感じた。
だが色々と会話をしていく中で、その違和感は頭の片隅に追いやられていた。
それが会話が途切れた瞬間に思い出され、運転席の男に顔を向けて問い掛ける。
「うん。実はね・・・・納車がつい3日前だったんだ」
「え・・・買い替えか?」
「ううん。車が無くても会社の車を使ってたから不便は無かったんだけどね・・・明と色んな所へ行きたいなと思って、買っちゃったんだ」
「・・・・・・・・・え・・・?は?わざわざ?」
「うん。わざわざ」
さすがの明もコレには呆れる。
こんないい車、そう簡単に買えるものでもないし、切っ掛けが自分と恋人になったから・・・・なんて。
だが付き合い出したのは一週間前、新車を買ってすぐに手元に届くとは思えない。
「・・・・買ったのいつ?」
「ん〜〜三週間前かな」
「それって・・・まだそうなるなんて、解ってね〜じゃねぇ〜かよ」
「なるものだと俺は思ってたよ」
付き合うことが解りきっていた男の言葉に、明は言葉をつまらせる。
「俺も明の事好きだったし、明もそうだと思ってたから・・・遅かれ早かれ恋人になると思ってた」
真っ直ぐな道路に向けていた白田の視線が、明に向く。
優しく微笑む男の顔に、明は思わず頬が熱くなるのを感じた。
自信家めっ!と皮肉りたい気持ちもあるが、それよりも嬉しさが込み上げてくる。
どういう顔をしていいのか解らず、明は助手席の窓に顔を向ける。
体に触れる行為やキスは平気でするくせに、こういう空気はどうも苦手と感じてしまう。
胸がキュンキュンして、甘くうずく。
何も言わずそっぽを向いてしまった明。
だが運転席の男はそんな彼の気持ちが解っているのか、クスリと笑いを漏らした。
「もう少ししたら、サービスエリアがあるから一度休憩しようか」
「ん」
顔を向けずに返事を返す明の髪を、一度だけ男の手が撫でる。
すぐに離れた男の手に物足りなさを感じつつ、明は流れる景色を黙ってみていた。
それから白田の言った通り、数分でサービスエリアの標識が見えてきた。
やがて大きな駐車場へと車が入っていき、停止。
休日というだけあって、エリア内は車も人も多い。
2人は車から降りて、店舗が並ぶ場所へと足を運ぶ。
「明、飲み物買おうか?」
「ん」
肩を並べて自販機コーナーへ向かう2人。
その場に居た女性たちの視線が、2人を追い掛けてくる。
「明は、ブラックだよね?」
「ん〜〜違うの飲もうかな・・・・ちょっとまて」
「どうかした?」
「お前が出そうとかするなよ」
自販機の前で財布を取り出す白田に、明は手でそれを制す。
「俺は女じゃないし。お前は運転してんだから、掛かる金は俺が払うのが道理だろ」
「そんな事気にしなくていいのに」
そう言うと思っていた明は呆れた視線を男に投げかけ「お前、逆だったらどうするんだよ」と問いかけた。
男は視線を斜め上に向けて一瞬の間の後、明に顔を向けて困ったように笑う。
「じゃ明、ご馳走になるね」
と答えた。
明の気持ちを理解したようで、白田は財布をパンツのポケットに直した。
「お前は何飲むんだ?」
「ねぇ、明・・・そろそろ名前で呼んでくれないかな?」
「!?」
コインを自販機に入れていた明の手が、止まる。
唐突に要求された名前呼び。
白田さんと会社で呼ぶ以外、普段はたまに白田と呼び捨てだが、殆どが【お前】呼び。
「・・・・・・・」
何故今言うんだと、責めるような目を男に向ける。
そんな明に、期待いっぱいのニコニコとした表情。
「・・・・・・・・まだ早い」
「早いって」
「早く押さね〜と、俺が適当に押すぞ」
と明はお汁粉のボタンに指を乗せる。
「解ったから、それ押さないで」
と今にもボタンを押しそうな明の手を握り、止める。
そしてその手を握ったまま、ミルクたっぷりのカフェオレのボタンに明の指先を押し付ける。
「?」
白田はボタンを押したタイミングより早く、機械が反応した事に首をかしげた。
「あっ!明!?」
そして握っていない方の明の手が、お汁粉のボタンを押しているのに気がついた。
「酷い・・・」
「甘いの好きなんだろ」
「だからって、お汁粉で喉は潤せないよ」
「責任持って飲めよ」
と取り出し口から出てきたお汁粉を、白田の手に押し付ける。
ガックリと肩を落としている男にしてやったりと笑い飛ばし、今度は自分の番とコインを入れてブラックコーヒーのボタンに手をのばす。
が・・・・止められた。
白田に背中から覆いかぶさられ、ボタンを押そうとしていた右手の手首を掴まれる。
そして先手を打って、明の左手もガッチリホールド。
「明も好きなの飲めると思ってるの?」
こめかみから聞こえる男の低い声。
ゾクリとした痺れが背中を駆け巡る。
「おいっ!」
くっつきすぎだと抗議する明に、男は楽しそうに明の右手を操る。
そんな2人に、周りの人間は好奇心の目。
だがそれは男同志でイチャついている様には映っておらず、友人同士でふざけて合っていると思っているのだろう。
それに2人は外見だけはピカイチという事も重なっているので、余計に人の目を引きつける。
「あっ!お前!!」
明の手がボタンに押し付けられる。
ガコンと取り出し口に落ちてくる缶。
それを白田が取り出し、明の手に乗せた。
「はい」
「お前なぁ・・・・絶対許さねぇ。覚えてろ」
甘きものが苦手な明の手に収まっている、お汁粉の缶。
明の口から出たのは恨み節だが、本気で怒っているわけじゃない。
やり返したとおかしそうに歯を見せてわらう男に、明も釣られて笑う。
笑いながら自販機コーナーを後にする白田の背中に「逆に喉が乾くだろうが」と言葉と拳をボスンとぶつける。
背中にぶち当たった拳を後手で掴む白田。
そして自然な動作で、明の手を握り直す。
「大丈夫、車にお茶をつんでるから」
「それを先に言えよ」
男に恋人繋ぎされ、そのまま車のある方へと向かう。
明は人前で手を繋ぐ行為に少し戸惑いながらも、その手を振り払わなかった。
どうせこんな遠く離れた場所では、知り合いと会うこともない。
それに、温かく大きな手が心地よく放しがたかった。
82へ続く




