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74

2回目となる明の自室。

恋人となってから初めての訪問に甘い期待をしつつも、本題は鷹頭のストーカー行為



74



愛野宅



鷹頭を家の前まで見送り。

明と白田は再び家の中へ入る。


「食後の珈琲とデザートだよ」


太郎が2人を待ち構えてたかのように、玄関でトレイを手に立っていた。

トレイの上には湯気がたった珈琲と、小さく丸いチーズケーキ。


「ん」


小さく声を発するも、トレイを受け取らず階段に足を掛ける明。

客人である白田が、太郎の手からトレイを受け取り


「有難う御座います。いただきます」


と礼を述べて、明の後を追って階段を上がった。

2回目となる明の自室。

以前は意識を失った明を運ぶため・・・・だが今回は違う。

あの時もドキドキが止まらなかったが、晴れて恋人となった今では甘い期待さえも沸き起こる。

だが、今日はそういうつもりで来ているわけじゃないと自分に言い聞かす。

何故、鷹頭が明の家に居たのか・・・・・あくまでその経緯を聞く事が目的だ。


「エアコン切るとさみ〜な」


部屋にいち早く入った明は、壁に掛けているエアコンのリモコンを弄っている。

そんな彼の姿を眺めながら、手に持ったトレイを置こうとローテーブルに近づく。


「これ・・・・」


そして目に入った、テーブル一杯に広げられた写真。


「あぁ、今どける」


明はローテーブルの前に膝を付き、テーブルの上の写真をかき集める。

白田は空いたスペースにトレイを乗っけて、カーペットの上に腰掛けた。


「その写真は何?それと鷹頭が関係してるの?」


食事前までこの部屋に居ただろう鷹頭。

テーブルに広げっぱなしの写真を思えば、簡単に結びつく。

一目見た時はまさか明の隠し撮りかと思ってしまったが、被写体として写っているのは別の人間。

だが何故か、真正面ではない。

隠し撮りのように、距離も疎らで横からや背後からのアングル。

写っている人物は、年齢や性別格好もバラバラだ。


「鷹頭が持ってきた・・・」


そう言うと明は、一つに纏めた写真の束を白田に差し出す。


「見ていいの?」


「その事も、話さなきゃいけねーし・・・本当は日曜日に話そうと思ってたけどな」


写真の束を受け取り、一枚一枚噛みしめるように確認する。

写真には見切れたり、ピントが合ってない明の姿が写っている。

被写体として写っている人間は以前、由美が言っていた興信所の人間だと考えられる。


「オレの祖母が、興信所を雇ってオレの身辺調査をしてる・・・・・」


「明ごめん・・・実は先週の日曜日に桜庭さんから聞いてたんだ。それで明の事が心配でフスカルに行ったんだよ」


「・・・・そう」


「怒った?」


「別に、あいつはあいつで心配してお前に連絡入れたんだし・・・・・そのお陰もあるから」


由美のお陰で、晴れて恋人になれた・・・・

最後まで言わない明だったが、白田には明の言いたいことが伝わった。

思わず、口元が緩む。


「俺も、桜庭さんに感謝してるよ」


じっと見つめてくる明の瞳に、ふわりと笑いかける。

今、恋人としてここに居れることが幸せだと意味を込めて。

何も音がしなくなった明の自室。

だが漂う空気は甘く感じる・・・・・・・


「駄目だ・・・」


そんな中、明は何かを取っ払うようにふるふると頭を振る。


「ちゃんと話ししね〜と・・・」


甘いムードでこのまま明の体に触れる気満々になっていた白田も、明の言葉にそうだそうだと下心を抑え込む。


「鷹頭が・・・・まぁ・・・オレにストーカーしてて」


「え・・・・」


あまりの衝撃に、白田の手から写真がバサバサとカーペットに落ちていく。

それでも明の言った言葉が頭に入ってこないのか、あんぐりとした表情で彼をただただ見つめる。


「ぷっ・・・はははははは」


「明・・・笑い事じゃ」


「だって、お前の顔・・・はははははっ」


明は白田の表情を見て、腹を抱えて笑う。

自分がどんな顔していたのか自覚が無い白田は、そんなに爆笑する程?と思わず自分の顔を確かめるように手を当てた。


「明、この件に関してはうちの会社の問題でもある」


「待て待て。あいつには、今回は目を瞑るって言ったし忠告もした」


「だけど」


「オレは全くあいつの存在に気がついてなかったし、それに結果オーライだし」


「この写真で?」


「見ろよ、これ」


そう言うと明は、落ちている写真から数枚を手にしてテーブルの上に表にして並べる。

白田はその写真がどういう意味があるのかと、ジッと見下ろす。


「これ・・・フローラの社内?それにこれは、家の庭・・・完全に法に触れてるじゃないか!」


「そうなんだよ。オレの会社のセキュリティもどれだけ杜撰かよく解った」


「・・・まって、これ鷹頭が撮ったなら、あいつも・・・」


愛野家の庭の写真は敷地外から撮られているが、会社内の写真は明らかに不法侵入。


「それはこの際、目をつぶってくれ。問題はこの家の敷地で撮られた写真なんだけど、鷹頭が言うには今朝撮り立てほやほやなんだ」


「はぁ・・・・あいつ・・・」


もう言葉が出ない。

そんな早朝にまで、家に押しかけるとか・・・・

明は目を瞑ると言っているが、白田としてはそう簡単に許せない。

雛山を虐め、更には明の唇を奪い(都合変換)、尚且自分より先に明に告白。

正直に言えば、他社の人間をストーカーした行為により会社から追い出してやりたい。


「でこの男が去った後、鷹頭がバイクに何してたか確認したんだ」


会社だけではなく、家まで不法侵入していたと確定した。

険しい顔の白田は、よもや溜息しか出ない。


「で、これが見つかった」


コトンと白田の前に置かれた、小さな機械部品。


「GPS」


「!?」


「あいつが見つけてくれなかったら、この先オレはコレを付けたままバイク乗り回してた」


「明・・・君の祖母はそこまでする人なの?」


「・・・・・そこまで興信所に指示はしてないだろうけど、そういう事を平気でする人間だな。家を守るためなら、平気で家族を切り捨てる」


「・・・・・・・・」


由美から聞いていた時は、そこまで深刻に考えてなかった。

こうやって改めて明に行っている好意を知れば、背筋がゾワリとする。

普通の家庭に育った白田にしてみれば、繁栄と相続で家を守る古い家事情はドラマや小説で読むぐらいの知識しかない。


「長男の雅も籍を抜いているし、長女の息子のオレも・・・祖母の性は名乗ってない。跡取りが居なければ分家から養子を貰えばいいんだろうけど、・・・プライドの塊みたいな人だからな。常に上から目線で、全て自分の言うことが正しいって思ってる婆だよ」


忌々しげにそう口にする明。

だがその後には顔を曇らせ、白田から視線を外してこう続ける。


「・・・・・・けどまぁ、オレも昔は嫌ってはいながら・・・・倖田の権力使って好き勝手してたから何も言えないけどな・・・」


何かを思い出したように、悲しげに眼を伏せる。

そこに明の過去が絡んでいるのだと察した白田は、明に手を伸ばし髪に触れる。

日曜日に触ったときと違って、整髪料で固めた髪。

それでも愛おしい人の髪。

優しい手付きで、その髪に指を絡める。


「明、今日は鷹頭の事もあったし疲れただろう。昔の事は・・・今度にしよう」


日々興信所の人間を避ける生活をしている明。

そして今日の鷹頭の訪問に、精神的に疲れているだろうと心配になる。

まだまだ時間は沢山ある、明の過去を明の口から聞くよりも先に解決しなくちゃいけない事がある。

今の現状を何とかしなければ、外で堂々とデートする事も出来ない。


と・・・・


そこで白田は気付いた。


「!?明・・・どうしよ、俺普通に家に来ちゃったけど!!」


もしかして興信所の人間に見られたかも!と焦る白田。


「ご近所パトロール隊が活動している時間帯は大丈夫だ。あいつらもここら辺には近寄れね〜よ」


「ご近所パトロール隊?」


「問題は寝静まった後だな・・・センサーライトとカメラを設置するしかないかぁ・・・。あ、珈琲冷めちまうぞ」


思い出したかのように珈琲に口をつける明に、目をパチクリとして見ている白田。

ご近所パトロール隊が何なのか、解らずのまま・・・・・

だが「いらねぇ〜のか?」と明の問いかけに、そんな事はどうでもよくなった。

今は明の部屋でお茶する時間に専念しようと、白田は明の側へと移動し座り直した。

お互いの肩が触れる。

明の体温を感じながら、手に持った温くなったカップに口を付ける。


「最初はオレの後を付いていく事が目的だったけど、最終的にはあいつ興信所ストーカーになってたみたいだし。どこの事務所の人間かも調べてた・・・・」


「まぁ、今回は許してやる・・・・」


ストーカー行為は許される事じゃないが、確かに明の言う通り結果オーライだ。

お礼は言う気にはならないが、今回限りは許してやろう。

白田はほっとため息を吐き、カップをテーブルに置く。

すると明の手が白田の頬に添えられる、顔の向きを変えられ明の瞳と目が合う。

甘い疼きが胸を支配し始める。

薄っすらと開いた明の唇が近づき、白田も吸い寄せられる様に自ら顔を寄せた。



75へ続く

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