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20歳年上の江口洋介に負けた雅。

ガッカリしている彼の携帯に、明から着信があった。

57



フスカル



本日は雛山出勤の日。

この曜日に出現率が高い客が二組、今日も来店中。

雛山を気に入っている枇杷のサラリーマン三人組と・・・・・フスカル唯一の女性の常連となった由美。

由美がフスカルに出入りしている事は、明は未だ知らない。

桃と仲が良いのは以前からだが、そこから林檎や他の常連ともあっという間に仲良くなり、BOX席で一緒に飲んでいる姿は違和感がない。

ワイワイと賑わっている店内を、雅はタバコを咥えながらボウと眺めている。

カウンターに座る枇杷達の相手は雛山にまかせて、注文が入っていない今は小休憩というところ。


「ピヨちゃんは、どういう男性が好みなの?」


雛山狙いの枇杷は、今日も青年を口説いている。

だが、恋愛経験ゼロの青年はなかなか気持ちが伝わらず、しかもお客はお客と割り切っている雛山に一人の男として意識してもらえていない。

かなりの長期戦だ。


「好み・・・ですか?ん〜〜〜どうなんだろう」


「今まで好きになった人とかは、どんなタイプだった?」


「好きな人?そんな人居たかな〜〜」


「え・・・じゃ、何でゲイだって思ったの?」


「テレビとか見てる時に、素敵だな〜とか格好いいなぁ〜って目が行くのが男性ばかりだったので」


「じゃ〜好きな芸能人は誰?」


「江口洋介さん素敵ですね」


「へぇ〜〜渋い人が好みなのか〜〜。なら、雅さんみたいなのがタイプ?」


2人の会話を流し聴きしていた雅は、自分の名前を呼ばれてピクリと反応する。


「年が離れすぎてます・・・・」


「おいっ!江口洋介より年下だぞ!」


雛山にただ拒否られた事より、自分よりも20歳以上上の俳優と比較された上に何故か拒否られた事にイラっとする雅。

過剰に反応した雅に、2人は笑い声をあげる。


「雅さ〜〜んっ、サラミとチーズ3人前ちょうだ〜〜い!」


そこへBOX席の由美から注文を受ける。

解ったと手を挙げて示しジロリと雛山をひと睨みしてから、足元の冷蔵庫からサラミとチーズの塊を取り出す。

ナイフでサラミを一枚一枚切り始めた時、雅の携帯が鳴り出した。

メッセージではなく、電話の着信音だ。

手がサラミの油で滑っている雅は、雛山に「スマホ前に置いて、スピーカーにしてくれ」と指示を出した。

相手が誰かは確認していなかったが、そこは大して気にしない。

雛山は「はい」と返事をして、雅の尻ポケットからスマホを取り出し指示された通りにした。


「お前か・・・」


電話の相手は明だった。


「おい、バイク貸せ」


「いきなりかよ。最近乗ってねぇ〜から一度整備しね〜とまともに走らんぞ」


明の会話は筒抜けで、カウンターに居る人間はすべて聞こえているだろう。


「チッ」


「何だ、どっか行くのか?」


「クソ婆が、興信所頼みやがった。多分今朝からずっと尾行されてたかもしんねぇ」


「・・・・・」


雅の手元がピタリと止まる。

眉間にシワが寄り、小さく「糞が」と言葉が漏れる。

こういう時に限って、他人に聞かれたくない内容だった。

気安くスピーカーにしなけりゃよかったと、今更ながら後悔する。

カウンターに居る人間がじっとこちらの様子を伺っているのを感じ、スマホが汚れようがもう気にしていられない。

スマホを手に持つと、通常の通話に切り替えて厨房へと向かう。


「なんで今さら、身辺調査なんてするんだ!」


雅はイラっとし、明に当るように声を荒げる。


「・・・・・二日前・・・バッタリ会った」


「何で昨日、言わなかっ・・・・・いや」


昨日は明がフスカルに入ってた日。

何故言わないと怒鳴りつけそうになり、意味のない事だとすぐに冷静になる。

雅を気遣って言わずにいたのだろう。

明もバッタリ出くわして驚いただろうし、きっと関わるなと釘をさす事もした筈だ。

母親の事だ、釘を刺されてもへこたれないに決まっている。

だから翌日に興信所へ行き、早速依頼したというところだ。

太郎の実家は知られてる。

明が言うように、早朝に家からずっとつけていた可能性が高い。


「昨日は何処かへ寄ったり、人に会ったりしたか?」


「会社からボクシングジムに行った。ジムから出たときに気付いて撒いたから、その後は大丈夫だ」


「なら・・・・また明日来るだろうな。お前の交友関係も調べ尽くそうとするぞ」


母親の目的は跡取り。

明に現在付き合っている女性が居るかどうかが、知りたいのだろう。

居るとなれば倖田家の嫁として相応しい家の出なのか調べられる・・・・・・相応しくないと思えば、その女に金を掴ませ別れさせるだろう。

そして縁談・・・・・自分の時のように、どこの女かも知らない女と結婚を迫る。


「ジムのオーナーと、社長には連絡した」


明が尾行に気がついたなら、明の周りから情報を得ようとするだろう。

その事を予想して、明も早々に手は打ったようだ。

その2点以外で、情報を引き出せる場所・・・それは愛野家の周りだ。

噂好きの奥様達に近づいて聞けば・・・・


「ふっ」


雅はある事を想像して笑う。


「何だよ」


「いや・・・・ご近所さんに聞いて回りそうだが無理だろうな。お前と俺があの家から叩き出されたのは、あの地区の人間なら知ってるからな」


「あぁ」


明も言わんとした事を察したのだろう。

かなり昔、ある週刊誌の記者が明のその後の事を取材しに来た時・・・・近所のおばちゃん軍団が袋叩きにしたと、日富美から聞いた。


「何でそっとしてあげないの!?」


「親子で頑張って生活してるのよ!!」


「鬼!悪魔!!」


口々に罵りながら、大根やら、ネギやらで記者をぶっ叩いたそうだ。

あの事件の事を知った上で、倖田家から追い出された明と太郎をいつも気にかけていた人達だ。

その中には日富美の母親も居て、記者がたまらず逃げ出したのは、最終的に日富美の母にバケツの水をぶっかけられたかららしい。

今回も愛野宅の事を聞いて回れば・・・同じ様な事になりそうだ。


「暫くは無闇に出歩くな、ここにも来なくていいから」


「無理、今まで通り行動する。何かあのクソ婆のせいで、色々我慢するのは負けた気がする」


「お前なぁ〜〜〜」


気持ちは解らないでもないが、意地を張っててもあまりよくない状況。

もう父親もいい年だ、跡継ぎ欲しさに強引に迫ってきそうな気がする。

諦めて分家から養子でも貰えばいいのに、分家をやたらと蔑んでいたからプライドが許さないのだろう。


「バイクの整備、どれぐらい掛かる?」


「明日、知り合いの所に持っていくから待て」


確かに、尾行を避けるにはバイクが手っ取り早い。

車で後をつけられても、バイクなら安々と撒ける。

だが倉庫の奥で眠っているバイクを、すぐには引き渡せない。


「あ〜〜〜なら、用意出来るまでこっちで何とかする」


「解った・・・・・気をつけろよ」


正々堂々と愛野宅に乗り込まず、回りくどい事をする母親。

明が簡単に跡取りにならない事を知ったうえでの行動だ。

まるで明の弱みでも探っているようで、胸糞が悪い。


「あのよ・・・・・・」


もう用は済んだと思ってた矢先、明が何かを言いかける。


「あ?何だ」


「・・・・・あのよ・・・・・・・あの・・・・よ・・・」


「だから何だって、さっさと言え」


なかなか、「あのよ」から進まない明。

こっちはサラミを切ってる途中だ、早く言えと焦らせる。


「桃と付き合う時・・・・どうやった?」


「は?」


「だからどうやって、付き合った?」


「・・・・・・・・・は?」


人様の恋愛話など、興味のかけらもない相手からの質問。

雅は質問の意図が解らず、は?しか言えずにいる。


「っ・・・・もういい!!」


電話口からいきなりの大声。

そしてプチンと切れる電話。

じんじんとする耳に顔を顰めてる雅。

そこでようやく、明が聞こうとしていた事が解った。

桃と雅のなれそめなんて、興味は無いはず。

ならば・・・何故、聞いたのか。

それは参考にしたかったからだ。


白田とどうすれば・・・・・・


「まじか・・・・・・」


呆然と呟く雅。

近々太郎に、謝りに行かなければならないかもしれない。

結果として、この道に引きずり込んでしまった事を・・・・・


ただ・・・・白田とどうこうする前に、明には乗り越えないといけない壁もある。

過去からずっと引き摺っている壁。

明は白田と出会って、やっとその壁と向き合おうとしているのかもしれない。



58へ続く

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― 新着の感想 ―
[一言] 明の気持ちが固まった事はOK。そっち側の親、気になってたんですよねぇ。太郎さんは良すぎるくらいいい人なのになあ。
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