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ヘトヘトクタクタの雛山。
何とかボクシングジムでのメニューをこなし、やっと帰宅できると思ったが・・・
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身体が重い・・・
ダルいし、眠気で頭がボーとする。
ボクシングジムを出た雛山は、駅前の交差点に立っていた。
このまま電車で家に帰るのが、かなり億劫になっている。
2回の乗り継ぎをしないとと思うと、気が滅入る。
ならば交差点で10分もボーと立っておらず、さっさと電車に乗ればいいのだが・・・・・ジムを出る時に明に言われたのだ。
この交差点で待つように、と。
いつまえで待ってればいいのだろう・・・・とため息を吐き出した時、目の前に一台のバイクが止まる。
「ほらっ」
バイクに跨った明が、ハーフヘルメットを雛山に差し出す。
「え?」
「え?じゃね〜よ。ヘトヘトで電車乗るのつれ〜だろうが、さっさとメット被ってさっさと乗れ」
口の悪さとやたら急かす男の申し出はありがたい。
ありがたいが・・・・
「駄目です!」
「はぁ!?何がだ?」
「白田さんに殺されます!」
「・・・・・・・・・」
明のバイクの後ろに乗るだなんて、恋人の白田に知られたら・・・・・
明の優しさは時に恐怖を誘い込む。
白田の嫉妬という恐怖を・・・・
無言の明は、フルメットのお陰で表情は解らない。
だがきっと、呆れているのだろうと予想出来る。
「いいから、乗れ」
「う・・・」
明の声が一段と低くなる。
イラッとしているのだろう。
雛山はうううと唸りながら、ハーフヘルメットを被る。
今は目の前の明が怖いから従うとして、白田にバレた時は全力で逃げよう・・・・。
雛山は覚悟を決めて、明の後ろに座る。
乗り心地は竜一のバイクと違うものの、一度経験しているからか恐怖は感じなかった。
「明さん・・後ろ掴むの無いです」
「タンデムバー付けてないぞ、このバイク」
「え!?」
「オレに掴まれば、いいだろうが」
「白田さんに殺されます!!」
「これで2回殺される事になるわけだな。一回も二回も変わりゃしねぇ~し。ほらっ、さっさとしね〜と発進するぞ」
「うううぅ〜〜〜」
もうこれは諦めるしかない。
雛山は明の言う通りに、彼のウエストに腕を回す。
「抱きついて来るくせに、今更だろうが」
「それはそれ、これはこれですぅ〜〜」
情けない雛山の声と、発進するエンジン音が重なる。
白田の目の前で抱きつくのと、知らない場所で抱きつくのとは別物。
要らぬ疑いを掛けられて、余計に嫉妬を煽りそうなのだ。
それに雛山と一緒にボクシングへ通いたいと言っていた白田に、明は絶対来るなと釘を指していた。
その事でも会社で顔を合せれば「本当にボクシングジム行くの?」と訊かれ、「続けられるの?」と訊かれ、「やっぱり行くの?」と訊かれ・・・・あまりのしつこさに、廊下を歩く度に白田が居ない事を確認して、社内を移動するようになってしまった。
恋人になれば少しは余裕が出来ていいとは思うのだが、余計に悪化している気がする。
傍から見ても、明が白田意外の人間に気持ちが傾く事などないと解るのに、本人は何をそんなに不安に思っているのだろうか。
「終わってから、マッサージしたから明日は大丈夫だと思うけどよ」
バイクを走らせたまま、明が話しかけてくる。
大きめな声なので、エンジン音が邪魔していても雛山の耳にはちゃんと届いた。
「帰ったら、半身でぬるま湯に20分以上は浸かれよ」
半場強引に誘ったのは明だったが、色々と気遣ってくれる。
それが擽ったくて嬉しい。
運動後に、体をマッサージしてくれた。
運動不足な身体に、運動の疲労を和らげる為のリンパマッサージ。
リンパが詰まってるトコロは痛いぞと明が言った通り、足や腕の付け根は悲鳴を上げるほど痛かった。
だが途中からは眠たくなる程に気持ちよく感じてしまい、明がシャワーを浴び終えるまでジムのマットの上で眠っていた。
それも、犬の添い寝付きで。
それに運動自体はキツかった・・・・犬の散歩という名のマラソンに、5分5セットのスパーリング。
そこから縄跳び500回に、バランスボールを使用した筋トレ5分を3セット。
ちょこちょこ休憩は挟んだが、途中意識が遠のいた時があった。
近くで明も体を動かしていたが、雛山のメニューよりもハード。
汗は掻いていても、涼しい顔で全てをこなしていた。
「僕も明さんのメニュー、こなせるようになりますか?」
「10年はえ〜よ」
「ですよねぇ・・・・」
「週イチでやるには時間が掛かる。今日教えた筋トレ、寝る前に10回ずつやれ。一日1回増やしていけば、1ヶ月で軽く出来るようになる。」
「10回か・・・・」
それなら出来そうな気がする。
運動は大変で身体も疲労が凄かったが・・・・全てを終えた後に、達成感だろうか・・・・とても気分は良かった。
「僕も、腹筋割りたいです」
「それはお前次第だろう」
引き締まった明の身体。
ふと瞬間に見てしまった明のお腹。
おヘソのピアスにはビックリしたが、綺麗に割れた腹筋に目が釘付けになった。
それを思い出して、明のウエストに回した腕にギュッと力を込める。
細い・・・・・
自分の方がチビなのに・・・・明の方が腰回りが細い。
これが運動もせずに、毎日甘いものを食べてきたツケなのか・・・・・
腹筋を割る前に、まずはぷにぷにお腹の贅肉を落とすことになりそうだ。
そう思ったら、目標が出来た。
初日の今日、無理そうなら断ろうと思っていた雛山。
だが、今では頑張って続けてみようかなという気持ちが強くなった。
そう思えたのは色々と面倒を見てくれる明や、ジム内の人達の気遣いもあったが、あれだけ身構えていた竜一と関わらない環境にもあった。
昼間にトレーニングを終わらせている竜一は、夜にジムに居ることはそうないらしい。
今日はたまたま、事務所の用事で顔をだしていた。
それならば、あれ以上余計な言葉を聞かなくて済む。
そう思ったら、ジムに行くのも気が楽になった。
99へ続く
100話まで後少し!
なのに、雛山君の進展が遅くてすみません。




