血苫(ちとま)の幽霊
小説用に会話のやりとり等は短くしようとも思いましたが、面倒だったのでその時の流れをそのまま書きました。
自分が体験した心霊体験の中ではそれなりにオチが付いた件だったので好きなのですが、フィクションと比較してしまうと怖くは無いかもしれません(笑)
「ねぇ、ソーシ。『血苫の幽霊』って知ってるかい?」
俺が漫画本を読んでいたらスマホを触っていたリッチーが話しかけてきた。
「血苫?血苫って車でちょっと行ったところにあるアレ?あそこ、幽霊出るの?」
俺は漫画の読んでいたページに指を挟み、リッチーの方を向いた。
「らしいよ。えーっと……読むね」
そう言ってリッチーは、今見ているらしい画面を読み上げだした。
「──血苫の幽霊──
『50年くらい前の話だけど、血苫に住んでいた30代の夫婦が住んでいたらしい。
夜中に妻が目を覚ますと、包丁を持った男によって夫が惨殺されていたらしく、部屋中は血まみれになっていたらしい。女性は慌てて逃げ出すが近くの竹藪でめった刺しにされて殺された。死体はその近くの池に棄てられた。犯人は結局捕まっておらず、その無念からかそれからその池では夜な夜な女性の霊が現れて、こっちにおいで……こっちにおいで……」と手招きをしてくる。そしてその霊は宙を浮きながらスーッと近づいてきて捕まるとあの世に連れて行くらしい』
……なんだって」
「ほーー。まぁ、よくある心霊系の話だな。手招きしてたくせに結局自分から来ちゃうのか。我慢弱い霊だな。怖い話にいつしか尾鰭がついちゃった感じだな」
「アハハ、確かにそうだね」
リッチーは軽く笑って相づちをうってくれたが顔は笑っていなかった。
「……でもね、この事件、本当にあったらしく、ここにその当時の新聞記事の画像も貼り付けられてるんだよ」
そう言ってリッチーは俺にスマホを向けてきた。
確かに画面に新聞の画像が上がっていた。上の方にローカル新聞の名前も書かれていた。
「マジのやつか……」
「そうなんだよ。しかもね、この家は事件で当時警察が来た時に部屋中が血で真っ赤に染まっていた事から『赤い家』と呼ばれて有名だったらしい。どうやら昔テレビの心霊特集でも取り上げられてたらしいよ」
「こんな田舎にテレビが来てたのか!よりによって心霊特集で来られるってなんか悲しいな」
「そこで、家の様子が映しだされたりしたらしいよ」
なんだが急に興味が湧いてきた。
幽霊を信じないわけでは無いが、これまで何度か心霊スポットと呼ばれるところに行った事はある。だが、毎回思うのは「ここは幽霊が出そうな不気味な場所」というだけで、別に何か過去に事件が起きたというわけでも無いのがほとんどなのだ。
みんな心霊スポットと肝試しスポットを履き違えている。
俺は正直な話、虚勢を張っているが実際はビビりだ。
だから好んで真っ暗闇の怖いところを歩きたいわけじゃない。そんな、なんの生産性の無い事に興味は無いのだ。
だが、幽霊が本当にいるのかどうか、そこには興味があった。
この事件は新聞に載っていた、テレビ局まで来ていたという点から信憑性が高い。少なくとも他の超有名な心霊スポットに行くよりもここに行った方が幽霊と遭遇する可能性は高い気がする。
だが俺はビビりだ。
「俺は思うんだよね。なんで幽霊って夜に現れてるんだろう?時間帯的に現れやすいって事?それよりもさぁ、昼間に幽霊が出たとしたら、そっちの方がなんか怖くねぇ?」
俺はテキトーな理由を付けてどうにか夜の散策を避けようとした。
「ソーシの言う通りかもね。夜の方が霊的な力が強まりやすいとすると、もし昼間に現れてるんだったら夜の力を借りなくてもいいくらいに霊的な力が強いって事だもんね。それは見物だね!」
リッチーがうまいこと俺の昼間散策案に食いついてくれた。
「だろ?それに、動画撮って映り込んでたらさらに霊の力が強い気がするんだよな!昼間の方が明るいから撮影にも向いてるだろ?」
「おー、いいね!最近スマホ換えたばかりだし撮影したいね」
そういうわけで俺達はその場のノリで血苫までドライブに出かけた。
今は土曜日の昼間だ。若者二人がせっかくの週末に予定も無く部屋でだらだらしているにはあまりにも非生産的だった。別に心霊スポットに行く事が生産性があるわけでは無かったが、要はなんでもいいからテキトーな口実を作って出かけたかったのだ。
俺は運転をし、リッチーは助手席で『血苫の幽霊』の書き込みを見返した。
「殺人事件のあった赤い家。それから家の近くの竹藪。さらにその近くに池。この配置のロケーションってわけだね」
「あぁ。なんか探偵みたいな気分でワクワクしてきたな!」
「今、地図アプリの航空写真で血苫を調べてみたんだよね」
リッチーがそう言ってスマホを見て欲しそうに言うので俺は一旦路肩に車を停めた。
「こうやって見ると案外血苫って一つの町は小さいもんだな。えーっと、ここが血苫駅で……その周りに道路があって……あとは家がポツポツ……っと。あんまり建物も無いから探しやすそうだな」
「そうだね。真っ昼間だし血苫をぐるっと走っても数分程度でまわれそうだね。とりあえず走ってみようか!」
俺達はひとまずリッチーのナビで血苫を走ってみることにした。
血苫は本当に田舎で、小さい無人駅が一つと、あとはそこを中心に道路と家があるが、駅を中心に栄えているわけでも無く家もまばらでほとんどが畑や藪ばかりだ。
俺の中で車で通る道としての認識しかなく、理由があってここに来る事は初めてだった。
「えーっと。家、竹藪、池。家、竹藪、池……っと」
「家、竹藪、池。家、竹藪、池。あっ!竹藪!!」
リッチーが第一竹藪を発見した。
全然車も通らないのでテキトーに車を停め、スマホの航空写真と見比べる。
「おー、確かにこれは竹藪だな。となると池は……どこだ?」
「航空写真には載ってなさそうだね。車で回ってみようか?」
航空写真より自分の足を信じるというなんとも非効率的な作戦だったが、それも暇のなせる技だろう。
「池……家……。池……家……無いな」
「無いみたいだね。あ、今航空写真見てたんだけど、同じように竹藪がありそうなところがあと3ヶ所くらいあったよ」
「おー、じゃあ今度は航空写真に従ってみるか。どうせ進行方向だしな」
多分二人ともこの先に待ち受ける現実に対して薄々気づいているのだ。
どうせ赤い家を見つけたところで立ち入り禁止だとか、既に地元のヤンキーに荒らされていて残念な結果になるんだろう、と。
だから今、情報を元に赤い家を探すという過程を楽しめさえすれば良かったのだ。
案の定、他の3ヶ所も何も無かった。
そこでリッチーから衝撃の事実が告げられた。
「今調べてみたんだけど、どうも赤い家は10年前くらいに取り壊されてるらしいよ……」
「なにーー!!この行き場を無くしたワクワク感!どうしろと言うのだ!」
「そうだよねぇ。せめて跡地だけでも見て見ようか。この先真っ直ぐ行って曲がったところらしいよ」
「あぁ、そうだな。リッチー、とりあえず動画撮っててくれ」
「オッケー」
俺は少し車の速度を落としながら赤い家の跡地とやらの周りをぐるりと回ってみた。跡地にはその地区の公民館?掃除用具とか防災用具置き場?よくわからないが何かしらの建物が建っていた。
動画を取り終えたリッチーがスマホを読み返しながらこう言った。
「竹藪と池……。今、記事を読み返してみたんだけど、もう一つヒントになりそうな文章に気づいたんだよ。『女性は慌てて逃げ出すが近くの竹藪でめった刺しにされて殺された。死体はその近くの池に棄てられた』という部分なんだ」
「つまり、この家の近くって事だな。さすがに犯人から追いかけられて数キロ先までマラソンみたいに逃げる事は無いだろうな」
「ハハハ、そうだね。この近辺でもう一度探してみようか?」
「そうだな……と言ってもこの近くの竹藪って、さっき走った感じだと……あったけ?」
「うーん。まぁ、走ってみよ!」
「そだな」
もう半分やけくそだった。
なんならそこらへんのおばあちゃんとかに聞き込みしてみようかとも思った。きっと地元の人はこういう話はあまり好きじゃないんだろうけど、俺達は何かしら結果を求めていた。
「あ、あそこ竹藪だ!!」
リッチーが左側を指差した。
俺も一応最初からその竹藪に気づいてはいた。気づいてはいたのだが、竹藪と呼ぶには多少竹が少ない気がしたし、何よりここは血苫駅だ。
どうも文明の手が加えられている場所というのが気に入らなかった。『竹藪と池』、このワードに未開拓の土地を期待していたのだ。
先ほどの赤い家の跡地の建物のような期待はずれの気持ちを再度味わいたく無かった。
さらに駅なんて人通りの多いところじゃ幽霊だって穏やかに手招きなんて出来ないんじゃないか?
もしくはここの駅を利用する人は全員その幽霊を見ている通過儀礼の様になっている程度にポピュラーなものに成り下がっているのではないか?
もっとこう、秘境のような冒険の末の隠し財産のような。俺はそういうプレミアム感を勝手に幽霊に求めているのだ。
「あ、しかも反対側に、池……かな?」
心の中で愚痴を漏らしつつ、無人駅である血苫駅の無料駐車場に停めていると、リッチーが池を見つけたらしい。
車を降りて地形を確認する事にした。
リッチーはさっきと同じように動画を撮影し始めた。
俺達が来た道路は血苫駅で行き止まりだ。敷地内が少し広めに作られているのでここで勝手に切り返してUターンしろという事なのだろう。無料駐車場が5台分程度あるが停まっているのは俺の車だけだ。
道路の左手に血苫駅。その先は見通しのいい畑だ。たまに家もあるが車であの家に行くには別のルートで行かないといけないようだ。
駅の線路を挟み向こう側に反対車線のホーム。そしてその裏に少し竹藪かあった。
ちなみにリッチーが池と呼んだところは、俺達が来た道路を挟んだ右側に広がる畑の一角、少し奥の方にあった畑一区画分程度の溜め池の事だった。
「池と呼べなくも無いな……」
「でしょ?それとあっちの竹藪」
リッチーは俺達の会話に合わせ、撮影しているスマホのを視線と同じように動かした。わざと指差してその指が写り込むように撮影し、あとから見返した時にわかりやすいようにしてくれているのだろう。マメだな。
「まぁ、確かにあそこが竹藪で、そっちが池とすると……さっきの赤い家跡地からここまで走ってきて、竹藪でグサリ。それからあの池にドボン」
俺もリッチーを真似してカメラを意識しながら位置関係を説明していく。
「そうそう。位置関係としてはこの怖い話の説明文と一致してると思わない?」
「確かにそうだな。ふむふむ。確かに確かに」
「ソーシ、僕は今撮影中だからスマホ使え無いんだけど、ソーシのスマホで検索してもらえるかな?」
「お?何をだ?」
「『血苫駅』で」
「オッケー!えーっと、何々……血苫駅は昭和……大体40年前に作られた無人駅でかつては……」
「ストップ!やっぱり?」
突然リッチーが俺の話を止めた。
「え?何がやっぱりだった?」
「事件が起きたのが50年前。血苫駅が出来たのは40年前。つまり、事件当初ここには駅が無かったんだよ。だからもしかしたら竹藪はもっと広がっていたかもしれないし、その先の溜め池に遺体を棄てた事も違和感ないは無いかも知れないね」
「おぉ、確かに!」
リッチーの推理はなかなか興奮させるものがあった。となると、ここのどこかで女性がめった刺しされ、そしてあの溜め池から霊となって現れるのか。
「なるほどなぁ。それがわかったところで……とりあえず特にする事は無いよな?」
「まぁ、そうだね。テキトーにそこらへんでも撮影してみようか。手当たり次第に撮影しておけば何か写りこんでるかもしれないよ」
「そだな。とりあえずあの溜め池あたりから撮影してみるか」
俺達は溜め池を撮影しに行った。しばらく色んな角度から眺めてみたり、幽霊の真似をしてみたりとしょうもない事をしていた。
畑と溜め池、情報量が少なすぎて退屈だったので血苫駅の撮影に行った。
駅の中にはベンチがある以外にこれといった情報は無かった。電車の本数も少なく、土曜だというのに誰も電車を利用しておらず完全に俺達だけしかいなかった。
ホームも簡素なもので向こう側のホームに行く時はホーム横の横断歩道みたいな簡易の白線の引かれたところを渡るのだ。安全性はどこへやら。
一時期線路の上で動画を撮影して投稿した人が炎上してたがこの駅ののどかさなら自分もついつい線路の上で寝そべってみたくなりそうな開放感だった。
「とりあえずこんなところか……」
俺が見切りをつけて帰ろうかと思っていると俺から少し離れて俺の後ろ姿を撮影していたリッチーが言った。
「ソーシ、アレ見てよ」
俺はリッチーが指差したところを見る。
どこを言っているんだろう。キョロキョロとしているとリッチーが説明してくれた。
「ほら、そこの向かいのホームあるだろう?そこの看板の真ん中辺りの、そのホームの下の」
「え……なんだあれ……」
リッチーが言ったものがわかった。
ホームの下の骨組みのような部分の間にポツリと石で出来た小さな四角の柱がある。
いわゆる無縁仏だ。
「無縁仏……だよな?なんでこんなところに……?」
「こんな安全性も無さそうな駅だけど、何も無さ過ぎて逆に事故があると思えないよね。事故になれば噂もあるだろうし、安全性の対策もされてるだろうから」
「だよな。それとも安全祈願のために建てたお地蔵さん的な?俺、そういうの全くわからないけど」
「僕もだよ。そもそもその無縁仏ってのもなんとなくしかわからないしね」
「俺もだわ。定義がわからないし、ちょっと不気味だなって程度の認識しかねーわ」
俺は時刻表を確認した。電車はあと40分くらいは来ないらしい。一応周りを確認する。誰もいないようなのでホームを降り、線路を跨いで向かいのホームへ行く。
正直言うと、真っ昼間でお日様も照りつけるこんな時間帯だったが、全く人のいないこの無人の駅はまるで異空間にいるような雰囲気が漂い、薄気味悪かった。
リッチーはホームから俺を見下ろす感じで撮影している。
「よっと」
俺はわざと声を出して怖さをごまかした。
「何かあったら説明よろしくね」
リッチーの声が後ろから聞こえた。
オーライ。俺は心の中で返事をした。向かいのホームの手前の線路の上までたどり着いた。
ホームは俺の胸の位置くらいにあった。
ここを少し屈むと無縁仏が見えるのか……さっきまで視界に入っていたはずなのだが、近づいてホームに隠れて一旦視界から消えた事で、改めて視界に入れるという行為はなかなか躊躇われた。
よーし、意を決して見るぞ!
「なんか言った?」
リッチーが話しかけた。
「あ、いや。いざ近くで見るとなるとちょっと怖ぇなって思って」
「ハハハ、そうだね。一応ここから見てる限り特に変わった事は無いよ」
「それを聞いて安心したわ」
俺は下を覗き込む。確かに遠くから見ていた時と同じで特にこれといった変化はない。
無縁仏に何か文字が刻まれていたりしたのかもしれないが、そこまで近づくつもりもない。
ただ、ちょっと不自然だったのが、その無縁仏の周囲だけ雑草などが全く生えていない。土なのだが、周りと違ってそこだけは真っ平らな土なのだ。まるで掘って埋めて間もないような、もしくは踏み固められて草の生えていない獣道のような……
とにかく少し異質だった。
一気に鳥肌が立ち、ひとまずここから離れたくなった。別に霊感があるというわけじゃないが、何か良くない気がした。
「何もねぇな……よし、帰るか」
俺は怖さを悟られぬようテキトーなセリフを吐いて振り返った。
「何もなかったかぁ。なら帰ろうか」
そう言って二時間弱のドライブが終わりまた二人でリッチーの家に戻る事にした。
帰りの車内では行きがけの少し探偵じみた推理が楽しかっただの無縁仏が出てきたときの不気味さは良かっただのと盛り上がった。
リッチーの家に帰宅後、さっき撮った動画をPCに移し大画面で見返して何か映って無いか二人で確認をした。間違い探しのように全体を見てみたり、担当を決めて一カ所を集中的に見たりしてみたが何も映ってはいなかった。
「いやーいい線いってたと思ったんだけどな」
「だよね。ここまで絞り込めたんだから何か映ってくれててもいい気がするんだよねー」
そんなしょうもない話をしながら俺はあの時の不気味さを思い出していた。
ん?待てよ……
俺が無縁仏を覗き込もうとした時、リッチーがなんか言ってたな。
俺もあの時は若干緊張してたから何かうっかり声とか出てたのかもしれない。
俺はわざわざ撮影したのに収穫が0だとつまらないので藁にもすがる思いで今度は音に着目した。
───────────
「よっと」
「何かあったら説明よろしくね」
「なんか言った?」
「あ、いや。いざ近くで見るとなるとちょっと怖ぇなって思って」
「ハハハ、そうだね。一応ここから見てる限り特に変わった事は無いよ」
「それを聞いて安心したわ」
───────────
ここの部分か。
俺は少し巻き戻して聞いてみた。
───────────
「よっと」
「何かあったら説明よろしくね」
…
「なんか言った?」
「あ、いや。いざ近くで見るとなるとちょっと怖ぇなって思って」
───────────
ん?別に……特に聞こえないような。
二人は顔を見合わせたがお互い特に何も聞こえて無いようだ。
「ヘッドホンあるよ。使ってみる?」
リッチーから渡されたヘッドホンで試しに俺が先に聞いてみることになった。
ザーーー
無音のように感じていたが、よくよく聞くと虫の鳴き声や風の強弱、風で揺れる草の音がしっかりと感じ取れた。
───────────
「よっと」
ヘッドホンを着けた事で音が立体的に聞こえた。
俺の声はこの画面から数メートル先から聞こえる。自分の声ってのは変な感じがするものだ。
「何かあったら説明よろしくね」
リッチーの声だ。スマホの後ろから聞こえてくる。
それから俺が少し線路を跨ぎ向かいのホームに向かう足音が聞こえた。
……
「なんか言った?」
リッチーの声がまたスマホの後ろから聞こえた。
───────────
「ん?ちょっと今なんか聞こえたかも。音量ってもっと大きく出来るか?」
俺が言うとリッチーがPCの音量をあげた。先ほどまでは20%くらいだったが、今度は60%くらいに上げた。
───────────
「よっと」
───────────
俺は一時停止を押した。
「いや、まだもっと大きくしても大丈夫そうだから100%で頼むわ」
「了解!」
リッチーはボリュームを100%に上げたのを確認して俺は再生ボタンを押した。
───────────
「何かあったら説明よろしくね」
リッチーのセリフの後、あっちの方で俺の足音が聞こえてきてぇ……
これまで音量が小さかったから全然聞こえなかった。多分リッチーもあの現場にいた時はまともに聞こえていなかったのだ。
“それ”はボリュームを100%にしてやっと、かろうじて聞こえてきた。
スマホの左側少し後ろの位置。おそらくリッチーの耳元辺りから……まるで息を止めた状態で、最期の一呼吸を肺から絞り出したような、そんな女性の声で……
「こっちにおいで…」
「なんか言った?」
───────────
俺は思わずヘッドホンを叩き落とした。
「え?え?何?どうしたの?」
リッチーが困惑している。
「と、とりあえず聞いてみろよ」
俺は自分の膝の上に落ちたヘッドホンをリッチーに渡した。
リッチーが少し巻き戻し、聞いてみる。
「え……これ、僕達の声じゃない……ね」
そう言ってリッチーが巻き戻しもう一度確認する。
「うん。やっばり女性の声だ。しかもこれ、年齢的に30代とかそのくらいの声だよね」
「だよな?俺も同じ事考えてたんだよ」
「しかもさ、左側から聞こえるよね?」
「あぁ、耳元のすぐそばから聞こえてくるよな」
リッチーが声を震わせながら話を続けた。
「声が聞こえた左側の先に、あの溜め池があるんだよ……」
俺はあの時の地形を思い出していた。そして最初に聞いた怖い話を思い出す。
『池から手招きしていた霊は宙を浮きながらスーッと近づいてきて捕まるとあの世に連れて行くらしい』
「池からこちらに近づいて来て僕をあの世に連れて行こうとしていたのかもしれない……」
包丁でめった刺しにされ、最期に絞り出したようなあの女性の声が二人の脳裏にこびり付いていた。
「こっちにおいで…」
ちなみにこの動画は10年くらい前にデジカメで撮ったもので、多分探せばデータはあります。
4年くらい前に久々に聞いてみたけど全然聞き取れませんでした。再生させた環境が悪かったのかな……