目覚め -最終夢
翌朝、また目覚めと共に倦怠感を覚えた。
ただ、2日目ということもあり、さらに熱がなかったことから普段通りに登校した。
「結局、インフルじゃなかったの?」
「熱もないし違うみたい。まだ怠いけど、あと少しで卒業だからとりあえず学校は来ようかなって思ってさ」
「まぁたしかに、あと少しで卒業だもんな」
そんな会話をしつつ、その日も特に何も起こらず、普段通りの日常を過ごした。
そんな生活が数日続き、卒業前日の夜。
ふとテレビでニュースを見ていると、キュラータ彗星が今晩、地球に最も近づくとアナウンサーが興奮気味に話していた。
『キュラータ彗星は、西暦紀元以来、つまりイエス・キリストの誕生以来の接近ということです。地球の歴史を見てきたこの彗星を、皆さんもぜひご自身の目で見てみてくださいね!』
そんなにすごいものなら、自分も見ておきたいと思い、窓の外を見ると、部屋の明かりに照らされた桜の蕾が大きく大きく膨らんでいるのが目に入った。
彗星は見えなかった。
明日は卒業当日だ。まだ体の調子は良くはないけど、明日のためにもう寝よう。
そう思って、ベッドに横になるとすぐに意識を手放した。
――――――今日まで、お疲れさまでした。
まさかここまで到達するとは我々も想像しておりませんでした。
ここからは最後の試練です。
最後の柱は、我々の長、最高神エネム様です。ですが、優輝様なら大丈夫です。
これまで我々が授けた能力も優輝様ならきっと使いこなせるでしょう。
この扉の奥に、最後の柱はおります。どうぞお進みください。
水色の長髪をした背の高い女性に促され、重厚そうな扉に手をかけながらふと思い出す。
あぁ、夢の続きか。思い出した。こんなに超大作の夢を見るのは多分初めてだ。全5本立てで、今日が
6本目か。毎回毎回、柱とかいう神様に試練を与えられて、クリアして、認められてくやつだな。クリアすると、それぞれの神様が得意とする能力を分けてもらえて、使えるみたいな設定だっけ?ただ、使えるようになるにはレベルが必要なんだっけ?あれ、そこらへん良く覚えてないや。
それで、いま案内してくれたのが確か、水の神様だったっけ?
たしか、1回目が火の神様で、2回目が今ここで案内してくれている水の神様、3回目が風の神様、4回目が光の神様、5回目が闇の神様だったけな?どれも綺麗な女性だったなぁ。ってことは今回の最高神様っていうのはもっと美人な神様なのかな。
毎晩こんな美人と会えるのって素晴らしいな。でも、目覚ますと忘れちゃってるから意味ないか。
ただ、妙にリアルな夢なんだよな。
あれ?そういえば夢の中なのに、結構自由に体を動かせるな。扉もまだ開けてないけど、やっぱり開けた方がいいのかな?なんかそういう流れだよね。
そう思い、腕に少し力を込めて少し押してみると、想像以上に扉は軽く簡単に開いてしまった。
視界に広がるのはまさに宇宙だった。
見渡す限りの星。終わりの見えない暗闇は遥か彼方まで続いている。
ただ、星は何かに照らされて色とりどりに輝きを放つ。虹をかけたかのようなそれは、まるで黒のキャンバスに描いた水彩画のようである。
その中でもひと際輝く星が見えた。それは雄大で、力強く、すべてを包み込む暖かさを持つ母親のような存在に思えた。
「浅野優輝殿、よくここまで来られた。私が最高神エネムである」
「あなたが最高神?」
最後の一人が男性であったことに軽くがっかりするが、表情には出さないように努める。
「左様。これまでの無礼、大変に申し訳けなく思う。お許しいただきたい。」
「いえ、そんなに畏まらないでください!特に何も被害を被ったようなことはありませんから」
「そういっていただけると助かる。ただ、こちらの都合で毎度御呼び立てしてしまったこと、それとおそらく体にも変調があったことと思われるが、いかがかな?」
「あ、目が覚めた時のあの倦怠感は、この夢のせいってこと?それなら確かに多少はあったかもしれませんが」
「やはり。大変申し訳ない。そのことについては私から改めて説明させていただく。しかし、先に伝えておかねばならぬことがある。まず、これが夢であるが、夢ではないということ。そしてこれは頼みなのだが、我々を救っていただきたいということである」
「夢であるが夢でない?救う??」
「うむ。順を追って説明させていただこうか」
―――話の内容はこうだ。ここは優輝の住む現実世界とは別の時間軸で構成されている。所謂パラレルワールド。優輝がこちらに来ている1ヵ月は現実世界の1日と同じ。こちらにある体は実体はあるものの、本体は現実世界で寝ている状態となるとのこと。
さらに、以前作りだした世界が破滅に向かっているから助けてほしいということ。
「大体ご理解はいただけたかな?」
「はい。なんとなくは・・・。ただ、世界の破滅が俺に救えるとは到底思えませんし、なぜご自身で救わないのですか?」
少し押しつけがましい依頼に、憤りを覚えて聞く。
「実は、残念ながら我々神は一度手放した世界にもう一度干渉することができないのだ。否、違うな。距離が問題なのだ。ある距離を超えたとき、我々が直接力を加えることは難しくなってしまう。詳しくは伝えられぬがどうか許してほしい。そのため、どうか優輝殿に我々の代わりを務めていただくことはできないだろうか」
「事情は理解しました。ただ、なぜ俺なんですか?」
「あの世界に行くには、我々と同じ波長をもった心が必要なのだ。適性といわれるものである。それが備わっておるのが、優輝殿ただ一人なのだ。これも詳しくは言えんが、優輝殿はなるべくして生まれてきたとしか思えんのだ。それこそまさに、異世界の勇者に」
「確かに響きはそそられますが、勇者にはなれません。それに俺が、そんな崇高なものだとも思えませんので・・・」
「百聞は一見に如かずということもある故、これをご覧いただきたい」
そういうと、急に視界が切り替わり、広大な森に囲まれた小さな集落が映し出された。