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Cランク昇格



 その日の宿は普段泊まらないような豪勢な宿にした。ミジットのとっておきだそうだ。

 なんと浴場があり、お値段一泊大銀貨3枚。


大銀貨3枚!?どこの貴族様だ!って思ったが、ここで文句を言うと後が怖いので、おとなしくついて行った。


 臭い、ボロイ、汚いの3拍子そろった格好で入ったが、嫌な顔ひとつされる事無く対応してくれた。プロだ。

 しかも頼めば洗濯までしてくれるし、部屋着も貸してもらえる。


さすがに食堂に行く服は持ってなかったので、部屋まで持ってきてもらったが。



 異世界に来てからというものの、湯につかる風呂に入るのは7年ぶりだ。こちらの作法はわからないが、とりあえず湯舟につかる前に徹底的に洗えばいいだろう。

 粉せっけんの様なものと植物と思われるタワシでゴシゴシこすっていく。


へー、泡が出るわけじゃないんだな。ゴシゴシ


お!?なんか汚れが落ちてる気がするぞ? ゴシゴシ


な、お、お肌がツルツルのすべすべに!? ゴシゴシ


後はヒゲをキレイに剃って…


鏡を見て思った。「異世界すげぇ」



 湯舟で数回寝落ちそうになったが、かろうじて部屋まで戻りドアに「起こさないで」の札をかけてベットに入った。ああ、やわらかい…その瞬間に寝た。


 次の瞬間に<ドンドン>「お客様?」<ドンドン>「お客さまー」の音で目が覚めた。

 起こさないでって札かけたのに…ああ、身体中がバキバキだ。


<ガチャッ>とドアを開くと、宿の従業員さんが


「ああ、お客様、起こしてしまって申し訳ありません。ですが、一泊分のお代しかいただいておりませんので」


「え?今の時は?」


「昼時前となっています」


ああ、昼まで寝たのか。


「隣の部屋の相方はどうしてる?」


「今は食堂で食事を取られています。伝言がございまして「連泊するぞ。あとで部屋に行く」だそうです」


いや、そこモノマネする必要ないから。


「わかった。受付までお金払いに行きたいが、服がこれではな」


「お客様の洗濯物は仕上がっております。あとでお持ち致します」


「あ、その時に食事も持ってきてよ。お代は今払うから」


「後で受付で払っていただければ結構ですので」


さすが高級宿はサービスが違う。



 洗濯物はしっかりと仕上がっており、着替えて部屋で食事をしていると、ドアがノックされた。<ドドドン>「アジフー」<ドドドドン>いや、ドア壊れるって。



「やっと起きたか、遅いぞ」


「すまん、意識が飛んだ。それで、今日はどうする?」


「まずはギルドと古着屋だな、それから迷宮の清算だろう」


 宿なしの冒険者が荷物の制限される迷宮に長く潜るときに、普段持ち歩く着替えをどうするのか?

 預けるところが無ければ古着屋へ売ってしまうのだ。当然、戻ってくれば着替えがないので、今夜の着替えもない状況だ。


 ちなみに、ヒューガは売ってない。道場に預けてある。



「わかった、だがこの宿に連泊はどうなんだ?資金に余裕はあるが、無駄遣いじゃないか?」


「わかってないな、この宿は料金は高いが、防犯がしっかりしているんだ。金庫も借りられるし、鑑定前の物も預かってもらえる。今は手持ちの資金が多い、しっかりした宿に泊まるべきだ」


「ギルドの口座じゃダメなのか?」


 ギルドにはお金を預かるサービスがある。これはどこのギルドで預けても、どこのギルドででも引き出せる優れものだ。ただし、死亡後はたとえ家族でも引き出せないが。


「私もお前も、今回の迷宮で一つ上の段階に至った。そうは思わないか?」


「思う」


 ミノタウロス倒してまたレベル上がったしな


「私はこの機会に装備も更新するつもりだ。その為には資金がいる。アジフはどうなんだ?」


「要るな、白金貨が必要なレベルだ」


「そうだろう?ギルドに金を預けるのは必要な装備を揃えてからでもいいと思うんだ」


「確かに」


「それから」


「なんだ」


「今夜は美味い物食べて酒飲むぞ」


「当然だー!」





 迷宮の魔物素材と魔石を持ってギルドに訪れ、まずは納品処理できる依頼を探す。3件と、4、5件かまずまずだな。

 納品処理は素材買取りより割高で売れるうえに、Dランクの依頼達成件数も稼げるのでお得だ。

 依頼票を持って、買取りカウンターへ向かう。迷宮の素材は全て解体済みなので、査定のみでお手軽だ。魔石はジャラジャラとあるが、素材は背負い袋に入るだけしかないので量はそれほどでもない。質は厳選したけど。



「魔石と素材で白金貨1枚と金貨23枚、銀貨45枚だ。いや~昨日の”南連山の麓”に続いて大取引だぜ」


 あっちもかなりいい金額になったようだな、よかったよかった。



依頼票を受け取って、受付カウンターの列に並ぶ。


「依頼処理とCランク昇格を頼む」


嬉しそうに冒険者プレートと依頼票を出すミジット。


「同じく”双連の剣”だ。こっちは依頼のみで」


「ん?アジフも昇格だろう?」


「俺は依頼件数が足りてないんだ」



なんだそのハニワみたいに驚いた顔は。




 迷宮の守護者を倒すと迷宮から冒険者プレートに魔力的な干渉をするらしく、ギルドの機械で判別できるらしい。他人の冒険者プレートを持っていっても本人と魔力パターンが揃わないとダメみたいだ。


 便利な事だとは思うが、おそらく神様、あるいはダンジョンマスターとギルドがなんらかの協力関係にあって連絡でもしてるのだろう。気にしたら負けだ。



「ミジット様、おめでとうございます。Cランクへの昇格基準を確認しました。こちらは新しい冒険者プレートになります」


 渡されたそれは白金色に輝いていた。


「「おおー!」」


思わず声が揃った。


「依頼は5件の達成で合計で金貨93枚となります。ギルドの口座に預けますか?」


「いや、持って帰るよ」


「ではこちらになりす。お納めください」


金貨93枚といっても、大金貨9枚と金貨3枚なので重い訳ではない。


合計で一人当たり白金貨以上の収穫だ。ホクホクもここに極まった。



 そして大金を持って向かうのは古着屋だ!

お金あるなら新品でもいいんじゃ?って思うかもしれないが、新品は基本オーダーメイドなんだ。安い新品もあるのだが、どうしても日数がかかる。


 古着屋に並ぶのは、概ね家庭で作った物のお古だ。ただし、下着だけは新品も売っている。


 荷物一つで旅を渡る冒険者に許される荷物は少ない。選ぶのは街着、部屋着、下着くらいだ。鎧の下に着る帷子はまた別物。


 なので、男の買い物はそれこそ一瞬で終わる。だがミジットとて女性。選べる物が少ないからこそ迷うのだ。まぁ「ねぇ、これどっちが似合う?」とか言わないだけいいのだろう。


 そんな事聞かれたら迷わず即答するだろう。「鎧以上にミジットに似合う服は無いよ」と。そこで俺の命は終わるかもしれないが。




 古着屋で買い物を終えると、次は宝石店へ向かった。


この世界で宝石はほぼダンジョンでしか産出されない。稀に鉱山で偶然採掘される事はあっても「宝石はダンジョンからでる物」と意識があり、鉱脈が探されていない。

 工業的な用途は見つけられておらず、ほぼ純粋な装飾品扱いとなっている。魔術付与に需要はあるが、あくまでも装飾品に対しての需要だ。


 宝石店とは「魔術的効果のない装飾品店」といってもよかった。


「いらっしゃいませ」


 そう頭を下げる清潔感のあるきっちりとした揃いの制服に身を包む店員さんに対して、盾と剣を持ち武装した姿はあまりにも異様だ。

 地球であれば即、防犯ベルを鳴らされるであろうが、強盗にきた訳ではない。

 この後に魔法武具店に持って行くために持って来ただけだ。入口で武装を預け、宝石の入った袋をじゃらりと置いた。



「迷宮産だ。買取りをお願いしたい」



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