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ダンジョン下層:森の四王



「ガアアァ!」


 ダイアウルフが払う前脚を盾で受け流した。行ける、以前は歯が立たなかったが、あれからレベルも上がったし修練もした。戦える!


「お久しぶりだなァ!」


 流した前脚を狙い剣を振り下ろしすと、ダイアウルフはそれを嫌い一歩退いた。降ろした剣を上方へ切り返し、噛みついてきた口を牽制する。


「ギャウン」


 何より、今回は一人ではない。前を抑えているあいだに、ミジットが後脚に突きを入れた。ダイアウルフが傷ついた後ろを気にした隙を狙い、前脚を横薙ぎにする。


<ドンッ>

<ズウン>


 剣撃とは思えない音がして、前脚が切り落とされ、ダイアウルフの頭が地面をなめた。そこにミジットが首筋を突き刺し、ダイアウルフは靄へと還っていった。




 26階層で睡眠と休憩を取り、森に踏み入ったところで出会ったのがダイアウルフだ。城壁を取り囲む森が26階層エリアになっていて、入れる門は一か所しかない。


 27階層が街エリア。28階層が街から神殿エリア。29、30階層が地下迷宮エリアだ。迷宮の迷宮エリアってなんだ。

 砂漠と違い、見た目は繋がっていても階層ごとに違う空間らしく、空を飛んでも階層ショートカットは出来ないそうだ。


 森の中にはこれといった道はない。だが森の中は罠が多い。足を引っかける罠、跳ね上げ罠、弓わな、網わな、落とし穴とよりどりみどりだ。最短ルートを行くとずっと森の中なので、城壁までまっすぐ森を突っ切って城壁沿いに門まで行くのが定石だそうだ。

 本来、攻略予定じゃなかった階層も含めて、全階層の地図と攻略情報を持っているミジットには頭が下がる思いだ。さすがキジフェイの常連。


「そこ、罠」


 森を歩くのは得意なので先頭を進む。狩人系の罠も得意だ、狩りの際に仕掛ける場所にはお約束がある。迷宮の罠も通りやすい場所、通りたくなる場所に仕掛けてあるのは一緒だった。


26階層に出現する魔物の数は少ない。4種類しかいない上に、ほぼ1体ずつだ。


「ガヴァーーー!」


 そう、このマーダーグリズリーの様に。


「6階層ぶりだなァ!」


しかし、君はもう見切っているのだよ。

まずはじっと目を見て向かいあう。


「ガウッ」


噛みついて来たら一歩退く。


「グルァ」

「オラァァァ!」


追撃してきたら全力カウンターだ!

肩口に剣が深くささり血が噴き出すが、構わず腕を振ってきた!


「ひゃわわー!」


 剣を手放して全力で逃げた。どうしてこうなった。


 地面を転げ回り逃げるが、マーダーグリズリーが追ってくる。足を止め、向かいあって全力回避に一本集中。だが、今にも攻撃しようという時にマーダーグリズリーの腰が”ストン”と落ちて座った。


「ガグァァ!」


 ミジットが後脚の攻撃に成功したようだ。攻撃された後ろが気になるようだが、ショートソードを引き抜き、振りかざし、盾と剣をぶつけてマーダーグリズリーの気を引く。


「タウント!」


そんなスキルは持ってない。気分だ。

それでも多少は気を引けたのか、こちらにキバを剥いた。


「グガッ…」


だがそれが致命的な隙となって、ミジットの剣が脇から内臓へ貫いた。


<<ズウウン>>

そしてビクビクっと痙攣し、巨体を沈めた。

なお、ドロップアイテムは熊胆だった。


「まかせろって言うからまかせたんだが?」


ジト目はやめて下さい。お願いします。


「それに無駄に騒ぐから、ほら次のお客さんだ。」


「ジャイアントスパイダーさんじゃないですかー」


 周辺の地域で”森の四王”と言われる存在がいる。別に森で最強と言う訳ではないが、比較的遭遇する中で最も恐ろしいという意味だ。

 ある程度以上の冒険者でもなければ、遭遇と死は限りなく近しい。ダイアウルフ・ホーンドディア・マーダーグリズリー。

 そしてこのジャイアントスパイダー。2m程の巨大な毒グモだ。討伐ランクはD


おそらくは故意的に、この4種はこの森に集められたのだろう。「その辺りの魔物に勝てないようなヤツはこの先に進むな」というメッセージを感じる。

やってやろうじゃないの!


 このジャイアントスパイダー、大きさの割にともかく素早い。前後左右に加えて森の中なら上下も自在だ。しかも本来は夜行性で、夜の森の中で音もなく襲ってくるとか。

 だが、迷宮の中は夜がないので、24h営業だ。ブラック労働反対。いま楽にしてやるからな!


 <カササササ>


 昆虫系の魔物は目を見ても感情が見えないからやりにくい。こちらから迎撃に出たいが、森の中は罠だらけで不用意に走るのは危険だ。

 間に木を挟むようにこまめに位置を変えて、相手の速度を生かさないようにする。

 もう少しで間合い…今だ!飛び出すと、ジャイアントスパイダーはその頭上を越えて行った。その巨体で跳んだだと!?

 木に横向きに着地し、次の木へと飛び移る。軌道が剣筋を通るのを待って上段に切り込むと、軌道が”フッ”とずれた。糸か!やっかいな。

 

 狙いを付けられずにいると、木の上で止まりミジットに向けて糸を飛ばした。なんとか躱したようだが、そんな事もできるのか。試しに糸を切ってみると、<プツリ>と切れた。刃物は通るようだ。


「やっかいだな」


「退がりながら木のないところまで行くぞ」


天才(その手があった)か!

剣を向け牽制しながらジリジリと退く。開けた区画までくると、ジャイアントスパイダーは地面に降り迫ってきた。


<カンッ>


足を狙い剣を振うが、動きが速く関節を捉えられない。それなら!


<キン><カン>

<キン>


 正面に立ち連撃を加えていく。剣が弾かれるが、お構いなしだ。ともかく相手に攻撃する間を与えなければ


<ザンッ>


 ミジットが自由に動けるからな。一本の足が切り落とされた。


<カサッ>

<ガンッ>


たまらず跳ぼうとするが、上段から切り押さえて動きの出鼻を封じる。


「じっとしてろ!」


さらにもう一本の足が落ちた、行けそうだ!

すると、こちらに牙を剥いて口から糸を吐いた。咄嗟に盾で受ける。口から?クモってそうだっけ?

糸の付いた盾が引っ張られる。その間にさらにもう一本の足も落ちた。


 グググっと綱引きしていた盾の取っ手を”パッ”と手放すと、急に力を抜かれた咢が飛んで行く盾と共に跳ね上がる様に上を向いた。チャンスだ!


 顎の下のむき出しになった口に剣をズブリと突き刺しすと、ピクピクっと動き黒い靄へ還っていった。


「ふぅ~」


 ドロップした糸袋を鞄に入れ、入らなくなった低階層の素材を捨てる。魔石がジャラジャラだし、いい加減に重い。


 その後当然のようにホーンドディアも現れ、4種の魔物たちがかわるがわるに襲ってきた結果、城壁から目的の門までたどり着く頃にはクタクタに疲れてしまっていた。途中は食事も取れず休憩らしい休憩は出来なかった。


 26階層には階段がない代わりに、階層の切り替わる周辺は魔物が出ないらしい。疲れていたこともあって門の周囲で食事と睡眠を取る事にした。

 ドロップしたホーンドディアの肉を焼きながら相談する。干し野菜も黒パンも残りわずかだ。干し肉だけはたっぷりある。


「27階層、どうする?」


「どうしよう」


 27階層の街エリアが問題なのだ。街中を闊歩するのはアンデッド。それは仕方ないのだが、レイスが出現する。レイスは霊体なので物理攻撃が通用しない。

 もともとここまで来る予定ではなかったので、聖水は無いし聖職者もいない。ノープランだ。


「最悪はライトの魔道具を振りかざしながら走るしかないかも」


「魔法のかかった剣なら切れるらしいけど、私たちの剣では魔力が弱すぎる。それでも嫌がらせくらいにはなるかもしれないな」


「宝箱の短剣試してみるか?」


「そんなの分の悪いバクチもいいとこだろ」


「明日、門の周囲でいろいろ試してみるか」


「とりあえずいろいろやってみてからだな」


「つまり――いつも通りだな」



結局そうなるのか。



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