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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

八百万の器

作者: 遊吉

八百万の器




草薙剣、八尺瓊勾玉、八咫鏡、日本には古来より、神器と言われる、神にも届く武器が存在する。

伝承では、それらは神より授かったとされている。

人々は気づくべきだったのだ。

神であれば神器を作り得ることを。

人々は思い出すべきだった。

この国には八百万の神々が存在していたことを。

人々は知るべきだったのだ。

「彼等」の存在を。



二〇九三年、四月五日、この日、広範囲に起きた同時多発雷害が、全ての始まりだった。

深夜二時頃、関西圏ほぼ全域において、停電が起きた。

その数分後、数十キロ離れた地からも視認することが出来るほど大きく、禍々しい稲光が、雷鳴と共に走った。


地上から天空へ。


放たれたエネルギーは一瞬で空を駆け回り、関西全域に轟雷となって降り注いだ。




~三年後~




事件から三年も経過すると、人々の記憶からは忘れられる。しかし、政府の中枢は事件を一分の隙もなく調査に調査を重ねていた。

そして辿り着いた真相こそが《神器》であった。

神器は当然、政府が回収し、その神器には《火雷の神槍》と名付けられ、研究機関に回された。

更に、他の神器の存在を危惧し、神器捜索隊が結成された。



神に使役する者

通称【エンジェル】



エンジェルはあらゆる所から、人員を集い、構成された。

現在、発見に至っている中で、公表されている神器は三種の神器も含め僅か九点。

エンジェルにはその使用許可が与えられており、主な活動は神器収集と、エンジェル以外の組織、主に海外や日本の裏組織の介入の妨害、殲滅である。

既に数点の神器が海外に運び出されたという話も出ており、国家間の軍事力バランスを崩す可能性を秘めた神器を各国の調査員が秘密裏に探していた。



火雷の神槍が発見された地区は、ほとんどが雷害によって焼失していたが、一つの森と、その森の奥深くに在る一軒の木造の屋敷のみ、現存していた。

政府の機関やエンジェルは事件当初からその屋敷に、何かしらの手掛かりを求めて訪れていた。

事件から三年経ったこの日も、エンジェルは調査に訪れてた。



コンコン。

一人の若者が扉を叩いた。


「失礼します。」


一言そう言って、返事も聞かずに扉の奥に入る。

若者といっても、二十代後半と思しき青年だ。


「本当に失礼な子だね。普通は許可を得てから入るものだよ。他人の家にはね。」


「まぁまぁ、爺さん。エンジェルさんも仕事で来てるんだし、そう邪険にしてやるなよ。」


中には老人が一人、十代と見られる男性が一人居て、共に薄い色のサングラスを掛けており、その奥から警戒の眼差しでエンジェルの若者を見つめた。


「失礼します。私は内閣直属神器捜索部隊エンジェルの七絵総悟と申します。エドワード翁、山本殿、本日こそ、この家に在る神器を回収させて頂きます。」


エドワードと呼ばれた老人は静かに席を立ち、棚から茶菓子を出した。

七絵は発言を続ける。


「超法規的措置により、この土地も、この地に存在するものも、国家の所有物となっていることは御存知かと思います。」


「超法規的措置も何も、アンタらが勝手に決めたことにこっちが従わなきゃならない道理はないね。」


エドワード翁が出してきた茶菓子をポリポリと食べながら、山本と呼ばれた少年は答えた。


「いえ、従って頂きます。我々も、上層部もそろそろしびれが切れてきまして、本日は私の持つ神器の使用許可も降りております。」


若者は腰に携えた刀に手を掛ける。


「つまり、無理やり奪っていくってことかい?やめときなよ、おにーさん。」


言葉とは裏腹に、山本の目は輝きを見せている。

それにひきかえ、エドワードはまるで聞こえていないかのようにお茶と茶菓子の相手をしている。


「最後通告です。こちらに神器がございますよね?お出しください。」


「こっちも最後通告だ。神器はあるが出す気はない。屋敷から出て、来た道を帰れ」


やや喧嘩腰の山本の発言にエンジェルの若者は刀を抜いた。


「私に使用許可が降りているのは《草薙剣》です。神話の剣で斬られることをお喜びください。」


山本は立ち上がり、

「おいで、クロ。」

静かに何かを呼んだ。

次の瞬間、山本の腕の中にはいつの間にか猫が抱かれている。


「せっかくだ。教えておいてあげるよ。神器は物だけじゃない。まだ政府は持ってないだろうけど、生き物の形で存在するものもあるんだよ。」


山本は、猫を地に下ろす。


「クロも目覚めたし、もう、退けないよ?」


「それはこちらのセリフです。内閣直属神器捜索部隊エンジェル第7位の席次は伊達では無いことを教えて差し上げましょう。」


刀を構えた時、

山本の足元でじゃれついていたクロが急に敵意を見せ、毛を逆立てたあと、闇へと消える。


いや、闇が世界を覆う。


七絵に油断はない。

全てに警戒を怠っていない。

例え天井が落ちてきても、鍛え上げた反射神経と剣技のひと振りで何とでも対処出来る。

あえてもう一度言うが、彼に油断は無かった。

しかし、


ニャオ……


どこからか聞こえてくる猫の声に気を取られてしまった。

七絵には山本の姿もエドワードの姿も見えなくなり、完全な闇がその場所を支配した。


「猫じゃらし。」


山本の声が聞こえたが、七絵には場所までは把握出来ない。

闇の中から何かが近づいては遠のき、七絵の精神を削っているのが、感じられた。

目には見えていないが、闇夜に光る眼を感じる。

七絵は完全に方向感覚、平衡感覚を失い、自分がいま、どこを見てるのか、立っているのかすら分からなくなっていた。


どこからか声が聞こえた。


「せめて、レプリカじゃなく、本物の神器を持てるようになってからおいで。」


正気に戻った七絵は、屋敷から大きく離れた森の入り口に転がされていた。

自分より歳下の少年にいい様にあしらわれたにも関わらず、七絵には怒りも焦りも感じていなかった。

ただあったのは、神器への期待。

いや、期待というような大人しい感情ではない。神器への興奮といおう。

彼は神器への興奮を抑えられないようにみえた。


(これが神器…自衛隊時代、敵無しだったこのオレが、闘うことすらさせてもらえない…欲しい…あの力がオレも欲しい!!!)


彼の表情には笑みがこぼれていた。




「爺さん、神器持ってるってこと、バラして良かったんだよな?」


「わしゃ知らん。お前さんが勝手にしたことじゃろ?」


「チッ。とにかく、日本政府も動き出した。アンタらもそのうち動き出すんだろ?あんまり、派手にやってくれるなよ。」


「ほっほっほ。まぁ、お前さんもせいぜい働いておくれ。」


政府が神器の存在を知る前から、いや、数十年前から、神器を集めていた組織があった。

名を【ヒドラ】。

組織の主な構成員は最高幹部である三人の老師と幹部にあたる九人の神器使い、それぞれの神器使いが持つ一個小隊といったところだ。

政府軍と比べると、規模はとても小さいものだ。

しかし、神器に対する見識を取っても、単なる戦闘を取っても、所有している神器の数でも、現状、政府軍に勝ち目は無いだろう。

ヒドラが保持する神器は二十を超えており、内、草薙剣のような特級神器と呼ばれる、最上級の神器が四点含まれる。




「申し訳ございません。神器の回収任務、失敗してしまいました。」


七絵はエンジェル関西支部からモニターを通じて上司とみられる男に報告を行っている。


「やはり、偽物ではハッタリにもならなかったか…。」


画面に映った上司と見られる男性は顔こそ見えないが、堂々とした姿勢、深くどっしりとした声音から、相当な重役を担ってるように感じ取れる。


「しかしながら、ヤツらが神器を所持しているのは確認致しました。それも、生物型の、恐らく特級神器です。」


「生物型の特級神器…か。よくぞ知らせた。なるほど、生物型というのも存在するのか。」


男性は顎に手を当て、静かに呟いたあと、言葉を続けた。


「七絵よ。可能ならば監視を続けよ。関西支部における最高権を与えよう。更なる神器の情報を集め、確保に迎え!」


「はっ。」


七絵の敬礼を確認し、モニターはプツリと消えた。




ヒドラ本拠地である隠れ里では、主な戦闘員達の訓練が行われていた。


この日教官を務めているのはヒドラの唯一の女性の神器使い、真鍋アリサ。


「素振りが遅い!縮地がなっていない!弾丸程度も見切れん者が神器使いになれると思うな!」


神器自体は誰でも扱うことは出来る。しかしながら、神器を手足のごとく、自由に使える者は選ばれし者だけと言われている。

更に、神器には制約があり、その制約が大きければ大きいほど、神器の力は増大する。

特級神器は、小さな制約で大きな力を生み出す、最強の神器である。


訓練の真っ最中、プルルルという古風な電話音が鳴り響く。真鍋の携帯だ。


「はい、真鍋です。」


電話の相手はエドワードである。


「真鍋くん。神器の発見情報がたった今、報告された。本部には今、神器使いが君と山本くんしか居ない。二人で回収に向かってくれ。」


「了解しました。」


「今回の情報は本物臭い。エンジェルも動くと思われる。くれぐれも注意してくれ。」


「了解です。」


真鍋は電話が切れたのち、訓練所の端で昼寝をしていた山本を蹴り起こした。


「イッッ」


「神器だ。エンジェルも出る。行くぞ。」


山本は淡々と話す真鍋の言葉に思わずため息をつく。


「はぁ。君一人で行きなよ。僕は昼寝がまだ足りていないんだ。」


「一日十五時間も寝ておいて、寝足りないなどと、戯言を言うな。行くぞ。」


「はいはい。で、どこへ?」


「…」


「ん?」


「…」


プルルル…真鍋はエドワードにかけ直した。

顔が少し赤く見えるのは気のせいだろうか。


「紀伊半島の中部の美しい浜町だそうだ。行くぞ。」


「…あぁ。」


強く言い放たれた言葉を受け、これ以上の追求はしてくれるなということだと判断した。

そして二人は新たな神器へ向けて走り出した。

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