《天使化》
アイル Side
光がおさまると、私の見た目は少しだけ変わっていた。
頭上には純白の光輪。
背中には二対の翼が生え、太陽の光を反射し白く輝いている。
服装も変わり、学校の制服から純白のドレスと鎧を組み合わせたような衣装になっている。
もしも、今の私のこの姿を見た者がいたとしたら、誰しもがこう思ったことでしょう。
――天使、と。
まあ、実際に天使なのですけどね。
こうした完全な形で天使になるのは久しぶりなので、うまくいってよかったです。
といっても、これも一応は”権能”ですので失敗のしようがないのですが。
《天使化》。
それは文字通り、天使へと至るための”権能”。
天使であれば皆が所持している”権能”ではありますが、その効果は天使の位によって大きく異なります。
最も位の低い下位天使であれば、身体能力や魔力が上昇する程度でしかありません。
ですが、最も位の高い最高位天使ともなれば話は変わってきます。
だてに神々にすら匹敵するなどと言われてはいません。
とくに、私のは少しばかり特別です。それも――神界最強の天使と言われる程には強力ですね。
《天使化》を発動中にしか発動することのできない”権能”ではありますが、自分でも強力だと自負しています。
その力を見込まれてアリス様直属の配下となったわけですが……この話はまた次の機会に、ですね。
さて、とりあえず目の前の鶏をどうにかしましょうか。
ですがこれ、なかなかに骨の折れる作業ですね。
どうみても大迷宮最下層のボスクラスの化け物をあいてに、町への被害を最小限に抑えつつ倒さなくてはならない。
町の人々に傷を負わせるなどもってのほか。
それをこの狭い町中で行わなくてはならないとは、正直に言って無茶ですね。
――私以外には、ですが。
実を言うと、私の天使としての力はこう言う防衛にこそ真価を発揮するのです。
この状況、私にとっては何の問題もありません。
私はそんなことを考えながら黒い鶏を睥睨する。
黒い鶏は一瞬たじろいだあと、姿勢を低くして戦闘態勢を取った。
「来ないのですか? でしたら、こちらから行かせてもらいますね」
私はそう言って【空間転移】を発動する。
黒い鶏の頭上へと転移した後、私は二本の大剣を振るいその首へと斬りかかる。
ガキンッ
……驚きました。まさか、はじかれるとは。
見ると黒い鶏は漆黒の闇で作られた鎧を身に纏っていた。
私はそれを見ると同時に距離をとった。
この鶏の反応速度には目を見張るものがありますね。
まさか、”神の権能”である《創造主》で創られた大剣を使用した私の攻撃を防ぐとは。予想以上の魔力ですね。この感じだと、”権能”でしょうか。厄介な。
そんな事を思っていると、黒い鶏から数十本の闇の剣が放たれる。
”権能”により強化されているということは、この闇の剣はその一本一本が必殺の威力を誇っていることでしょう。
ですが、私には関係ありません。
こんなもの、避ける必要すらない。
私は何も気にすることなく二対の翼で羽ばたき宙を舞い、黒い鶏に接近する。
その際、闇の剣が身体に着弾するが、私は傷一つなく飛行を続ける。
この黒い鶏との戦いは接近戦で勝負する必要がありますね。
私の本来の戦闘方法は殲滅級の”魔法”と剣技を組み合わせたものです。
それなのにこの場では殲滅級などという広範囲の”魔法”は使えない。
使ってしまっては周りに甚大な被害が出てしまうからです。
であれば、接近戦しかありません。
それでも何も問題はありませんけどね。
そう思いながら、私は『神空魔法:空間斬』を発動する。
これは付与系の魔法です。
その効果は文字通り、空間を斬り裂くこと。
私はそれを大剣に付与し、闇を纏った黒い鶏の攻撃を避けつつ肉薄する。
そして、黒い鶏が振り下ろした翼をギリギリで避け、カウンターの要領でその翼を斬り裂く。
次の瞬間、ドス黒い液体が黒い鶏の身体から吹き出る。少し遅れて斬り飛ばされた翼がぼとりと地面に落ちる。
「ギュエ゛ェエエエエ゛エ゛エ゛ッッッ!!?」
黒い鶏が叫び声を上げる。
どんなに硬い鎧でも空間ごと斬ってしまえば無いも同然です。
それが”神の魔法”ともなればなおさらでしょう。
「ギュエ゛ェエエエ゛エ゛エ゛ッッ!?」
「うるさいですよ」
私は再び大剣を振るう。
そのまま黒い鶏の片足を斬り飛ばした。
「~~~~ッ!?!?」
片手(片翼?)片足を斬り飛ばされた黒い鶏は声にならない叫び声を上げる。
そして、纏っていた闇の形を変えて翼と足を形作り、上空へと飛び跳ねた。
逃げた? いえ、これは少し違いますね。
何をするつもりでしょうか。
……まあ、待ってあげる必要もありませんね。
私は飛翔しそのあとを追う。
が、少し飛び上がったところであたりに闇の靄が漂っていることに気がついた。
それを疑問に思いつつ、再び飛翔しようとした瞬間、私の身体は闇の鎖に拘束された。
それも肉体の内部から。
ほんの少しのダメージすらないとは言え、止まることのない私を止める手段としては正解ですね。
ですがこんなもの直ぐに引きちぎ――
ドゴォオオオオオオンッッ!!
――ろうとした瞬間、大気が歪むほどの衝撃が辺りに走る。
その衝撃の正体は、私に対して超高速で隕石のごとく落ちてきた黒い鶏だった。
おそらく苦肉の策だったのでしょう。
その身体のいたるところから血が噴き出している。
まさに諸刃の剣。普通の人間であれば跡形もなく消し去ってしまうほどの暴力的な力。
おそらく登場時にクレーターを作ったのも今の攻撃なのでしょう。
相手を殺すには十分すぎる威力。
ですがそれは普通であればの話。
私の身体には傷一つ付いていなかった。
それどころか辺りに被害すら出ていない。
これにはさすがの黒い鶏も呆けたような顔をする。
それもそうでしょう、自身の身を傷めてまで行った必殺の攻撃がまったくの無傷で耐えられてしまったのだから。
さすがに、ここまでくれば分かることでしょう。
これこそが、最高位天使である私の特別な力。
その名も《守護天使》。
私と、私が定めた対象へのダメージを完全に無効化する”権能”です。
無効化することで、たとえ内部からの攻撃だったとしても私自身には傷一つつかず、どんな攻撃を受けたとしても微動だにしません。
そのほかにも対象を護る系の”能力”及び”権能”の全てを使用できるという効果もあります。
自分で言うのもアレですが、強いです。
ただ、傍から見ればただただ防御力が高いようにしか見えないというのが悲しいところですね。
「今ので終わりですか?」
私は白々しく問いかける。
すると黒い鶏は一歩後ずさった。
どうやら、終わりのようですね。
まあ、たとえ終わりではなかったとしても、私には傷一つつけることすらできないのですが。
ともあれ、あまり長引かせるというのも好きではありません。
さくっと終われせましょう。
「それでは、さようなら」
「キュッ、キュエェ――――」
脅えたような声音を上げる黒い鶏を無視して大剣を振るう。
ズパンッ、ズルリ、ドサッ
そんな効果音を立てながら、黒い鶏の首が滑り、地面へと落ちる。
少し遅れて、その巨体も地面へと崩れ落ちた。
完全に絶命したことを確認した後、私は二本の大剣をブレスレットに繋げる。
そして、辺りに張っている認識阻害と人払いの結界を解除した。
これにて任務終了ですね。
少々時間をかけすぎた気がしますが、まあ、想定の範囲ないでしょう。
面倒なことにならないように魔石は破壊して……残りは討伐を報告するだけですね。
敵がこいつ一匹だという確信はありません。ですが、たとえまだいたとしても対処するだけですから。何も問題はありませんね。
それでは、早く終わらせるとしましょう。
いつ扇様が戻られてもいいようにしなくてはなりませんから。
そんなことを思いつつ、私は藤原さんたちの元へと向かった。




