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畜生の言っていることは理解できない

  アイル Side



 一方、時は少し遡りダンジョンの入口前。


「扇君、今どのあたりかな」


 ダンジョンの入口を見つめながら、藤原さんがそう言った。

 私は少し考える。そして答えた。


「そうですね……。扇様であれば既に40階層あたりには到着しているのではないでしょうか」

「さらっと言ってるけど、それ最高到達階層超えてるからね!?」

「それでも、主様ならあっさりと超えてそうなところが怖いね。今更といえば今更だけど……」

「だよね! だって扇君だもん!」

「……一体、どういう理屈でそうなるのかな。でもまあ、言いたいことはわかるよ」

「でしょ!」

「まあ、ね」


 私はそんな二人のやり取りを見ながら思った。


「お二人共、なんだかんだと言いながら扇様のことが心配なのですね」

「「えっ?」」


 藤原さんと唯さんは私の言葉を聞いて驚いたような声音を発した。


 もしや、気づいていないのでしょうか。

 雑談の話題が全て扇様であること。

 数分おきにダンジョンの入口を見つめていること。

 声音と表情が少しだけ硬いこと。

 他にも上げていけばキリがありません。

 そんなお二人をずっと見ていたのですから、いやでも気がつきます。

 とはいっても、それは扇様のことを心配してのことですから。私としてはとても喜ばしいことです。


 私はそのことをお二人に説明した。


「そ、そんなに顔に出ていたかな。全く気がつかなかったよ……」

「な、なんだか恥ずかしいね……っ! 僕は男の子なのに……もっとシャキっとしないと」


 そう言って恥ずかしがる藤原さんと唯さん。


 別に恥ずかしがる必要はないと思うのですが、確かに自分の感情がダダ漏れだった時は恥ずかしいと、アリス様に聞いたことがあります。

 ただ、私自身は無表情ですし、感情の起伏が少ないのでそういう感情には疎いのです。

 ですが、扇様だけはなぜか私の感情を読み取っていましたね。どうしてでしょう。

 ……わかりませんね。それでも、この世界に扇様以上に私の感情を読み取ることのできる人間はいないでしょうね。

 そう思うと、なんだか嬉しくもあり、恥ずかしくもありますね……。

 もしや、これがそうなのでしょうか? 

 だとすれば、なんとなく今のお二人の気持ちがわかった気がします。


「ともあれ、私たちはただ扇様のご帰還を待つだけですよ。心配など、その最中にしかできないのですから、今のうちにたくさんしておくことをおすすめします。それに――――」


 ゾクッ


 続きを言いかけたとことで、言いようのない悪寒が背筋を走った。

 そして、天使としての本能が告げる。


 ――何かが来るッ!


 そう感じたのと同時に私は叫んだ。


「お二人共! その場に伏せてください! 今すぐに!」

「え、えっ、なに!? どうしたの!?」

「いいから早く!」


 私はそう叫びながらお二人を強引に伏せさせる。

 次の瞬間、


 ドゴォオオオオオオオオオオォンッッッ!!!


 とてつもない破壊音とともに大地が波打った。

 岩のような土塊が飛び交い、砂煙が舞い上がる。


 しばらくして、それが収まった頃、私は顔を上げた。

 あたりからは人々の喧騒が聞こえてくるが、今はそれどころではない。

 今は……目の前の()()への対処が最優先ですね。


「な、な、な、なに、あれッ!?」

「あれは……魔物、なのかい? あんなものが、あんな化け物がッ!?」

「そうですね。あれは、正真正銘の化け物です」


 私は動揺するお二人にそう答えながら立ち上がり、目の前にできたクレーターの中心に鎮座している魔物に目を向けた。

 魔物の顔がグリンッと勢いよくこちらを向き、私と目が合う。

 その瞬間、魔物は甲高い叫び声を上げた。


「キュエェエエエエエッッ!!」


 そこにいたのはカラスのように真っ黒な身体の鶏だった。

 その身体からは黒いオーラのようなものが溢れ出しており、とてつもない圧が伝わってくる。

 間違いなく化け物。

 この感覚だと、大迷宮最下層のボスと同等かそれ以上ですね。

 

 本当に扇様のおっしゃる通りになりましたね。さすがは扇子様です。

 でもまさか、ここまでの化け物が出てくるとは思いもしませんでしたが……。

 それでも、扇様からのご命令ですから。

 藤原さんと唯さんは……いえ、この町は、私が守りましょう。

 

 そのためにはまず、人が邪魔ですね。


「藤原さん、唯さん、大丈夫ですか? 大丈夫であれば、今すぐに町の人々を安全なところまで避難させてください。ここは私が引き受けますから」

「えっ、でも……」

「それは……」

「早く」

「う、うん。わかった、よ」

「気をつけて」


 渋々といった様子で頷く藤原さんと唯さん。

 お二人には申し訳ありませんが、ここは任せていただきます。

 本当は私の近くにいてもらうことが一番安全なのですが、この鶏相手だとなにが起きるかわかりません。

 私の戦いに巻き込んでしまっては目も当てられませんからね。


 さて、


「どこのどなたの差金かは知りませんが、扇様のご命令です。あなたには死んでもらいます。準備はよろしいでしょうか?」

「キュエェエエエエッ!」

「……そうですか。すみません。畜生の言葉など、私にはとても理解できません。出来ることなら、可及的速やかに死んでください」


 私はそう言いながら、両手首に着けている大剣の付いたブレスレットに手を伸ばす。

 そして、大剣をブレスレットから取り外した。

 瞬間、キーホルダーほどの大きさだった大剣が巨大化し、普通の大きさの、二本の純白の大剣が姿を現した。


 これは扇様特製の魔道具です。

 確か【サイズ】という”能力”を使って自在に大きさを変えられるようにしているとか。

 付け加えてこの魔道具の素材はオリハルコン。その大剣は伝説級の業物といっても過言ではない仕上がりです。

 ハッキリ言って、国宝級……いえ、それ以上の価値のある魔道具です。

 これほどのものをあっさりと作ってしまうのですから、扇様は本当にすごいです。


 おっと、すこし脱線してしまいましたね。

 今は目の前の敵をどうにかしなければ。


 私はそんなことを考えながら、二本の純白の大剣を握り直す。

 そして黒い鶏と対峙する。


「それでは始めるとしましょうか。瞬殺してあげます」

「キュエェエエエッ!」


 もはや、聞くに耐えませんね。

 人払いはお二人がすぐに行ってくれることでしょう。

 であれば、私も少しだけ本気を出せるというものです。

 敵がこの畜生一匹とは限らない以上、早急に決着をつける必要がありそうですね。

 少しだけ、私の力を使う必要がありそうですが……この際致し方ありませんね。 


 そう思いながら、私は認識阻害と人払いの効果を持つ結界を私を中心として張った。

 そして、自身の”権能”を発動する。


「《天使化》」



 ――刹那、町全体が純白の光に覆われた。



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