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黒い化け物 3

「~~~~……う、グッ」


 胸に激痛が走り、どろりとした赤い液体が滴り落ちる。

 あまりの痛みに膝をつきそうになったがなんとか持ちこたえた。


 俺は一瞬、何が起きたのかがわからなかった。

 周囲に闇の靄が充満している。それに気がついたときには既に胸に闇の刃が突き刺さっていた。

 

 一体どうやって?

 

 そんな疑問が頭の中を蹂躙していく。

 わけがわからない。

 どうやって俺と《超高度AI(ラプラス)》の感知を掻い潜った?

 どうやって闇の刃を突き刺した?

 どうやって闇の靄を充満させた?

 いや、そもそも――


「……ぁ、っ」

《扇ッ! 大丈夫ッ!?》


 再び胸に走った痛みと、ラプラスの焦ったような声によって現実に引き戻される。

 俺は自分の現状をみて慌てて胸に刺さった闇の刃を引き抜いた。

 同時に今までにないほどの激痛が体中を駆け巡るが、今はそれどころではない。

 痛みを我慢して【反射板】と【跳躍】を発動させ、全力で真上に跳ぶ。

 次の瞬間、今まで俺の立っていた場所に黒い鶏が猛烈な勢いで突撃してきた。

 戦いの初めに見せた自分の巨体を利用した質量攻撃だ。


 特大の破壊音が鳴り響き、地面にクレーターが出来上がる。

 俺はそれを見て内心で危機感を覚えつつ、大剣に変えた右腕を天井に突き刺し、再びの【形状変化】で木の根のように形を変えて身体を固定する。

 どうやら天井付近には闇の靄が充満していないらしい。

 だがそれも時間の問題だろう。

 俺はすぐに【隠密】と【隠蔽】、【気配遮断】を発動し身を隠した。

 クレーターの中から飛び出してきた黒い鶏が俺を見失い、キョロキョロと辺りを見渡す。

 どうやらうまくいったらしい。

 そうとわかれば、見つかる前に傷を治してしまおう。


「……いってぇぇ――――ッ。【超再生】ッ、【完全回復パーフェクトリカバリー】ッ!」


 痛みに耐えかねて回復系能力を発動する。

 これで傷は消え痛みは引く。そう思っていたのだが――


「…………………………は?」


 胸には未だに大きな刺し傷が残っていた。

 だが”能力”が発動していないわけではない。

 現に小さな切り傷などは全て消えている。残っているのは闇の刃に付けられた傷だけだ。


「ラプラスっ、なんで傷が消えないんだっ? ――って、いや、ちょっと待て」


 そう言って、俺はあることに気がついた。


「いや、そもそもなんでスライムの肉体なのに痛みを感じるんだ?」


 そう、俺の肉体は今、《スライムボディー》の効果でスライムとかしている。

 明確な”能力”としてあるわけではないが、種族特性として痛覚は無効になっているはずなのだ。

 それなのに痛みを感じている。これはどういうことだ?


《ちょっとまって……ごめん、《解析》が遅くなった》

「どうした、何かわかったのか?」

《ん、”権能”《暗黒物質(ダークマター)》の発動を確認したよ》

「……効果は」

《効果は、すべての闇をダークマターへと変換すること。そして、万物の透過。回復不可。他にもあるけど今はそれどころじゃないね……。詳しいことはデータを送るから》


 ラプラスがそう言い終わるのと同時に、俺の視界の端に《暗黒物質》のデータが表示される。


「……マジ、かよ」


 俺はそれを見た瞬間絶句した。


 なんだよこの馬鹿げた”権能”は!?


 俺は思わずそう叫びそうになった。

 そのくらいこの”権能”の効果はぶっ壊れていた。

 そして同時に先ほど俺の胸に闇の刃を突き刺した仕組みがわかった。


 アレは、俺の体を透過した闇を体内で刃へと変えたのだ。

 つまり、今俺の眼下に広がっている闇の靄、あれに触れた時点で回避不可の攻撃が来るということだ。

 しかも回復不可というおまけ付きで。


 俺は奥歯を噛み締める。


「……痛みを感じるのはどうしてだ?」

《それは単純に《スライムボディー》よりも《暗黒物質》のほうが”権能”としての”格”が上だから。それどころか私よりも上みたい。だからこれから先、攻撃を防ぐとしたら《創造主》を使わないと無理だよ》

「ヤバイな、それ……」


 つまり、”能力”だけでなく”権能”までもがほぼ完全に無効化されたということだ。


《でも安心して。スライムの肉体であることに変わりはないから。内蔵なんかに気を配る必要はないよ》 

「安心できねぇ……。ラプラス、あいつの弱点は? それと他にも情報があったらあるだけくれ。どんな情報でもいい」

《……ごめん、弱点はわかるけど、それ以外の情報は何もないの。ううん、わからないと言ったほうがいい。何故かはわからないけど、あの鶏の情報にアクセスできないの。私でも簡単には突破できない様な高レベルのプロテクトが張ってあるみたい》

「そんなことがあり得るのか?」

《わからない。けど、これが現実だよ》

「なんでそんなものが――――いや、それはもういい。弱点は?」

《光》

「光? それじゃあ【雷撃】を使えば」


 俺がそう言うと、ラプラスは首を横に振った。


《無理。そんな生半可な光じゃなくて、もっと強力な光じゃないとあの闇は消えないよ》

「もっと強力な光、か。わかった。すぐに創る」

《うん。こっちもプロテクトを破れるように頑張るね》


 俺は頷いてから目を閉じ、イメージを始める。

 

 生半可な光じゃダメだ。それどころか今回は”能力”でもダメだろう。やるなら最強レベルの”権能”だ。

 そうとなれば、俺の知る限り最強の光を使う武器を創造するとしよう。

 

 目指すのは聖剣だ。

 俺は元の世界の知識の中から最も強いと感じた聖剣をイメージする。

 すべての闇をはらう、絶対の力を持つ伝説の聖剣。

 勇者と呼ばれる最強の人間の持つ最強の武器、それを創造する。

 もちろん創造補正は増し増しだ。これでもかってくらい盛ってやる。

 こんな鶏ごとき、一撃で完全消滅させられるくらいの聖剣を創ってやる。

 

 たっぷりと十数秒。その後、俺はゆっくりと目を開けた。

 そして静かに呟く。


「《権能創造:極聖剣(エクスカリバー)》」

 

 ――次の瞬間、目の前に黄金色に輝く剣が姿を現した。

 

 よし、成功だな。

 この感じだと【ダークネスドミネーション】よりも出力は上だろう。

 さすがは”権能”といったところだろうか。

 まだこの聖剣があの黒い鶏に通じるかどうかは謎だが、これは期待できそうだな。


「ラプラス」

《ごめん扇。プロテクト、まだ破れてないの》

「お前、さっきから謝ってばっかだな。別に気にしなくてもいいよ。弱点がわかっただけでも十分なんだから。――それよりも、もうそろそろ攻めるぞ」

《ありがと。――うん、了解》


 ラプラスは小さく頷いた。

 それを確認した俺は強化系能力を掛け直し、天井に固定していた右腕を元の形へと戻した後、目の前に浮かんでいる《極聖剣》を手に取り、黒い鶏に上から奇襲をかけた。


「”聖域セイクリットフィールド”ッ!」


 そう叫んだ瞬間、《極聖剣》から光が溢れ出す。

 その光は俺を中心として半径5メートルほどの円を形成した。

 同時に、俺の中にあった闇の靄が消滅し急速に胸の傷口が塞がっていく。 

 同じように上の方まで充満し始めていた闇の靄は”聖域”に触れると同時に消滅する。

 どうやら、黒い鶏の闇にもしっかりと効いているようだ。

 そうとわかればもう怖がる必要はない。

 最大の脅威だった《暗黒物質》も”聖域”の内側に入れない限り無いも同然。それどころか、俺の半径5メートル以内に黒い鶏を入れてしまえばそれだけで勝負は決まるだろう。

 何故ならあいつ自身を覆っている鉄壁の闇の鎧は”聖域”によって消滅してしまうのだから。


「キュエェエエエエエッ!!」


 俺の発した光に気がついた黒い鶏がこちらを振り向く。

 見つかったことによって発動していた【隠密】【隠蔽】【気配遮断】が解けるが、もはや必要はないだろう。


 俺は【加速】と【縮地】の同時発動によって超加速し、黒い鶏の懐へと潜り込む。

 すると黒い鶏が纏っていた闇の鎧が消滅する。

 それを見て脅威だと判断したのか、黒い鶏は勢いよく身を翻しその場から離脱を試みる。

 だが、俺がそんなことを許すわけがない。

 俺は《極聖剣》を大上段に構え、この聖剣の能力を発動した。


「”エクスカリバー”――――ッッ!!」


 瞬間、”聖域”など比ではないとてつもない量の光が《極聖剣》から溢れ出す。

 俺はそれを思い切り振り下ろした。

 

 刹那、極限まで凝縮された聖なる光の奔流が一直線に黒い鶏へと放たれる。

 黒い鶏は逃げ切るのは不可能と判断したのか、逃げるのをやめ全力の闇をその身体から放ち、鎧として身に纏った。

 それは俺が攻撃していた時とは比べ物にならないレベルの強力な闇だった。

 もしもあの時に使われていれば、手も足も出なかっただろう。

 だが、今は違う。

 どんなに強力な闇だろうがなんだろうが、この光は全てを蹂躙し消滅させる。そこにただ一つの例外も存在しない。


 光に触れあっさりと消滅する闇の鎧。

 これでもう俺の攻撃を防ぐ手段など存在しない。

 

 ……勝負あったな。


 俺はそう確信する。

 そして、黒い鶏は聖なる光の奔流に飲み込まれた。

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