実験中
「え~と、【雷撃】」
俺は手を正面に突き出し覚えたての”能力”、【雷撃】を発動した。
刹那、掌から青緑色の閃光が煌めき、バチバチバチッ! という音とともに雷が放たれた。
威力は雷竜と変わらず、目の前の緑あふれる景色は一瞬にして灰燼と化していた。
「ヤッバイなぁ~」
改めて自分がとんでもない”権能”を創造してしまったことを自覚する。
《死霊吸収》。死者の魂を吸収し自分の糧にする”権能”。
自分でいうのもなんだが、相当なチートスキルだ。
この”権能”の凄いところは、自分で殺す必要はない、というところだ。
他の誰かが殺した魔物だろうと、その場に居さえすれば吸収できるのだから、それはもうチートだ。目一杯チートだ。
無意識だったとはいえまさか異世界転生2日目にして人外の域に達してしまうとは。
やってしまったな。
だが反省はこれっぽっちもしていない。
むしろ当時の自分を褒め称えたいくらいだが、一応形式的にやってしまった、とだけ言っておこう。
で、なんだかんだあって只今雷竜から吸収したスキルの実験中というわけです。
これがまぁ意外と疲れる。
なぜかって? それは”権能”と違って自分の魔力を消費するからです。
そして魔力を消費すると疲れるのだ、ものすごく疲れるのだ。
理由は単純明快で、魔力とは生命力とイコールなんだそうだ。
つまり魔力が無くなると死ぬ。デ――――ッド。
これさ、もっと早く聞きたかったよね。
ちなみにこの情報、今日の朝アイルから聞きました。
そんな生死にかかわる情報を朝食を食べながらさらっと口にしたアイルはもっと反省すべきだと思う。
これを最初に聞いた時本当にゾッとしたんだよ。
だってさ、”能力”欄にあるじゃん?
昨日俺が作った”能力”というか、”能力”にした武器が。
そう【ダークネスドミネーション】である。
いや、ね? 本当に危なかったんだよね。
当時の俺の魔力って110だよ?
【雷撃】の魔力消費量はどれだけ抑えても300は超える。
じゃあ【雷撃】よりも強い【ダークネスドミネーション】の魔力消費量は一体どれほどなのでしょうか?
一発死亡もあり得たのではないでしょか?
まあ真偽のほどは定かではないが。
というわけで使ってみようと思います。
あっ、今の魔力残高は73200ね。
俺は、これで死んだりしないよな?
と内心ひやひやしながら呟いた。
「ふうぅぅ…………【ダークネスドミネーション】ッ!」
”能力”の発動と同時に、今までで感じたことのない倦怠感が身体を襲った。
脱力して転びそうになったが、それは女の子の前ということで気合で我慢した。
そんな葛藤の中ふと目の前を見るとこの世のすべての闇を凝縮したかのような漆黒の剣が浮遊していた。
どうやらちゃんと発動したらしい。
というか生きてるな。
今までと比べ物にならないレベルで疲れたが一応生きてるな。
とりあえず一安心だが。
……いったいどれだけの魔力を消費したんだ?
ものすごい疲れたぞ。
俺はすかさずステータスを確認する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
八重樫扇 17歳 男 人間 レベル:28
・筋力:50842
・魔力:53200/76390
魔法
『生活魔法』
能力
【言語理解】【ダークネスドミネーション】【雷撃】【雷纏】【雷操作】【剛撃】【威圧】【咆哮】【超硬化】
権能
《創造主》《死霊吸収》
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔力消費量は……に、2万だと……?
俺は魔力の値を目にして一瞬のあいだ絶句した。
あ、あっぶねぇえええええっ!!
雷竜戦のとき使わなくてよかったっ!
使ってたら死んでたよ!?
ホンットにあっぶねぇえな!
てか、2万って全体の約四分の一じゃん!
いくらなんでも多すぎ――――――ることもないか?
一撃で山に風穴あけるような力があるんだからそれが普通なのか。
それにこの剣にはほかにもギミックあるし、そう考えると少ない気もするな。
いや、ギミックの使用に魔力が必要ならやっぱり多いんじゃないか?
うむ、難しいところだな。
割と近くに死の危険があったことに驚いたが、逆に考えれば切り札ができたとも言える。
何事もポジティブシンキングが大切だよな。
さて、能力の確認もあらかた済んだし、
「出発するか」
「はい、扇様」
そうして、俺たちは再び王都へと歩みを進めた。
◆◆◆
道中、次々と出てくる魔物を創造した武器で串刺しにしていき、魔石を回収する。
魔物との戦闘もだいぶ慣れてきた。
最初のほうこそアイルに手伝ってもらっていたが、今ではすべて一人で討伐できる。
雷竜がいなくなったからか、雷竜の住処から離れたからか、はたまたその両方か。
もっと他に理由があるのかもしれない。
まあ、なんだっていいんだが、いきなり出てくる魔物の数が増えた。
大して強くはないが数が多い。
質より量といった感じだ。
そのおかげで俺のステータスはものすごいスピードで伸びている。
ああそうそう、《死霊吸収》について分かったことが二つ。
まず一つ目、一度吸収した魔物では二回目以降ほとんどステータスが伸びない。
二つ目、吸収した魔物の力がすでに吸収済みの魔物の劣化版だった場合、ステータスには追加されない。
これが新しく分かったことだ。
まあ、許容範囲内だな。
ちなみに出てきた魔物は、木を操る狼、地中から飛び出してくる大蛇、方向感覚を狂わすフクロウ、姿を消すカメレオン、強酸を出すイグアナ、斬撃を飛ばす人間サイズのカマキリ、大きさの変わる熊、などなど。
結果、俺のステータスは現時点ではこうなっている。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
八重樫扇 17歳 男 人間 レベル:32
・筋力:68180
・魔力:71840/89600
魔法
『生活魔法』
能力
【言語理解】【ダークネスドミネーション】【雷撃】【雷纏】【雷操作】【剛撃】【威圧】【咆哮】【超硬化】【樹木操作】【縮地】【熱源感知】【催眠】【魔力操作】【隠密】【隠蔽】【強酸】【斬撃】【サイズ】【再生】
権能
《創造主》《死霊吸収》
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
意外とすごいことになっていた。
そうして歩くこと約三時間。おそらくお昼時だ。
「この辺りで昼食にしましょう」
「賛成~」
少し開けた場所に出て、昼食の準備を進める。
俺はテーブルと椅子、キッチン、調理器具に食材、調味料を創造した。
料理はアイルの担当だ。
昨日の夕食と今日の朝食を食べて分かったがアイルの作る料理は絶品だ。
お世辞ではなく本当においしかった。
まあ美少女の手料理ならたとえ不味くてもいいんだけどね。
だってかわいい女の子が俺のために作ってくれたんだ。
たとえ美味しくなかったとしても、その事実だけで価値がある。
できれば新婚みたいに裸エプロンで料理してほしいところだが、そこまでは求めちゃダメだな。
さすがに欲張りすぎる。
え? どうして完成している料理を創造しないのかって?
そりゃあもちろんエプロン姿のアイルが見たいからに決まってるだろ?
さて、とりあえず今は目の前の幸せ(料理中のアイル)を眺めて癒されるとしよう。
だんだんと無表情が愛らしく感じてきたな。
表情がない。でもそれがいい、みたいな。
でもアイルが笑ってるところも見たいんだよな~。
どっちも捨てがたいな。
ん? 昼食中に魔物は来ないのかって?
ダイジョウブ大丈夫。
広範囲に【威圧】かけてるからまず来ないよ。
もちろん魔物にだけわかるくらいに調節してあるから、たまたま人が通りかかったとしても大丈夫だ。
だんだんといい匂いが漂ってきた。
今日の昼食はカレーだ。
俺の大好物の一つでもある。
俺がアイルを眺めながらカレーが完成するのを待っていると、どこからか叫び声が聞こえてきた。
「きゃぁああーー!」
声音的に女性だろうか?
それも少し幼めの声音だったきがする。
助けに行かない、という選択肢も当然あるにはあるが、気が付いてて見捨てたとか夢見が悪いにもほどがあるからな。
「アイル、ちょっと様子見てくる。すぐに戻ると思うから、少し待っててくれ」
「かしこまりました。お気を付けて」
「おう」
そう言って俺は声の聞こえたほうに向かって駆け出した。
これはもしかするとお姫様救出イベントなのでは?
というありがちな展開を想像しながら。