ボス部屋攻略(?)
流星のごとくダンジョン内を駆け巡る。
道中すれ違う魔物は【火炎弾】を《超高度AI》の未来予知にすら匹敵する計算能力を駆使して放ち、次から次へと焼却していく。
速度的にはたぶんすでに音速は超えている……と思う。
だって自分の早さとかわかんないしさ。
でも体感的には超えている感がある。
《超高度AI》の解析能力を使えば測れないこともないけど、あいにくと今は余裕がない。
思考加速と未来予測、照準合わせ、そして完全記憶。それらに多くのリソースを割いているせいで他に回せないのだ。
念のために多少は残しているが、それを使う気は毛頭ない。いざというときに使えないのは困るからな。
かといって他の機能を解除することはできない。
思考加速は勿論のこと、未来予測と照準合わせは魔物を倒すのに必須。完全記憶は自動発動なので解除不可だ。
では魔物を倒さなければいいのでは?と思われるかもしれないが、それはできない。
ただでさえ今は魔力をガンガン消費している状況だ。
いくら俺の魔力量が常人のそれを軽く上回っているとは言え、その量は決して無限ではない。
当然のことながら、消費したら消費しただけ減っていくのだ。
そんな俺にとって魔物は『とてつもない効果をもつ魔力ポーション』のようなものだ。
倒したら倒しただけ魔力は回復し、その最大値は増加する。
どれもこれも《死霊吸収》の効果だ。相も変わらずチートである。
まあ、”権能”という時点でチート能力であることが確定しているようなものだしな。何も問題ない。
そんなこんなでどんどん先へと進んでいく。
大迷宮というだけあって一層一層がとてつもない広さだが、最短距離を行くことであまり時間はかかっていない。
そしてあっという間に、29階層へと到着する。
しかし、ここで問題が発生した。
今が29階層ということはあっという間にボス部屋に到着することだろう。
で、だ。
「ヤベェ……これ、どうやって止まればいいんだ?」
俺は呑気にもそんなことを呟いた。
………………いや、言いたいことはわかる。自分でも「ああ、俺ってバカだな」って思うよ。
たださ、深夜に練習してた時はここまで本気出してなかったからスピードも大して出てなかったんだよ。
そのおかげで、大した苦労もなく止まることができたんだが――――やっぱり、最大値は一度くらい調べておくべきだったな。
そのせいですっかり忘れてた。
って、こんな呑気なこといってる場合じゃないな。マジでどうしよう。
そうこうしているうちに30階層へとつながる階段に差し掛かった。
いよいよもって時間がないな。
「これは~……まあ、仕方ないか」
ちょっと強引に止めるとしよう。
俺はそう思いながら、ボス部屋の扉が視界に入った瞬間、現時点で発動している《超高度AI》《スライムボディー》【超硬化】【金剛】以外の”能力”を解除し、新しく”能力”を発動した。
「うぉおおおおおッ【形状変化】ッ! 【粘糸】【鋼糸】ッ!」
なかば絶叫気味にそう叫びつつ、俺はスライムと化した自分の肉体の形状を変化させた。
腕を広げ膜のようなものに変化させ、その膜で自分自身を覆う。
はたから見ればおそらく球体のようになっていることだろう。
次に球体となった身体から粘着と鋼鉄の特性を併せ持つ糸を射出する。
そのまま身体に巻き付けつつ、糸の先をダンジョン内の岩や壁、地面などに付けていく。
それも一本ではない。
何本も何本も巻き付け束ねて繭のようになりながら、俺は束ねた極太の糸で特大の蜘蛛の巣を作り、一面に張りながら自分をその場に固定する。
これが《スライムボディー》の便利なところだ。
糸系の”能力”は本来『指先からそれぞれの特性を持つ糸を射出する』というものだ。
だがスライムの肉体に指などという概念は存在しない。
そのため他の”能力”同様に全身から糸を出すことが可能なのだ。それは【形状変化】で身体を変化させていても同じだ。
だが、どうやら少しばかり遅すぎたらしい。
引っ張られる衝撃に耐えられず、糸を付けた地面や壁は剥がれ、巻き付けた岩は砕け散る。
そのたびに糸を操り付け直すが、結果は同じだった。
それでも全くの無駄というわけではないらしく、目に見えて速度は落ちていった。
……勢いを完全に殺しきることはできなかったらしいが。
俺は慌てて【超硬化】と【金剛】に込める魔力量を増やした。
「~~~~~~~ッ!!」
ドゴォオオオオオオオォォォオンッ!!!
ボス部屋の前の扉に勢いを殺しきれずに激突する。
扉は粉々に砕け散り、ボス部屋内へと侵入する。
ドバンッ、ズガガガガガガガガガッ
何かに激突する音と主に何かが削れるような音が聞こえてくる。
おそらく地面に激突しているのだろう。
すごい振動が伝わってくる。
が、それもすぐに収まった。
どうやら止まったらしい。
壁に激突したような衝撃が来ていないってことは多分糸が役に立ったのだろう。
少し遅すぎる気もするが……。
「うっ、ぐ。……うぅ……あっぶねぇ。死ぬかと思った」
俺は無事なことにほっと胸をなでおろした。
はぁ、まあいいか。それよりも攻略だ。
「【融解】」
俺は【形状変化】を解除して腕の形をもとに戻しながら、【融解】で繭のように巻かれた糸を分解した。
そして外にでる。
あたりを見渡すと破壊された扉と抉れた地面があった。
……だが、あるべきはずのモノがそこにはなかった。
「あっれ、おかしいな。ボスはどこだ? ここはボス部屋のはずなんだが……」
何度見てもそこにボスの姿がない。
ボス部屋なのにボスがいないなんてあり得るのか?
もしくはアサシンスネークみたいな隠密タイプか。…………いない? そんな馬鹿な。
【気配感知】と【魔力感知】を発動してみたが、気配や魔力の反応はなかった。
じゃあ熱はどうだ。
俺はそう思い【熱源感知】を発動した。
……いた。いや、あった、か。
俺は反応があった方へと――天井へと視線を向ける。
するとそこには真っ黒な塊があった。
え~と、アレがボスか? でもなんで……いや、待てよ、もしかしてあの音って……。
俺は先ほど聞こえた音を思い出した。
ズガガガという音の前に聞こえたドバンという音。
あれってもしかしてあの塊とぶつかったときの音か?
ってことはつまり、轢き殺したってことか。
……………………まあいいか。結果オーライだ。気にする必要はないな。
思うところがななかったわけではないが、まあ、いいだろう。
手間が省けたとでも思っておこう。
というかどのみち殺していたのだ。
少しばかり手段が変わったところで何も問題はないな。はっはっは。




