自分に出来ることを
アイル Side
「さて、それでは私たちも行くとしましょう」
私はそう言いながら立ち上がった。
「行くってどこに?」
「ダンジョンの入り口です」
「アイルちゃんもダンジョンに潜るの?」
「いえ、そういうわけではありません。私は扇様のお願いの通り、藤原さんと唯さんの護衛をいたします。傷一つつけないと約束いたしましょう。――ですが、この場でこのままじっとしているというのは敵が現れた際、扇様の身の危険につながる可能性があります。であれば、初めから護衛場所をダンジョンの入り口付近にすることにより敵のダンジョン内への侵入も共に防ぐ、というのが最善だと判断しました」
「確かに、それはいい考えかも知れないね。護衛される立場で本当に申し訳ないけど……」
「お気になさらず。私はあくまでも扇様の命に従っているだけですので」
「それでもだよ! 僕がもう少し強かったらよかったんだけどね」
藤原さんはそういって自嘲気味に笑った。
私や扇様が異常なだけで藤原さんは別に弱くはないと思うのですが。
……ですが、おそらく私がそう言ったところで慰めにすらならないでしょうね。
力というものはいやらしいもので、欲しい時に必ずしも手に入るわけではありませんから。
下手な慰めは逆効果でしょう。むしろ相手をさらに惨めな気持ちになせてしまう可能性があります。
ここは言葉を選ばなくてはいけませんね。
「藤原さん。力のかたちとは様々です。なにも扇様に合わせる必要などありません」
「でも、梨乃亜ちゃんが……」
「それもですよ。人には向き不向きというものがあります。力不足が歯がゆい気持ちもわかりますが、苦手なものはそれが得意な人に任せておけばいいのです。藤原さんは藤原さんで、自身にしかできないことを見つければいいのです」
「僕にしかできないこと?」
「はい」
「……でも扇君って大抵のことはできるよ? 僕にしかできないことなんてあるのかな」
「そうですね例えばですが…………」
私は言いかけて口をつぐんだ。
「それは、自分自身で探していくのがよいかと」
「そう、だよね。うん! 確かにズルは良くないよね! 僕、自分にしかできないこと探すよ!」
「……がんばってください」
私は急に元気になった藤原さんを見て若干引きつつ、話を元に戻した。
「それでは、改めてダンジョンの入り口まで行きましょうか」
「そうだね。行こうか」
そういって一ノ瀬さんが立ち上がる。
そして部屋を出るために、ドアへと向かう。
が、そこで藤原さんが声を上げた。
「あっ! ちょっと待って!」
「? どうしたのですか?」
「行くのはいいけど、その前に先生に報告しておいた方がいいんじゃない?」
「確かに、普通ならその方がいいのでしょうね。ですが、なんと報告するのですか?」
「え? それはもちろん『ありのまま』じゃないの?」
「それだと、報告した場合、扇様は罰を受けることになるでしょうね」
「えっ、どうして!? なんで扇君が罰せられるの!?」
なぜかわからないといった表情を浮かべる藤原さん。
この人、失礼かもしれませんが、たまに物凄く頭が悪いですよね。
私はそんなことを考えつつ答えた。
「何故なら、扇様は今お一人でダンジョンを攻略中なのですよ? 『五人そろっていないとダンジョンには潜れない』という学校の決めたルールを完全に無視しているではありませんか」
「「あ……」」
どうやらたった今気が付いたらしい。
というより、唯さんも忘れていたのですね。少し意外です。
「それじゃあ報告はなしの方向でいいのかな?」
「ええ、それでよろしいかと。扇様を煩わせるような行為は避けるべきです」
「アイルさんって主様のことが絡むと必死だよね。どうしてか聞いていいかい?」
「それ僕も気になってたんだ! どうしてなの!?」
「別に、大したことではありませんよ。私はただ、扇様に忠誠を誓っているというだけの話です。自分の主を不快な気持ちにさせたいなどと思うはずがないでしょう」
「忠誠って……十分大したことだと思うけど。でもまあ、ボクもその気持ちはわからないでもないけどね。ボクの場合は奴隷だけど」
「うー。なんだろ、この仲間外れ感! 少し寂しいよ!」
「でしたら、藤原さんも扇様に忠誠を誓われてはいかがですか? そうすれば仲間外れではなくなりますよ」
そう言うと藤原さんは腕組みをして少しの間考え始めた。
「……う~ん。確かにそれもいいけど、僕としては主従関係よりも対等な友達として接していきたいかな!」
「そうですか。残念です」
扇様に忠誠を誓うものが増えるというのは同じ従者として少しうれしいものがあるのですが、こればかりは仕方がありませんね。
扇様の大切なご友人を変えてしまうわけにはいきませんし。
それに、根本的な問題として、それを扇様が喜ぶとは限りません。
それならば、扇様が従えたいと思われた場合にのみ全力を出しましょう。扇様がそのようなことをおっしゃられる姿など、あまり想像はできませんが。
「それでは今度こそ行きましょう。あまりもたもたとしているというのも扇様に申し訳がありません」
「そうだね! 行こう!」
「準備は整っているから何時でも行けるよ」
私は二人の声を聴いて小さく頷いた。
「それでは、行きましょう」
そう言って私たちは扇様の部屋を出た。
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