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話し合い

「――――以上が、私の知る情報の全てです」


 アイルは話し終わると「ふぅ」と息を吐いた。

 その話を聞いていた俺たちは愕然とする。

 ハッキリ言って、俺の思っていた以上の情報だった。これならアイルが俺では勝てないと言ったことも納得がいく。


 ユリスの奴、俺と同じかそれ以上にチートだった。

 正直なところ、アイルに話を聞いた今でも勝てるかどうかは微妙なところだった。

 当然、聞いていないよりもはるかにマシだが、それとこれとは話が別だ。

 もしも連れ去られていたのが星野ではなく、知らない誰かだったのなら俺はすぐにあきらめていただろう。


 まあ、個人的な事情を言うとすれば、正直俺はユリスと戦ってみたい、というのもある。

 ずっと気になってたんだよ。

 アイルの話を聞いて驚いたが、俄然やる気が出てきた。

 もしも、こんな形ではなかったら……俺はユリスと戦うことを楽しむことができたかもしれない。

 だが、今はそんなことを考えたところで仕方がない。

 最優先事項は星野の救出。それ以外は二の次だ。


「でも、それが本当なら『四大聖騎士』どころか『勇者』が派遣されるレベルだね。ハッキリ言って、学生であるボクたちが戦っていい相手ではないよ」

「聖騎士に勇者か。今から国に報告したとして、到着までにどのくらいかかるんだ?」

「そうだね……、大体一週間くらいじゃないかな」

「ダメだな。そんな時間は待てない。ユリスがどの程度待ってくれるのかが不明だからな」


 いや、正確に言うならユリスに”使命”とやらを与えている親玉か。

 つねに連絡を取っているのかどうかはわからないが、大本の部分に誰かがいるのはユリスの様子を見ても間違いないだろう。

 

「でもどうやって助けるの?」

「どうやってって、そりゃあ正面突破じゃないか?」

「扇君、正気? さすがに相手が悪すぎるよ!」

「そうだね、危険すぎる。いくら主様でもそれは容認できないよ」

「それに関しては同意です。私は扇様に行ってほしくはありません」

「じゃあどうしろって言うんだ? 当然だが、諦めるっていうのは当然却下だぞ?」


 俺がそう言うと三人は押し黙った。

 星野を連れて無事に戻ってくる。言葉にするのは簡単だが、それを実際にやれと言われればとてつもなく難しい。言うは易く行うは難し、というやつだな。


「せめて、アイルちゃんを連れては行けないのかな!」


 藤原がそんなことを言った。


 その気持ちはわかる。二人いればできることも安全性も跳ね上がるからな。

 それがアイルともなればなおさらだ。これ以上頼りになる戦力もないだろう。

 四大聖騎士や勇者なんかよりもよっぽど頼りになると思う。

 だが、


「それはダメだな。ユリスは『一人で来てくれ』って言ってたからな。それを破るわけにはいかないだろ」

「そんなの! ()の言うことなんだよ!? わざわざ扇君が一人行く必要はないよ!」


 俺はユリスが敵と言われることに言いようのない不快感を覚えた。

 わざと言ったわけじゃないだろうけど、正直聞いていてあまり気持ちのいいものではない。

 もしかしたら、俺はいまだに心のどこかで『何かの間違いなのではないか?』とも思っているのかもしれない。


「藤原の言うとおりだとして、そんなことでユリスの機嫌を損ねるのは良くないんじゃないか?」

「そ、それは……」

「それに、アイルにはまた別に頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと、ですか?」

「ああ」


 俺は頷いて答えた。


「アイルにはこの町の……というか藤原と一ノ瀬の護衛を頼みたいんだ」

「……なるほど。確かに念には念を、というのは大切かも知れませんね」

「だろ?」

「えっ、どういうこと?」

「もっと詳しく教えてもらってもいいかな」

「ああ。そもそも、相手がユリス一人という保証がないんだ。もしもユリスと同等の何者かが近くに潜んでいた場合、相手をすることができるのは俺かアイルくらいのものだろう。もしも二人してダンジョンに潜りでもしたらこの町は完全に無防備になる。それだけじゃない。一番怖いのはそのままダンジョンの中に入ってきてユリスと挟み撃ちにされることだ。そんな状況になれば万が一にも勝機はなくなるからな」

「でも、すでにダンジョン内に潜伏している可能性もあるんじゃないかな。少なくとも、可能性はゼロではないと思うけど」

「ん~それはないと思うぞ?」

「……どうしてそう言い切れるのかな」

「だって”記憶”にないから」


 俺がそう言うと三人はそろって首を傾げた。

 無理もない。いきなり記憶とか言われても訳が分からないだろう。

 これは……うん。仕方ないよな。じゃないと納得してくれそうもないし。

 それに、こいつらになら話してもいいだろう。と言っても、完全に知らないのは藤原だけだけどな。


「さて。実際に見てもらった方が早いか」


 俺はそう言って、”権能”を発動させた。


「《超高度AI(ラプラス)》」

《ん! 了解!》


 自分自身で完全に《超高度AI》を発動し、すべてを可視化する。

 瞬間、アイル、星野、藤原から驚きの声が上がった。

 そういえば、こうして可視化するのは初めてだったな。

 はたから見るとなかなかすごい光景になっているはずだ。

 まあ、可視化してもラプラス自身は見えないんだけどな。


 今俺の周りには、この場にあるほぼ全ての物体の情報が表示されている。

 机、ベッド、絨毯、壁、木の柱、ガラス、その他もろもろが、パソコンの場面のように俺の周囲に浮かんでいる。

 それはある種、幻想的ともいえる光景だろう。

 そしてそれは『”森羅万象”にアクセスし、情報を読み取ることのできる”権能”』である《超高度AI》の力の一端だ。

 

「扇君、これは!?」

「すごいね。これはもしかして」

「《超高度AI》、ですか?」

「ああ、そうだ。まぎれもない”権能”だな」


 俺がそう言うと藤原は信じられないといった表情を浮かべた。


「扇君の”権能”って『ものを創る権能』だけじゃなかったの!?」

「誰も一つだなんて言ってないだろ」

「いやいや、一つでも十分異常なんだよ!? それなのに複数なんて!」

「落ち着けよ藤原。慌ててるのお前だけだぞ」

「逆にどうしてみんなはそんな平然としてるの!?」

「だってボクは知っていたからね。こうして見るのは初めてだけど」

「私も知っていました。こうして見るのは初めてですが」

「えっ! 知らなかったの僕だけなの!?」

「いや、星野も知らないぞ。というかもうそろそろ説明に戻ってもいいか?」

「う、うん。ごめんね、取り乱して」


 藤原はそう言って謝ってきた。

 別に気にすることはないのにな。というかそれが普通の反応だろ。

 俺としても藤原の反応は新鮮で気持ちがいいから嫌いじゃないし。

 ……と、思ったものの、そんなことを言ったら藤原が調子に乗るから心の中に押しとどめておくことにした。


 それから俺は、改めて説明を始めた。


「まず、《超高度AI》は”森羅万象”にアクセスし、情報を読み取ることのできる。詳しい説明はこの際省くが、そういう力があるということだけ覚えておいてくれ。

 そして、ここからが今回一番大切な部分なんだが、俺はこの力で”世界の記憶”とでも言うべきものから過去と現在の情報を読み取ることができるんだ。今回読み取ったのはアスロル大迷宮の過去と現在だな。そして、これはその結果なんだが、アスロル大迷宮が誕生してから今日まで、ユリス以外が侵入したという記憶は残っていない。つまり、ダンジョン内にいるのはユリスのみだ」


 俺の話を聞いていた三人は「おお~」という声を上げた。

 感心しているのかそれともバカにしているのか。できれば前者であってほしい。


「その”権能”でこの近くに潜んでる敵の有無はわからないの?」

「現時点ではわかるが、その後のことはわからないな。《超高度AI》でわかるのはあくまでも過去と現在だけだからな。転移でも使われて一瞬で近くに現れたら俺にはわからない」

「そっかー。さすがに”権能”といっても未来まではわからないんだね。少し安心したよ」


 いや、未来自体は演算でわかるんだけどね?

 さすがに世界規模となると時間がかかるからやらないけど。


「ところで、そろそろ俺、出発してもいいか? 早く攻略を進めたいんだが」

「う、う~ん……」

「別にいいんじゃないかな」

「唯ちゃん……?」

「だってわざわざ敵が一人だけだということを証明するためだけに”権能”まで見せたんだ。その覚悟をくむべきだとボクは思うけどね」

「…………そうだね。うん! わかった!」


 しばらく考え込んでいた藤原だったが、すぐに顔を明るくしてそう答えた。

 残るは一人だな。


「アイルは? まだ俺一人で行くのは反対か?」

「いえ、扇様がそれを望むのであれば、私にそれを止めることなどできません」

「そっか。それじゃあ行ってくる」

「お気をつけて」

「ああ」


 そう言って、俺は三人に見送られながら部屋を出た。

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