最下層にて
ボスを倒した後、俺たちは転移ポータルを使いすぐに宿に戻ってきた。
集まっているのは俺の部屋だ。
《創造主》を使って創った丸い机を囲うように俺、アイル、藤原、一ノ瀬の順で時計回りに座っている。
いつもならば楽しく笑いながらトランプでも始めるところだが、あいにくと今日はそんな雰囲気ではない。
だがそれも当然といえるだろう。
何故なら、星野が少女に連れ去られたのだから。
ユリスがどうしてそんなことをしたのかは、残念ながら俺にはわからない。
正直なところ驚いていた。ユリスがそんなことをするような奴には見えなかったからな。
だが、ユリスのことを多少なり知っている俺でもこれだけあれだけ驚いたんだ。
何も知らない藤原や一ノ瀬はそれ以上だろう。
「それじゃあアイル。話してくれ。どうして俺じゃあユリスに勝てない?」
俺は暗い雰囲気が漂う中、口を開いて一番気になっていたことを聞いた。
「かしこまりました。ですが、その前に一つ私からも質問をよろしいでしょうか?」
「なんだ? 別に聞いてもいいが、できれば手短に頼むぞ」
「はい。それでは一つだけ。扇様がどうしてあの娘と親しげに話しておられたのでしょうか? 私の知る限り、接触の機会はなかったと記憶しておりますが」
あまりにも真剣な表情でそんなことを聞かれたので、俺は思わず言葉に詰まった。
「あ、あ~それは、な。ちょっといろいろあって……」
「『いろいろ』とは?」
そう言いながらいつも通りの無表情で首をかしげるアイルには、なんというか有無を言わせぬ迫力があった。
これは、話さないとだめだよな~。
いや別に隠してるわけじゃないんだけどね? 俺が何か悪いことをしたわけでもないし。
……いや、夜中に一人でダンジョンに潜っていたのは悪いことかも知れないけどさ。
でもこれって今必要なことなのかな~、って。
俺はなんとなく警察に職質されている気分を思いながら口を開いた。
「え~と。どこから話そうか」
「全部です。初めからお願いいたします」
「……まあ、最初からだよな。わかった。それじゃあまずは、俺が夜中の二時に頃に一人でダンジョンに潜っていた、って言うところからだな」
「扇君そんなことしてたの!?」
「ま、まあ、10階層だし。あの程度なら一人でも簡単に倒せるしさ」
「それでもだよ! 一人は危ないんだよ!?」
「その通りだよ主様。いくら主様がボスを一撃で倒せるとしても、何が危険につながるかはわからないんだ。最低でももう一人は連れていくべきだと思うよ」
「うっ、分かった気を付ける」
俺がそういうと二人は「絶対だよ」と言いながら話を聞く姿勢に戻った。
改めて話を続ける。
「それでダンジョンに潜ってたある日、あいつと出会ったんだよ」
「あのユリスって娘、だよね?」
俺は藤原の問いに肯定するように頷く。
「最初は怪しすぎるってことで警戒してたんだけどな。それからいろいろと話していくうちに打ち解けていって、俺の実験に付き合ってもらったりして。と言ってもまだ2日だし、夜中だけだからそんなに時間はなかったんだけど」
「それで寝不足だったのですね」
「まあな。俺の話はそんなところだ。他は特にない」
「そうですか。話していただきありがとうございます」
そう言いながら恭しく頭を下げるアイル。
結局のところこの質問の意味は何だったのだろうか? ものすごく気になるんだが。
が、俺はその気になる気持ちをぐっと抑えて、アイルの話を待った。
ようやく本題だ。
俺は改めて気を引きしめた。
「では、私の知る限りすべての情報を開示しましょう。まずは――――」
そう言いながらアイルは話を始めた。
ユリス Side
「はあぁぁぁああ」
あたしは最下層に戻ってくると同時に盛大な溜息をついた。
油断した。ホントーに油断した。
まさか10階層にオーギが来るなんてなー。
てっきり20階層に転移するもんだと思ってたんだが、まさか上から歩いてなんて予想できねーよ。
まあ、その原因を作ったのはどーやらあたしっぽいんだが……。
あ~まったく記憶にねーな。いっそ清々しいくらいに覚えてねーよ。
しかもあたしのターゲットを連れてとか、タイミングが悪ーにもほどがあるぜ。
あ~あ、こんなことならもっといろいろと話しとくんだったな。
たった二日。めちゃくちゃ短-けど、それでも、確実にここ数年で一番楽しー時間だったな。
人前で笑ったのっていつぶりだっけか。
久しぶりに楽しーって感じたよな。それも決闘以外のことで。
オーギは見てて飽きねーし、実験っつって次から次にボスを瞬殺してる姿を見たときは気持ちがよかったし、毎回違う”能力”を発動させるのはすげーワクワクした。
でも、それも今日で終わりかー。
最後は結構あっけないもんだよな。
ホントーは星野っつーガキを拉致るつもりなんてなかったんだけどな。
だって、オーギと会う前は速攻ーで全員殺すつもりだったんだかんな。
だってのに、なんで拉致なんつー卑怯な手を使っちまったんだ?
いずれ終わりが来るっつーことはわかってたんだ。今回のはそれが早まっただけだろ?
自分ルールなんてのも作ってよー。結局自分で守れてねーじゃねーか。
オーギの奴、怒ってんだろーなー。それもとーぜんか。だって仲間が拉致られたんだもんなー。
そんなの怒んなっつー方が無理ってもんだよな。
……つーか。これってあいつが指定した『真正面から』つー条件は問題ねーのか? 結構破ってる気がすんだが……。ま、いーか。なにかあったらあいつの方から【メッセージ】くるだろーしな。問題なしだな。
はぁ……せめてもの救いは、最後にオーギと戦えるっつーとこだよな。それは楽しみだ。
オーギには悪ーがこれだけは譲れねーよ。
そんなことを考えていると、不意に小さな声が聞こえてきた。
「……うっ……ん」
「どーやら起きたみてーだな」
「! あなたさっきの!」
星野はあたしのことを認識するや否や、すぐに飛び起きてあたしから距離をとった。
「いー反応だな。だが安心していーぜ。すぐにどーこーしようって気は毛頭ねーから」
「……ここはどこなの」
「ここか? ここはアスロル大迷宮最下層。いや、50階層って言った方が分かりやすいか」
「さい……かそう?」
「そ。だからにげよーなんて思わねー方がいーぞ? テメェて程度の実力じゃ秒も持たねーと思うから」
あたしがそう言うと星野はギリッと奥歯をかんだ。
おそらくあたしが嘘をついていないことが分かったんだろうな。
「ま、もうしばらくすればオーギの奴が助けにくんじゃねーか? つーか、そーじゃねーと困る」
そう言うと星野の目が一瞬だけ色を取り戻した気がした。
「現金な奴だな。ま、オーギが来るまでおとなしく待ってろよ。これはあたしの予想だが、そ―長いことは待たなくてもいーと思うからよ」
あたしはそう言いながらオーギがいるであろう真上を見つめた。
出来ることなら、オーギが早く来てくれますようにと願いながら。




