アイルの優先順位
意味が分からない。どうしてこうなった?
俺はユリスと星野が消えた場所をただ茫然と見つめながらそんなことを考えた。
どうしてユリスは星野を連れ去った? 使命とは何のことだ? なぜあの時ユリスは謝った? なぜあんなにも悲しげな顔をしていた? 本当に二人は最下層にいるのか? 罠の可能性は? ユリスは……最初からこれを狙って俺に近づいたのか?
そんな疑問が次から次へと湧き出てくる。
……駄目だ。思考がまとまらない。
いや、そもそもこんなとこで考えてる場合じゃないだろ!
俺は考えても答えが出ないと判断するや否や、直ちに踵を返して転移ポータルのところへと向かう。
が、それは急に目の前に割り込んできた人物によって止められた。
「扇様、いったいどこへ向かわれるおつもりですか?」
「アイル……。決まってるだろ、ユリスのとこだよ。星野を取り返してくる」
「無茶でございます。どうかお考え直しください」
「無茶? そんなこと言ってる場合か? 星野が連れ去られたんだぞ。命がかかってるんだ! こんなダンジョンくらいすぐに踏破してやるよ!」
俺がそういうとアイルは首を横に振った。
「確かに、扇様であればこのようなダンジョンの攻略程度、造作もないことでしょう。そこを疑うつもりはありません」
「だったら……!」
「ですが、あの少女を倒すことは絶対に不可能です」
「……なぜ、そう思う? お前が俺にそこまで言うってことはそれ相応の理由があるってことだよな?」
「勿論でございます。ですから、ここは一度お引きください。続きは宿でいたします」
「嫌だ、と言ったら?」
「力ずくでも」
そう言ったアイルの目には何があっても俺を先には行かせない、という覚悟が宿っているように見えた。
どうやら、一歩も引く気はないらしい。
「星野が、心配じゃないのか……?」
「もちろん心配です。ですが、私にとっての優先順位は扇様が一番ですので。何よりも扇様を優先します。ただそれだけです」
「そうか」
それはまさしくアイルの本心なのだろう。
「………………わかった。一度戻る」
「ありがとうございます、扇様」
アイルは恭しく頭を下げた。
「すべてが解決した暁にはどのような罰でもお受けいたします」
「いや、気にしなくていい。俺も少し、頭に血が上りすぎてたらしい。そんな状態で行っても勝てるわけがないよな」
「申し訳ございません。ありがとうございます」
なんでアイルが謝るんだよ。
謝るべきは俺で、お礼を言うべきも俺だろうに。
だが、今は何より時間が惜しい。
ユリスは時間の指定をしなかった。
だからと言っていつまでも時間があると考えるのは早計だ。
急ぐに越したことはないだろう。
アイルにお礼を言うのはすべてが済んだあとだ。
「それじゃあ一度宿に戻ろう。藤原と一ノ瀬もそれでいいか?」
「もちろんいいよ!」
「ボクもそれでいいよ。でも、だとすると早くしたほうがいいね。時間は有限だ」
「そうだな。今は一分一秒が惜しい」
俺が改めて転移ポータルに向かおうとした瞬間、
「キシャ――――ッ!!」
ジャイアントバジリスクがリスポーンした。
「なんて間の悪い……ッ」
俺は心の中で舌打ちした。
まさかこのタイミングでボスがリスポーンするとは思わなかった。というかここがボス部屋だってことを忘れてた。
俺はチラッと山田たちを見る。
山田たちは何が何やらわからないといった表情をしていた。
まあ無理もないが……仕方ない。今回は諦めてもらおう。
「山田! 悪いが今回は時間がないから俺が倒す」
「えっ? お、おう! わかった!」
あの様子だとよくわかってないだろうな。なんてことを思いつつ、俺は掌を前に突き出し”能力”を発動した。
「邪魔ッ!【雷撃】ッ!」
刹那、青緑色のスパークがバチバチバチッという音を立てながら煌めき、俺の怒りを表すように特大の雷が掌から放たれた。
俺はその状態で腕を横なぎに払う。
すると目の前にいたジャイアントバジリスクとアサシンスネークは塵も残さず消滅した。
「おし、それじゃあ行くか」
「さすがは主様。惚れ惚れする容赦のなさだね」
「まあ、今だけは手加減する自信がないな」
「おお、怖いね。主様だけは敵に回さないようにするよ」
「そうしてくれ。俺は仲間とは戦いたくないからな」
「僕も扇君とは戦いたくないよ! 仲間だからね!」
「そうだな。仲間だから……星野も助けないとな」
俺がそう言うと藤原と一ノ瀬は一瞬だけキョトンとした顔をしていたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「うん!」
「そうだね。必ず助けよう」
「ああ、そうだな。必ず」
俺はそう言って返す。
「それでは、行きましょうか」
アイルのその言葉を合図に、俺たちは転移ポータルへと走り出した。




