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懐かしきかな1階層

 ダンジョンの入り口から中に入ると、何とも言えない懐かしさのようなものを感じた。


 10階層を攻略した後は転移ポータルを使っていたので、こうして1階層に入るのは久しぶりだ。

 と言っても、ここで時間をかけるような事はしない。

 《超高度AI》で完全に記憶した道を最短ルートで進んでいく。


 じっくりと探索しながら進んでもいいが、生憎と《超高度AI》の完全記憶能力のせいですべて覚えているのだ。それも何もかも、鮮明に、細部まで、な。

 新鮮味がない。能力としては超が付くほど便利だが、そこは欠点でもある。

 まあ、完全記憶と言っても俺が《超高度AI》を発動している最中に見たものしか記憶できないんだけどな。

 だがここに最後に来たのはほんの数日前だ。

 それで忘れろという方が無理な話だよな。しかも初めての迷宮だ。より忘れられない。

 この能力……出来れば転生する前に欲しかったな。

 そしたら勉強なんてする必要なかったのにな。

 歩くウィ〇ペディアになれたのにな…………いや、別にこれはならなくてもいいか。

 

 まあ、それは置いといて。出てくる魔物を【火炎弾】で片っ端から瞬殺しながら思ったことが一つ。


「弱いな~、1階層の魔物」


 思いのほか弱かった。

 とは言え、初めてきた時から強いとは思っていなかったが、それにしてもだろう。

 単純に俺が強くなったというのもあるだろうが、戦闘に慣れたって言うのもあるだろうな。

 ただ、少なからず《死霊吸収》で吸収した人の技術が反映されてる気もするんだよな~。そこが少しだけ複雑だ。

 だって《死霊吸収》で吸収できたってことは、その人もう死んでるってことだし。

 死んだ人の魂を吸収した挙句、それを利用してるって言うのは何とも、ね。思うところがあるわけですよ。

 まあ、そんなことをいちいち気にしていたらきりがない世界ではあるんだけどな。

 

 そんなことを考えながら奥へと進んでいく。

 そして僅か35分後。俺たちは10階層ボス部屋の扉の前に到着した。

 

 サクッと倒して自分たちの攻略の続きに行こう。

 俺は能天気にもそんなことを考えていた。


 まさか、あんなことになるとは知らずに――







  健一郎 Side



 最初は偶然だった。

 ボス部屋を少女に占領されて困っていたところに、俺たちのクラスで一番の実力を持つ八重樫扇のパーティーを見かけたのだ。

 恐らくダンジョンに行くところなのだろう。

 聞くところによるとすでに20階層までの攻略が終わっているらしい。

 素直にすごいと思った。

 それと同時に俺の直感が告げた。

 八重樫たちに頼めばあの少女を倒すことができるのではないだろうか、と。

 せっかく他のパーティーと手を組むことでボスを倒せる目処が付いたのだ。俺には少女に邪魔されたからと言う理由で諦めることなどできなかった。

 だから八重樫に頼んだのだが――


「…………ッ!?」


 山田健一郎は目の前に広がる光景を見て絶句していた。


 おいおいおい……ッ、ウソだろッ!?


 それは一方的な虐殺だった。

 次々と出てくる魔物たちはただ一つの例外もなく、八重樫の作り出した炎の玉にその身体を炎に焼かれて絶命していた。

 それも一瞬でだ。

 単体だろうが複数だろうが、そんなことは関係ない。何体来ようとも一瞬で消し炭になっている。


 ”魔法”ではない。恐らくは”能力”だろう。

 だが、それは有り得ないことだった。

 何故なら、生身の人間が”魔法”以外の方法で属性攻撃を行うことはほぼ不可能だからだ。

 そもそも、属性攻撃の”能力”を使えるのならわざわざ”魔法”を覚える必要はない。

 魔法陣の構築、呪文の詠唱など、そんな面倒なプロセスを踏むくらいならば、一瞬で発動できる”能力”を使った方が圧倒的に効率がいいからだ。

 使えるのは魔物か魔族くらいのものだ。

 だが八重樫はどちらでもない。感じる魔力は確かに人間のものだ。


 人間が使える例外としては『生まれつき覚えている』場合だが、それでも異常だった。

 八重樫は序列戦の最中に雷の”能力”を発動している。

 俺は、恐らくそれが生まれつきに覚えている”能力”だと思っていた。

 だが違った。八重樫は複数の属性能力を持っていた。

 一つだけでも異常なのに複数持っている。

 そんなのは前代未聞だ。

 

 俺の背中が冷や汗でびっしょりと濡れる。

 こいつはヤバいッ、俺たちとはレベルが違うッ!

 本能がそう告げる。

 思わず足がすくみそうになったが、ギリギリで持ちこたえて歩く。

 

 怖くないかと言えば嘘になる。

 目の前で圧倒的な力の差を見せつけられたのだ。怖いに決まっている。

 だがそれと同時に頼もしくもあった。

 俺の考えた通り、こいつなら、あの少女を倒せるのではないだろうか。そう思ってしまう。

 期待はどんどん膨れ上がっていった。

 勝手なことだとは思ったが、期待せずにはいられなかったのだ。


 1層、また1層と下に下りていく。その間出てくる魔物はすべて八重樫が対処していた。

 驚くべき魔力量だ。俺ならすでに十数回は魔力切れを起こしているだろう。

 だが驚いたのはそれだけではなかった。

 なんと八重樫はダンジョン内の道すべてを把握していたのだ。

 次の階層に下りるまでの時間でこれが最短ルートだという事がわかる。

 恐ろしい記憶力だ。これも何かの”能力”なのだろうか?


 ここまでくると驚くというより呆れてくる。

 一体他にはどんな”能力”を持っているのだろうか。一部では”権能”まで使えるという噂が流れているが、それは本当なのだろうか?

 気になることが沢山ある。聞きたいことも沢山ある。

 だがなにより強く憧れた。

 先ほど初めて話したばかりなので、一緒にいる時間はほんのわずかなのだが、それでも憧れるには十分だった。

 

 俺はあふれる気持ちを静めながら、八重樫の後ろをついていき、どんどん先へと進んでいく。

 もっと八重樫の戦闘を見てみたい。そう思ったが、そう長くは続かなかった。

 ついにボス部屋の扉の前に到着したのだ。


 悲しいが仕方がない。

 そもそもの目的は『少女を倒すこと』だからな。これは仕方のないことなのだ。

 それに少女と戦っている間の戦闘は見られるかもしれないからな。


 そう思いながら、俺は少女のいる巨大な扉を見つめた。

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