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ダンジョン徘徊中の少女

  26日目  攻略9日目



 それからしばらくたった日の夜、皆が寝静まった頃に俺は起き上がった。


「さてとラプラス、眠たいだろうけどそろそろ行こうか」

《……ん~、ふぁ……わかった~》


 あくびをしながらプカプカと浮き上がり俺の肩に乗っかるラプラス。


「ごめんな、眠いのに無理させて」

《……んーん。きにしなくていいよ~》


 そう言ってぶかぶかの袖を上げるラプラス。

 その姿は大変可愛らしかったが、やはり眠そうだった。

 まあ無理もない。今は大体2時くらいだからな。良い子は寝ている時間だ。


「いつも悪いな。その代わり明日もダンジョン攻略中は起こすまで寝てていいからな」

《……ん、わかったー》

「それじゃあ今日も頼むな」

《……ん、まかせて》

「ああ任せた」


 ホントいい娘だなぁラプラスは。

 俺の”権能”という事が信じられないくらいだ。

 俺はラプラスの頭を撫でながら”能力”を発動する。


「それじゃ行くか。――【空間転移】」


 一瞬で移動してきたのはダンジョン近くの物陰だ。

 その陰で【隠密】を発動させた俺はダンジョン入り口付近の転移ポータルへと向かう。 

 こうしないとダンジョン前に居るギルドの監視員にバレるからな。そうなると少し面倒なことになる。

 何故なら学生は5人1組じゃないとダンジョン内には入ることができないのだ。

 まったく、学園も面倒な規則をつけてくれたものだ。


 そうして監視員の目をかいくぐり転移ポータルの元へとたどり着いた俺はその上に乗る。


「【隠蔽】『10階層』へ」


 強い輝きを発する転移ポータルの光を【隠蔽】で誤魔化しながら、俺はダンジョンの10階層へと転移する。


 ここ最近……と言うかこの町に来てからと言うもの、俺は深夜になるとこうしてダンジョンに潜っている。

 理由としては増えるに増えたステータス確認のためだ。

 はっきり言って真剣に試すことのできない攻略中だけでは終わらないのだ。

 かと言って使いたいときにある程度使えるようになっておかないと困るからな。

 これは大切なことだ。だからこうして一人で忍び込んでいるわけでして。


 あとわざわざダンジョンに潜る理由だが、これにも一応理由がある。

 別に転生した当時のように森の中で実験をすることもできなくはないのだが、それだと音とか自然破壊とかで迷惑がかかりそうだからな。

 その点ダンジョン内ならある程度騒音を出したところで誰にも咎められないし、壁や地面を壊したとしてもしばらくしたら元に戻るからな。最悪【超再生】もあるし。

 と言う理由だ。

 その点で言えばボス部屋の攻略が終わっているのは大きい。

 転移ポータルで一瞬で飛べるし、あの広々としたボス部屋は実験にはもってこいだからな。

 ちなみにダンジョンの攻略は18階層まで終わっている。

 流石に魔物が強くなってきたからな、少しペースは落ちている。

 でもまあまだまだ時間はあるし、無理して攻略を急ぐ必要もないからな。


 そうして俺はダンジョン内に入った。のだが――


「え?」

「ん?」


 そこには一人の少女がいた。

 黒をベースとして紫色で何やらドクロのような絵が描かれた服と太ももの中間ぐらいまでの短パンを着ており、そして黒と紫の縞模様になったニーソを履いている。

 その両手首には手枷の鎖を破壊したような腕輪、両足には足枷の鎖を破壊したような足輪、さらに首には短い鎖の付いた首輪をつけている。

 なかなかファンキーな格好をした黒髪紅眼の少女だ。日本でもあまり見たことがない。


 だが驚くべきはそこではない。驚くべきはその若さだ。

 どう見ても子供。

 その背丈はラプラスよりも高いが、大体小5ぐらいだ。

 この場にいるのが場違いに思えるほど幼い。

 いや、そう言う種族なのかもな。

 小人族とかドワーフとか。


 でも何故だろう。

 何故かものすごい寒気がする。

 ゾクッとして背筋が凍るような寒気だ。

 辺りを探ってみるがこの娘以外には誰もいない。

 となると原因はこの娘か? まだ勘違いと言う可能性もあるが。


 そこで少女と目が合った。


「……」

「……」


 数秒の沈黙。

 だが何故か寒気は弱まっていった。

 しばらくすると少女は口を開いた。

 

「この感じ……あー、なるほどな。テメェがそうか」


 何のことだ? 俺のことを知ってるのか?

 知り合い……じゃないよな。会ったこともないはずだ。

 そもそも俺この世界では知り合いって少ないし、会っていたら……それどころかすれ違ってでもいたら覚えているはずだ。なんて言ったってこの格好だからな。忘れろという方が無理な話だ。


「なにボーとしてんだよ?」

「え? あ、ああ、悪い」

「別にいーぜ。別にテメェは悪ーことなんてしてねーしな」

「そ、そうだな」


 見た目にそぐわず口調が荒いな。

 これがギャップと言うやつか。って、こんなことを考えてる場合じゃないな。

 

 俺は気を取り直して少女に聞いた。


「なあ? もしかしてどこかで会ったことがあるか?」

「どうしたよ急に。ナンパか? 悪ーがあたしはお断りだぜ?」

「ちげぇよ。ただ気になっただけだ」

 

 大体少女をナンパしてどうしろって言うだよ。俺はロリコンじゃない。

 だが断られると割とショックだな。しかもこんな少女に。


「ん~。会ったことはねーよ」

「まあ、そうだろうな」


 やっぱり会ったことないよな。

 でもだとしたらあの意味深な言葉は一体何だったんだ?


「それで、テメェはどーしてこんな時間にダンジョンなんか入ってきたんだよ?」

「いや、それはこっちのセリフなんだが」

「あたしか? あたしは暇だったからだな。ぶらぶらとダンジョン徘徊してたんだよ」


 ダンジョン徘徊。新しい言葉だな。


「あたしは言ったんだ。自分だけ言わねーってのは無しだかんな?」

「ああ、わかってるよ。俺はちょっとした実験だよ」


 隠す必要もないので正直に言う。


「実験? なにすんだよ?」

「おっと、それを聞くのか?」

「別にいーだろ? 聞くぐらい」

「まあ、別に良いんだけどな」

「いいのかよ……」


 お前が聞いてきたんだろ。

 なんだよそのえっマジで?みたいな顔は。


「別に隠してないしな。まあ、ステータスの確認だよ。あと新しく増えた”能力”の実験」

「ふーん。試し打ちってことか。それってあたしも見てていーか? 邪魔はしねーからさ」

「別にいいけど。そんな楽しいものじゃないぞ?」

「別にいーぜ。あたしが見てーだけだかんな」


 そう言って笑う少女。

 別に見ても面白くもなんともないと思うけどな。

 まあ、本人がいいって言うんならいいか。


「それなら好きにすればいいんじゃないか?」

「おう、そーさせてもらうぜ」

「それじゃあ行くか――ってそう言えば名前は?」

「ああ、そー言えばまだだったな。あたしはユリスだ。よろしくな」

「俺は八重樫扇だ。こちらこそよろしく」


 そう言って俺たち二人はボス部屋に向けて足を運んだ。

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