一つ屋根の下
ジャンルをハイファンタジーに変更しました。
「では早速、魔石を抜き取るとしましょう。扇様、剣を抜いてもらってもよろしいでしょうか」
「了ー解」
俺は黄金色に輝く剣を操作して、雷竜の遺体から抜き、ある程度離れた場所まで移動させ土塊へと作り変えた。
練習中に何度となく繰り返してきたのでこの作業も慣れたものだ。
「魔石はほとんどの場合魔物の胸部、人間でいうところの心臓部分に埋まっています」
そう言いながら手刀の要領で雷竜の胸部を真っ二つに切断し、その内部から野球ボールほどの大きさの魔石を抉り出すアイル。
…………何というか、グロいな。
いや剣でめった刺しにした俺が言えたことじゃないけどさ、できれば生き物の断面図なんて見たくなかったよ。グロい。
というか、どうやって手刀で真っ二つにしたんだよ。
オリハルコンですら電磁加速させてやっと刺さるレベルの硬さだぞ。
まあ、貫通させるイメージでやれば貫通できるだろうが。
天使ってみんなこうなのか?
チートだな。
「また、魔石とは全魔物に共通する弱点でもあり、破壊すると魔物は死に至ります」
「へ~」
血の滴る魔石を手に説明してくれるアイル。
無表情なので地味に怖いです。
だが、まあ悪く話ない気がする。
血まみれの美少女ってなんだかヤンデレっぽくない?
なんかこう『これですか? これは不敬にも扇様に手を出そうとした雌犬の成れの果てですね。ご安心ください、これから先扇様に危害を加える者は私が排除いたします。ですから私だけを見てくださいね。私のすべては扇様のものですから』的な感じで。
いや~ヤンデレって最高だね!
なんかこう愛されてるって感じがしてさ!
「扇様?」
「ん? ああ~何でもないよ? 気にしないでくれたまえ」
「? かしこまりました」
血まみれで首をかしげるアイルを見て、それも悪くないな、と思う俺であった。
◆◆◆
それから歩くこと数時間。
日はすでに傾き、辺りはだんだんと薄暗くなってきた。
「今日はここまでにしておきましょう。おそらく明日には王都に到着すると思われます」
「はあぁ~~~~疲れた……っ!」
もう無理、もう動けない。
これ明日絶対筋肉痛だわ、間違いない。
「お疲れ様です、扇様」
疲労困憊な俺に対して、余裕の表情のアイル。
くっ、男として情けないっ!
せめて寝床だけでも俺が作ろう。
創るのは《創造主》の得意分野だし。
俺は《創造主》で辺りをまっ平に作り変え、そこに木造の小さな家を創造した。
内装はリビングと部屋が二つ、あとはトイレとお風呂だ。
最後に光学迷彩を創造して完成。
キャンプ?
はっ、知らんな。
こんな山の中で野宿なんて嫌じゃん?
虫とか虫とか虫とか、あとついでに魔物とか。
いくら異世界でもそれだけは許容できない。
それにお風呂に入りたいし、トイレにも行きたいし、ふかふかのベッドで眠りたいのです。
「扇様、今のは……」
「家だな」
「突如消えたように見えましたが」
「光学迷彩だな」
「……なるほど」
神界には光学迷彩という言葉はないのかもしれない。
無表情だからわかりづらいが少し驚いているようだった。
「さあさあ、早く入りましょう」
俺は家に入るべく見えないドアを掴み開いた。
が、そこでアイルが付いて来ていないことに気が付いた。
「アイル? 何してるんだ? 早く来いよ」
「私も、入ってよろしいのですか……?」
「それはもちろん。というかどこで寝る気だったんだ?」
「それは……私は別に野宿でも――」
野宿するつもりだったらしい。
バカなのかこいつは?
「バカ、こんな山奥に女の子を一人で野宿させられるわけないだろ?」
「私は天使ですので、野宿程度ではどうということはありません」
「どうということがなくてもさ、天使である前に一人の女だろ? 女の子一人で野宿させておいて、自分だけ室内で休むなんて俺にはできない」
「ですが……」
はぁ~頑固だな。
しかたない、できればこの手は使いたくなかったが。
「……アイル。お前は俺のお世話係、そうだな?」
「その通りでございます」
アイルは胸に手を当て頭を垂れた。
改めて聞くとなんだか変な気分になるな。
銀髪ロング無表情の美少女が俺のお世話係。
ふむ、エロいな。
俺も健全な男子高校生だ、どうしてもそういう妄想をしてしまう。
って話がそれたな。
「だったらさ、俺のお世話をしてくれ。その為には家の中に入らないといけないが……まさか、まだ野宿でいいなんて言わないよな?」
「……はい」
こうして、手段は最低だったが、アイルを家の中に入れることに成功した。
「じゃあ俺こっちの部屋使うから、アイルはそっちの部屋を使ってくれ」
「……はい」
「トイレと風呂は奥にあるから」
「……はい」
「ご飯はお風呂に入った後でいいか?」
「……はい」
あれ、もしかして怒らせたかな。
さっきから返事が『……はい』としか返ってこないんだが……って、あれか、男と一つ屋根の下っていうのが嫌だったのか。
そりゃあ嫌だよな、今日初めて会った見ず知らずの男と同じ家で寝るとか。
これって見方を変えると、初めて会った美少女を家に連れ込んでる図、だよな。
……なんだろう、今更ながら犯罪臭が漂ってきたぞ?
ヤバイな、これは早めに今のは嘘だと言っておかなくては。
俺は俯くアイルのほうを向き先の言葉を訂正した。
「あ~アイル? さっき言った俺のお世話をしてくれ、っていうのは嘘だから気にしなくていいぞ。あと、部屋は何も気にせず好きに使っていいから」
「えっ?」
アイルは勢いよく顔を上げ、俺の顔を見た。
その瞳は今までで一番見開かれていた。
「そんな……ご奉仕はよろしいのですか!?」
「……”お世話”を”ご奉仕”と言い換えるなよ、ちょっとしてほしくなるだろうが」
焦った様子で訪ねてくるアイル。
何をそんなに焦っているのかは知らないし聞かないが、ほんと勘弁してほしい。
お世話でも結構ギリギリなのにご奉仕とか言われたら俺の男の部分が反応してしまう。
それともご奉仕と聞いて真っ先にエロいことが頭に浮かぶ俺が悪いのだろうか?
健全な男子高校生なら、お風呂上がりの美少女がタオル一枚だけを身に着けた状態で部屋にきて『扇様、今夜は精一杯ご奉仕させていただきます』なんでシチュエーション、一度は妄想するだろ?
「扇様にご奉仕するようにとアリス様に命を受けておりますので、遠慮は不要です」
「まあ、俺も男だし、してほしいっていう気持ちはあるけどさ、結構あるけどさ! それでも、俺はそれを強制するつもりはない。これから先ずっとな」
「つまり、必要ない……と?」
「そういうことだ。命令とか抜きにして俺のお世話、もといご奉仕がしたいって言うならその時は止めないけどな」
「……承知いたしました」
そう言ってアイルは再び胸に手を当て頭を垂れた。
ブックマーク&評価ありがとうございます!
最近、話が進むの遅くないかな~なんて思ったり思わなかったり。
まぁ気長にお付き合いいただければ幸いです。
これからもよろしくお願いします!