温泉回 前編
その日は7階層まで下りたところで引き返した。
強さ的にはまだまだ余裕があるが、無理は禁物だ。
万が一、なんてことが起こったら元も子もないからな。
ダンジョンから出た時には辺りはすでに真っ暗だった。
夜道に気を付けながら宿へと戻る。
「それじゃあ、各自部屋に戻って準備が整い次第食堂に集合! と言うことで解散!」
そう言って俺たちは各々の部屋に戻る。
俺は自分の部屋に戻ると普通の格好に着替えた。
そして、ベッドに腰掛け、一息つく。
「ふぅ~……。今回の攻略でだいぶ改善点が見えてきたな」
一人そんなことを呟く。
「やっぱり一番の問題は”服”だな」
今日の戦闘結果で十分すぎるほどわかった。
俺の考えていた通り……いや、それ以上に《スライムボディー》と【形状変化】の合わせ技は有能だ。
他の”能力”との相性もいいし、今はまだ腕しか変化させていないが、脚や身体をダークスライムに変えることも可能だ。
何故普通のスライムではなくダークスライムなのかは謎だが、まあ、それはこの際どうでもいい。
それよりも問題は今言った”服”だ。
全身を変化させるとなるとどうしても服が邪魔になる。腕や脚は捲ればある程度は大丈夫だが、胴体はそうはいかない。
お腹の部分なら捲るという手段が使えるが、胸や背中はそうはいかない。
かと言って裸になる訳にもいかないし、変身するするたびに服を破る訳にもいかない。
「さて、どうしたものかな」
俺は考えるのが好きだ。
何かアイディアを思いついたらそれを実行する。
それがうまくいかなかったら、どうすればいいのかを考える。
そして新しいアイディアが出たらそれを実行する。
永遠にこの繰り返しだが、俺は嫌いじゃない。
考えて考えて、それでもうまくいかない。
だからこそ、うまくいったときの喜びと言うのは膨れ上がる。
その喜びを感じることが俺はたまらなく好きなのだ。
これは異世界に来る以前から感じていたことだ。
だから今回も考える。
どうやったら”服”の問題が解決するのか、それを考えるのだ。
だが生憎とこの後は用事がある。
用事と言ってもご飯食べて風呂に入るというだけだが。それでもリーダーが行かないわけにはいかない。
俺はベッドから降り立ち上がると、解決策を考えながら部屋を出た。
◆◆◆
食事を終えた俺たちは大浴場へ向かう。
部屋にも小さい風呂があるが、せっかく温泉があるんだからそっちに入らないと損だ。
普通の風呂になら学園でも入れるからな。
そんなことを考えていると、男湯と女湯に分かれる壁の前まで到着した。
右には青色の暖簾で男(異世界語)と書いてあり、左には赤色の暖簾で女(異世界語)と書いてある。
こう言う所は日本と似てるな。少し懐かしい気分になる。
そう言えば家族は元気かな? 俺って一応妹がいるんだよ。まだ10歳くらいだけどね。いや~可愛かったな~。小っちゃくてお兄ちゃんっ子で。
…………シスコンじゃないからね?
まあ、今はいいや。
とりあえず風呂に入ろう。
「それじゃあまた後で。一ノ瀬、ラプラスは頼んだぞ」
「了解したよ、主様。おいでラプラスちゃん」
ラプラスのことはいつも一ノ瀬に頼んでいる。
と言うか俺と一ノ瀬以外にはラプラスが見えないからな。必然的に一ノ瀬に頼むことになるのだ。
ちなみにアイルと星野、藤原は先に行ってもらっている。この場面を見つかるとまた変に思われるからな。
だが、ラプラスは首を横に振った。
《……きょうはおーぎとはいるー》
「「…………」」
爆弾発言だった。
俺と一ノ瀬はその場に固まる。
いや、まあ、学園にいた頃は一緒に入ってたんだけどね? 流石にいきなり言われると驚く。
だが、驚くで済んだのは俺だけだったようだ。
「主様? もしかしてとは思うけど、まさかこれまでにも一緒に入ったことがあるのかい?」
冷えた目で見つめながら言う一ノ瀬。
俺の頬を嫌な汗が伝う。
「ま、まあ、俺の”権能”だからな。それにまだまだ子どもだし。誰かが一緒に入ってやる必要があるだろ? だから仕方なくだよ、仕方なく。全く全然これっぽっちも邪な感情は抱いていない」
「ふ~ん? まあ、弁明しなくともわかっているけどね」
そう言ってふっと微笑む一ノ瀬。
「一ノ瀬……」
もしかして、分かってくれたのか?
「主様がロリコンと言うことは」
「一ノ瀬? お前は一体何を言っている?」
少し感動した俺の純情返せよ。
その後も一ノ瀬の逆襲は続く。
「どうせ、一緒に入る時は【サイズ】を使っているんだろう? そして膝の上にのせて一緒にお湯に浸かっているんだ。――いかがわしい」
「ちょっと一ノ瀬さん!? いい加減にしないと俺も怒るよ!?」
《……いちのせ、そのはっそうはなかった。ぐっじょぶ! おーぎ! 【サイズ】つかってー》
そう言って両手を広げるラプラス。
「ほら! ラプラスが悪影響受けたじゃん! どうするんだよ!」
「ふむ、どうやら【サイズ】は使っていなかったようだね」
「『ふむ』じゃないから! お前責任とれよ!?」
「責任? それはボクに一緒に入れ、と言う意味かい? ボクとしてはやぶさかではないけれど……流石に他の男子がいる中、一緒に入るのは恥ずかしいな。できれば部屋のお風呂にしてくれ」
「えっ、一緒に入るのオーケーなの? それじゃあまた今度――ってそう言う意味じゃない!」
少しだけ想像してしまった。危ない危ない。危うく俺のゲイ・ボルグが戦闘態勢に入るところだった。
「ふふ、これが『体は正直』というやつなのかな? なかなか興味深いね」
一ノ瀬はそう言ってニヤニヤと笑みを浮かべた。
「くっ」
「そんなに入りたいなら、ボクに”命令”すればいいんじゃないか? 『俺と一緒に風呂に入れ』ってね。主様にはその”権限”があるんだから」
「……そう言えば、そうだったな」
「それで、どうするのかな? 命令する?」
「いや、しないよ。するわけがない」
「そう言うと思ったよ」
そう言うと一ノ瀬はニヤニヤとした笑みをやめ、優しい笑みを浮かべた。
「それじゃあ、ラプラスちゃんをよろしくね」
《……ばいばーい》
そう言いながら手を振るラプラス。一ノ瀬はそれに手を振り返しながら女湯に入っていった。
え? ラプラスと一緒に入ること確定なの?




