実験台は四つ腕のゴリラ
「【超音波】」
俺は一旦手を元の状態に戻し、実験台となる魔物を探すために”能力”を発動した。
瞬間、人間には聞き取れない音が俺を中心として放たれる。
これは自分を中心として超音波を放ち、その反響音を聞き取り物体や生き物の場所を把握することのできる”能力”だ。
まあ、ソナーみたいなものだな。
俺はそれを使い魔物を探す。
目を閉じ、音を聞き取ることだけに集中する。
いた。ここから少し先へ進んだところにある突き当りを左へと曲がったところに腕が四本あるゴリラのような魔物が6体。
「星野、次って誰の番だっけ?」
「誰って、アンタでしょ?」
「そうか。それは好都合だな」
他の誰かだったら代わってもらおうと思っていたが、どうやらその必要はないようだ。
そして、そいつらはついに目の前に現れた。
「ラプラス、鑑定してくれ」
《了解~》
そう返事をしながら、ラプラスは《鑑定》を発動させる。
四つ腕ゴリラの頭上にステータスが表示された。
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アームドコング ?歳 雄 魔物 レベル27
・筋力:3500
・魔力:500
魔法
――――
能力
【剛腕】【剛撃】【威圧】【咆哮】【再生】【武装】
権能
――――
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こいつ、筋力だけならスライムキングなみだな。
”能力”構成から考えても完全な脳筋タイプ。実験体にするにはちょうどいい相手だな。
「さてと、それじゃあ少し実験に付き合ってくれ。《スライムボディー》、【形状変化】、【超硬化】」
俺は”権能”と”能力”を発動する。
すると、両腕が真っ黒に染まり、ダークスライムの肉体へと変化した。
腕を振ったり指を動かしたりしながら調子を確かめる。
そんなことをしていると、アームドコング達は戦闘態勢へと入った。
恐らく【武装】を発動したのだろう。その四つ腕は光の粒に包まれ、次の瞬間ガントレットのようなものを形成する。
『ほおおおぉぉぉおあああああ』
アームドコング達は咆哮を上げながらものすごい速度で接近してくる。
流石に6体のデカいゴリラに迫られるのは、普通に恐怖だな。
俺はそんなことを考えながら右手の形を変える。
「まずは、ハンマーなんてどうだ?」
俺は一瞬で巨大なハンマーへと姿を変えた腕で、先頭を走るアームドコングをフルスイングして殴り飛ばした。
アームドコングはとっさにガントレットを装備した四つ腕をクロスさせて防御態勢をとるが、俺の腕はあっさりとそのガードを突き破り、ぶっ飛ばした。
『~~~~!?』
ドゴォオオオオオォン!!
勢いよくぶっ飛んだアームドコングは声にならない悲鳴を上げながらダンジョンの壁に激突した。
それと同時に肩に痛みが走る。
「痛っ……てぇ……あ~そうか。そのための【衝撃吸収】なのか」
俺は肩に【完全回復】をかけ、【衝撃吸収】を発動する。
もっと早く気が付くべきだった。
そりゃあ、あんだけデカいゴリラをフルスイングしたんだから、身体に衝撃が来るのは当然だ。
「次からはもっと慎重に試すか。……で? お前らは来ないのか?」
先頭を走っていた仲間が壁まで殴り飛ばされるという衝撃的な場面を見ていた残り5体のアームドコング達はその場で固まっていた。
まあ、再起動を待ってやる義理もないか。
俺は【縮地】を発動し、固まっているアームドコングの元へと移動する。
「次は大剣! そして【切断】!」
俺はハンマーだった腕の形状を大剣へと変え、さらに【切断】で鋭さと貫通性能を上昇させる。
結果、反応しきれていなかったアームドコングはあっさりとその胴体を切断された。
残り4体。
その光景を見てようやく我に返ったアームドコングは怒りの感情をにじませた目で俺をにらみつけ、次の瞬間、その拳を振り上げながら殴りかかってきた。
俺は左腕と右手の大剣をそれぞれ大盾に変えて、その攻撃を受け止める。
それと同時に大盾をランスへと変え、長さを伸ばして2体のアームドコングの胸を貫いた。
が、とどめを刺すには至らなかったようで、胸を貫かれたアームドコングはその四つ腕でランスを掴んで固定してしまった。
その隙に残りの2体が襲い掛かってくる。ランスを掴んでいる2体がニヤリと笑った気がした。
なるほど。そう言う作戦だったわけか。こいつら意外と賢いのかもしれないな。
そんな事を考えつつ、俺は【分裂】を発動させ手首から先のランスを切り離す。
そしてアームドコングの攻撃をバックステップで避けつつ、切り離したランスの形をウニのような形状へと変えて内側から突き刺す。
これで残りは俺に迫ってきている2体だけだ。
ちょうどいい数になったな。これで試したかった組み合わせができる。
俺はニヤリと笑いながら、手首から先が無くなった腕に【超再生】をかけ、元の形状に戻す。
これにより、【分裂】で切り離した身体は消えるが、代わりに切り離した部分は元に戻り、わざわざ回収する手間が省ける。
俺は右手の五指の第一関節から先を、鋭く、獲物を切り裂く刃のような形状へと変えた。
そして”能力”を発動させながら、横薙ぎに右腕を振るう。
「【超硬化】【切断】【斬撃】!」
すると正面に五本の斬撃が放たれる。
2体のアームドコングはその斬撃を受け、バラバラになり崩れ落ちる。
どうやら実験は成功したらしい。
そう。俺が試してみたかったことは【斬撃】だ。
斬撃の弱点は一度の振りに付き一つの斬撃しか飛ばないことだ。同時に数本の斬撃を飛ばすには一瞬の間に数回、剣を振るう必要がある。
だがそれでは手間がかかる。
ならばどうするか? そんなものは簡単だ。
一度に数本の剣を振るえばいい。
それでも、特殊な形状の剣でもない限り、両手で二本しか振るえない。
そこで俺は考えた《スライムボディー》と【形状変化】を使って数本の剣を形作ればいいのではないか?と。
そしてその実験は成功した。
五指を刃に変える、と言う方法で。
結果は上々。これで【斬撃】の弱点は無くなり、同時に数本の斬撃を飛ばすことが可能となった。
これは結構強いのではないだろうか。
刃の数を増やせば、それこそ何百何千と言う斬撃を当時に放つことも可能になるのだから。
俺は実験が成功したことをうれしく思いながら、アームドコングの死体から魔石を抜き取りアイルたちの元へと戻る。
「お待たせ。それじゃあ、先に進もうか」
俺がそう言って歩きだそうとすると、星野がそれを止めた。
「いやいやいや、何先に進もうとしてるのよ!? 今の何!? アンタ本当に人間じゃなかったの!?」
「本当にってなんだ、失礼な! 俺は人間だ!」
「でも、腕の形が変わってたじゃない! 普通人間の腕はハンマーになったりしないわよ!」
「それは…………まあ、確かにそうだが、俺はれっきとした人間だよ」
俺がそう言うと、アイルが口を開いた。
「扇様、もしやとは思いますが、今のはスライムキングの”能力”でしょうか?」
「おお、御明察だアイル。よくわかったな?」
「はい、スライムキングが自らの肉体を大鎌へと変えた時と似ていましたので」
「さすがだな」
「そう言ってもらえ、恐悦至極にございます」
そう言ってアイルは恭しく頭を下げた。
それを聞いていた星野が気がついたように聞いてきた。
「アンタってスライムキングだったの?」
「違う、どうしてそうなった」
「だったら何なのよ?」
一瞬、《死霊吸収》に気が付いたかと思ったが、どうやら星野のことを過大評価しすぎたようだ。
まあ、藤原も気付いてないと思うけど。
俺は一ノ瀬の方をチラッと見る。
すると一ノ瀬はやれや肩をすくめた。どうやらわかっているらしい。
まあ、一ノ瀬は俺の《死霊吸収》のことを知ってるからな。わかったとしても何ら不思議はないが。
そんな事よりも今はどうやって星野と藤原に説明するかだな。
あまり詳しい説明はできないし、適当に誤魔化して――
そこまで考えて俺は気が付いた。
これって別に説明する必要なくない?
ステータスとはその人の生命線だ。それをわざわざ教える必要があるだろうか?
そう思った俺は適当に流すことにした。
「まあ、それは秘密だ」
「えぇ、何よそれ!?」
「教えてくれないの!?」
納得のいかないような表情をする星野と、残念そうな表情をする藤原。
だが、それ以上追及されることはなかった。




