エンカウント
王都へと向かう道中、俺は考えていた。
俺の知識をフル活用すればアイテムチートでやっていけるのではないか、と。
異世界転生、もしくは転移もののラノベなんかではよくあった、現代兵器を自作して無双するというスタイル。
俺にはこれができるのではなかろうか。
現代兵器だけでなく、神話の世界に出てくるような武具やSFでしか見ないような武器さえも作れるはずだ。
《創造主》の説明にも『自分の知識にないもの、この世に存在しないものでも創造可能』と書いてあったことから間違いないだろう。
だがその前にある程度自然にイメージできるようになっておく必要がある。
この世界は完全な実力至上主義ということだったはずだ。
いくら《創造主》がチートだからと言って、敵の戦っている最中に目をつぶってイメージなんてことができるはずもない。
というわけで練習です。
自然と創造できるようにただひたすらに”創造”を繰り返す。
慣れてくれば剣一本を創造するのに一秒とかからない。
それどころか十数本までなら同時に創造できるようになっていた。
まだ形状の単純な武器限定ではあるものの初日にしては大きな進歩だ。
それから、気が付いたことがある。
それは、創造したモノは自分の手で扱う必要はない、ということ。
つまりサイコキネシスのように宙に浮かせて自由自在に操作することができるのだ。
某アニメに登場する英霊さながらに、空中に創造した武器を弾丸のごとく打ち込むことも可能なのである。
できれば実戦も経験しておきたかったが、何故か魔物が一匹も出てこない。
それどころか小動物すらも見当たらないのだ。
「恐らく、この辺りを縄張りにしている魔物がいるのでしょう」
とのことだった。
そんなところだろうなぁとは思っていたので大して驚きはしなかったが。
まぁここまで一匹も魔物と出会ってないんだ、この後も大丈夫だろう。
あれ? これってフラグかな?
いきなり化け物級の魔物が出てきたりして。
でも、魔石は必要だし魔物にも会ってみたいから別にいいか、はっはっは。
そんな能天気なことを考えていた矢先、奴は現れた。
『グルァアアアアアァッッ!!』
とてつもない音量の咆哮が大気を震わせる。
爬虫類のような縦切れの瞳に真っ黒な鱗に覆われた巨大な身体。
その背中には一対の翼がはためき、近づく者すべてを拒むがごとき覇気をまとっていた。
「……ドラゴン?」
その見た目はファンタジー世界の代名詞ともいえるドラゴンそのものだった。
「ようやく一匹目ですね。それにしても初日にして初めての魔物とのエンカウントが雷竜とは。扇様は強運の持ち主ですね」
「強運? ……いや悪運の間違いだろ」
「そうでしょうか。私はそうは思いませんが」
「まあ、お前天使だもんな」
「私が殺りましょうか?」
「……いや、俺が殺る」
「かしこまりました。お気をつけて」
そう言って俺はドラゴンと対峙した。
こうして正面に立つと圧がすごいな、ものすごく怖いよ。
大体、初戦の相手がドラゴンとか、クソゲーにもほどがある。
だが、この世界にきて一番胸が高鳴っている。
怖いし、正直ちびりそうだが、それ以上にワクワクする!
「さて、何故か今まで攻撃もせずに待っててくれたみたいだが、精々頑張って俺の経験値になってくれ」
『グルアァアアアアアアッッ!!』
その咆哮が戦闘開始の合図となった。
『ガァッッ!!』
「っ!……いきなりかよ!」
雷竜の口から閃光が煌めき雷撃が放たれた。
俺はとっさに真横へと飛び退き回避する。
一瞬前まで俺が立っていた場所はその一撃で灰燼と化していた。
俺はそれを見て絶句し、血の気が引くような感覚に陥る。
飛ぶのが一歩遅れていたら死んでいただろう。
「マジかよ……」
『ガァッッ!!』
続いてニ撃目の雷撃が放たれる。
だが、俺も逃げてばかりでない。
雷竜と聞いた時からイメージしていた武器を創造するとしよう。
「《創造主》ッ!【雷槍】ッ!」
俺はイメージを強くするために声に出した。
そして創造した槍を俺から離れた位置へと飛ばし、空中で静止させる。
すると、雷撃はまるで吸い込まれるかのように【雷槍】へと向きを変え、その槍に触れると同時に反転、雷竜へと牙をむいた。
『ガァアアッ!?』
自分の雷撃の直撃を受けた雷竜から驚くような叫び声が上がる。
雷竜だけに雷はあまり効果がないようだが、これで雷撃は封じた。
俺はニヤリと笑う。
【雷槍】は”避雷針”と”雷反射”の二つの能力を併せ持つ、雷使うやつには取り敢えずコレだしときゃ勝てる、とまで言われた槍だ。
ゲーム内での話だが。
ただ、雷撃は反射しても大したダメージにはならないっぽいな。
まあ、雷竜っていうくらいだし。
当然と言えば当然か。
だがそうなると、もっと別の武器を創り出す必要があるな。
俺は、振り下ろされた雷竜の尾を創造したサーフボードのような板に乗り、よけながら、次のイメージを固めていた。
必要なのは硬さと速さだ。
それ以外に特殊能力は必要ない。
ただただ大量に創造し、それを全方向から弾丸のごとく打ち込む。
ただそれだけでいい。
俺は雷竜の攻撃をよけながら、次々と剣を創造していった。
ただの剣ではない、その素材はこの世で最も固い金属と言われるオリハルコンだ。
カッコいいからという理由で創造の練習をしていた甲斐があった。
数百もの黄金色に輝く剣を創造し終えるのと同時に、次のイメージに移行する。
イメージは超電磁砲だ。
剣を電磁加速させて超高速で打ち込む、そのイメージだ。
例え雷が効かないとしても物理攻撃である剣は別だろう。
さあ準備は整った。俺のターンだっ!
「【ソード・レイン】ッ!」
そう叫ぶのと同時に雷竜の周りで浮遊していた剣が一斉に電気を纏い、超加速され打ち出された。
翼の膜を突き破り、腕、胴体、頭部、脚、尾、と次々と突き刺さっていく。
『グッ、ガアァアア…………』
すべての剣が深々と突き刺さった雷竜は、苦悶の声を上げながら地に付した。
念のためもう十本ほど頭部に打ち込んでおく。
「……やったか?」
お約束のセリフを呟いてみても反応は返ってこない。
どうやら完全に死んだようだ。
初戦にしては上出来だろう。
あとは今のを一瞬でできるようになるまで練習だな。
「パチパチパチ……」
そんなことを考えているとアイルが拍手をしながら近づいてきた。
「お見事です。最後の攻撃は完全にオーバーキルでしたが」
「あ~うん、それは俺も思った。でもまあ念には念をってことで」
「そう言うことにしておきます」
俺は針山のようになっている雷竜の死体をみて、はははっ、と苦笑いを浮かべた。
今回の話は初めての戦闘シーンでした。書いてみると意外と楽しいですね。
読みずらい部分や意味の分からない部分などがあったかもしれませんが、読者の皆さんに満足してもらえるようこれからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!