新人歓迎イベント(?)、再び
朝食を食べ終えた後、俺は制服に着替えた。
今日は休日なので学校は休みだが、他に用事があるのだ。
「集合って寮の入り口のところで良いんだっけ?」
「はい、間違いありません」
「おし、それじゃあ出るか」
「そうですね」
「? もう出るのかい? 少し早すぎる気がするけど」
部屋に掛けてある時計を見た一ノ瀬が聞いてきた。
「こんなもんだろ? と言うかあいつ等ならまず間違いなく早めに来るよ」
あいつら意外と行動速いからな。ほぼ確実にいるよ。
「そうか、なら大丈夫だね」
「ま、来てなかったとしても少し待てばいいだけだからな。待たせるよりはいいだろ」
「それもそうだね」
そう言いながら頷く一ノ瀬。
どうやら納得してくれたらしい。
「よし、それじゃ行くか」
「はい」
「了解だよ」
《……しゅっぱーつ》
最後のラプラス(手のひらサイズ)の掛け声とともに俺たちは部屋を出た。
階段を下りて寮のロビーへと入る。すると二人の生徒が椅子に座って待っていた。
俺はその二人に声をかける。
「やっぱり来てたな。お待たせ、待たせたか?」
「ううん! 今来たところ!」
「やっぱりって、わかってるならもっと早く来てよ」
そう言ってきたのは藤原と星野だ。
藤原はぶんぶんと手を振っていて、自分たちの居場所をこれでもかと言うほど主張している。星野は何やら不機嫌そうだ。
俺は星野に返す。
「これでも早く出てたんだぞ? お前たちが早すぎるだけだ」
「ま、それは否定しないけどね」
しないのかよ。
「次からはもっと早く来てよ?」
「はいはい」
俺は一応メンバー確認をする。
俺、アイル、星野、藤原、一ノ瀬、(+ラプラス)。どうやら全員いるようだ。
「よし、全員いるな。それじゃ行くか、冒険者ギルド」
そう言って俺たちは歩き始めた。
「その後ってお買い物だよね!? 楽しみだな~!」
「そうだな。まあ、買い物って言っても、ダンジョン用の道具を買うだけだけどな」
そう、今回の用事は来週のダンジョン関連だ。冒険者ギルドに行ってギルドカードを作り、その後はダンジョン攻略に必要なものを買い揃える。と言う流れだ。その後は特に決めていないが、藤原のあの様子を見るに普通に遊びそうだな。
まあ、一応アイルに弁当を用意してもらった(今朝のアイルがいつも以上に忙しそうだったのはそのため)から準備は万全だけどな。いざとなればどこかの店に入ればいいだけだし。
そんなことを考えていると、
「アンタやけにテンションが低いわね」
俺の顔を覗き込みながら星野がそんなことを言った。
「そうか? いつも通りだろ?」
「そう? どこか声に元気がないような気がするんだけど?」
星野にそう言われて俺は少しだけ考える。
ん~、これと言って特に何もない気がするんだか……………………あ、あ~そう言えばあったわ。一つだけ。いや一人か?
「……冒険者ギルドのギルドマスターといろいろあったんだよ」
俺は思い至ったことを口にした。
「へ~、それって編入する前の話?」
「前……と言うか直前だな」
王都を観光した日だから、編入の一日前か。そう考えるとマジで直前だな。
あそこでユリウスに会ってなかったら、今頃《創造主》なんてみんなにバレてただろうな。あいつに会ったおかげでこの”神の権能”が特殊過ぎるってわかったんだし。そういう意味では一応感謝しないといけないのかもな。
素直に感謝する気にはなれないが。
それとこれとは話が別だ。あいつには感謝したくないという気持ちがどうしても勝ってしまう。
そんな気持ちを抱えつつ、俺は冒険者ギルドへと向かった。
今回は何事もなく済みますように、と願いながら。
しばらく歩いていると、冒険者ギルドが見えてきた。
相変わらず装飾の一つもない建物だ。
「ここが冒険者ギルドか~! 僕初めてきたよ!」
ギルドに付くと目を輝かせた藤原がそんなことを言った。
「そうなのか?」
「うん! なかなか機会がなかったから! こうして見れただけでも感激だよ!」
「そ、そうか。それは、よかったな」
「うん!」
俺も初めてギルドに来たときはこんな反応だったのだろうか? 少なくとも、テンションが上がっていたのは確かだな。
だって冒険者ギルドだよ? 異世界転生もののラノベは必ずと言っていいほど出てくる冒険者ギルドだよ? それを舞台としたラノベがあるくらいメジャーな建物だよ? 興奮するなと言う方が無理だろう。
「ねえねえ! 僕が開けてもいい!?」
「ん? 別にいいんじゃないか?」
「やった! ありがとう!」
そう言いながらドアを開ける藤原。他のメンバーもそれに続く。
素直にありがとうと言えるのは藤原の美点だと思う。
そんなことを思いながらギルドの中に入ると、周りの冒険者の視線が一気に集まった。
コソコソと何かを話し合いながらこちらを見ている。中には見覚えのある顔もいくつかあるな。まだ二週間ほどしかたってないのに、随分と懐かしく感じる。
そんな中、5人組のパーティーががたっと立ち上がった。
その仄かに赤く染まっている顔から推測するに恐らくお酒が入っているのだろう。
「子供が、こんなところに何の様かなぁあ?」
「ここはまだ早いでちゅよ~」
「はははっ、その通りだな」
「ちげぇねぇ」
「にしても美少女がそろったパーティーだな、オイ」
冒険者の一人が女性陣を嘗め回すような目で見つめた。
身の危険を感じた三人が俺の後ろにサッと隠れる。
あれ? もしかしてこれって俺が目を付けられるやつなんじゃ?
「おいあんちゃん、そっちの女たちはアンタの連れか? だったらちょっと貸してくれよ。すぐ返すからさ! いいだろ?」
嘗め回すような目で見ていた冒険者がそんなことを言ってくる。バカだろこいつ。
「これが、噂に聞く、テンプレイベントってやつだね!」
隣にいる全く危機感を覚えていない藤原がそんなことを言った。
いや、うん。間違ってはないんだけどね? 今言うことじゃないよ。と言うかテンプレなんて言葉がこの世界にもあるのか。驚きだな。
すると、それをバカにされたと感じたのか、さっきの男がずいっと前に出た。そして俺の胸ぐらをつかみ上げる。なんで俺? さっき言ったの藤原だよね? やるならそっちに行けよ。
「いいだろ、って聞いてんだろが!」
そのまま怒鳴りつける冒険者。おい、ギルドマスター。ここの教育はどうなっている。
こんなイベントが毎回起きてたまるか。このイベントが楽しいのは初回限定だ!
そんなことを考えていると他の冒険者も話に混ざってきた。
「おいおい、そう言うことなら俺にはそっちの黒髪の巨乳ちゃんをくれよぉ。すげぇタイプなんだわ」
「おっ、いいね~、この中じゃいちばん大人っぽいしなぁ」
「それじゃあ俺はそこの茶髪の子がいいな。気の強そうなところが好みだ」
「俺もその子かなぁ、調教してやりたくなる」
うちの女性陣がこれでもかと言うほど引いている。その目はすでにGを見る目と大差がないように思える。まあ、気持ちは分からなくもない。これは男の俺でも気持ち悪いからな。当人たちからしたらたまったものではないだろう。
俺は胸ぐらをつかまれたままの状態でそんなことを思った。
掴んでいる男も物色し始める。そして、一人の女の子を見て視線が止まった。そのままニタァ、としたいやらしい表情を浮かべる。
そして、
「俺はそっちの銀髪の娘をもらおうか。大丈夫だって。言っただろ? すぐ返すって。多少壊れてるかもしれないが、いいよな?」
こいつは俺の禁忌に触れた。ブチッと何かが切れる音が聞こえる。
おい、こいつ今なんて言った? アイルを壊す? 良いわけ無いだろ。
そう思うと共に、俺は男の腕をつかんでいた。そして”能力”を発動させる。
男が首を傾げる。
「あ? なんのつもり――」
「――【おい、少し黙れよ】」
「んぐっ!?」
男はわけがわからないといった様子で口をつぐんだ。”能力”【催眠】の効果だ。
その様子を見ていた他の冒険者が不審そうな目を向ける。
だが、そんなことは知ったことではない。こいつらは言ってはいけないことを言った。それが問題だ。
「おい、いつまで俺の服を掴んでいる? 【さっさと放せ】」
「!?」
俺がそう言うと男はすぐに手を離した。そこで新たに【威圧】を発動させる。
すると次の瞬間、濁流のごとき濃密な殺気が冒険者たちを襲った。脅えた様子で床に尻をついた。酔いは一気にさめたらしい。その表情はさっきとは打って変わって青ざめていた。
「お前、アイルに手を出す気か? だとしたら、俺も遠慮はしないぞ? 他の二人に手を出した場合も同じくだ」
俺がそう言うと男たちはぶんぶんと首を縦に振った。分かればいいんだよ、分かれば。
俺はそっと【威圧】を解除した。すると濃密な殺気が治まった。
「アンタ、容赦ないわね」
「さすがは主様。ボクを惚れさせるきかい?」
「お見事です扇様」
俺の後ろにいた三人が声をかけてくる。何ともなさそうで何よりだ。
さて、と。……………………どうしようか? この状況……




