ラプラスが癒しキャラなだけ
16日目
《……おーぎおーぎ、おきてー》
「……んっ、ん~…………ふぁ~あ」
耳元から聞こえてきたそんな声に起こされた俺は、とりあえず挨拶をする。
「おはようラプラス」
《……おはよー》
ぶかぶかのYシャツを着たラプラスが右手を上げながら挨拶を返してくる。その姿に思わず和んだ。なんだこの可愛い生き物は。
俺は別にロリコンと言う訳ではない。断じて違う。違うのだ。
これはそう、父親がまだまだ幼い娘に対して思っている気持と同じに違いない。
俺は父親になったことがないからあまりどうこうとは言えないが、きっとこんな感じだと思う。
恋愛感情やいかがわしいものでは決してないのだ。さすがに見た目6歳の女の子に邪な感情を抱いたりはしないって。ほんとだよ?
俺、ロリコン、違う。
俺が一人誰かに言い訳していると、それを不思議に思ったのであろうラプラスが首を傾げた。
《……どうしたの?》
「ん? 大丈夫だから気にしなくていいよ」
《……ん~》
そう言いながら頭を撫でてやるとラプラスは気持ちよさそうに目を細めた。はぁ、癒させるわ~。
ラプラスの可愛さに癒されながら、俺は気になっていることを聞いた。
「そう言えばアイルは? いつもならすぐ近くにいるのに」
《……だいどころにいるよ~。ごはんつくってる》
「あ~そういうこと」
家のご飯はすべてアイルに一任している。たまには忙しい時もあるだろう。
そう思いながら俺はラプラスを肩に乗せ、ベッドから降りた。
ちなみに、この俺の部屋だが、編入当初に比べかなり広くなっている。部屋がいくつか増えた。恐らくは俺の序列が上がったからだと思う。なんだかんだ言っても序列10位だからな。結構待遇はいい方だ。
星野たち曰く、いずれ『生徒会』と『風紀委員会』に勧誘させるらしいけど、今のところ誰も接触してこない。まあ、気にしても仕方がないのでまだしばらくはいいだろう。どうせ来週からダンジョンだし。
俺がそんなことを考えていると、ラプラスが話しかけてきた。
《……それとねー、おきゃくさまー》
「客?」
《……うん!》
誰だろ。藤原か?
そんなことを考えながら俺はリビングへと足を向けた。
◆◆◆
「扇様、おはようございます。すぐに出来上がりますので、今しばらくお待ちください」
エプロン姿のアイルがそう言いながらこちらを振り返った。
「おはよう。いつも悪いな。無理はするなよ?」
「かしこまりました」
そう言って、俺がいつも座っている席へと向かう。すると、そいつはそこにいた。
「おや、御目覚めの様だね。お邪魔しているよ」
「……何してるんだ? 一ノ瀬」
そう、そこにいたのは一ノ瀬唯だった。ラプラスの言っていたお客様で間違いないだろう。
俺の質問に対し一ノ瀬は簡潔に返した。
「朝食をご馳走になろうと思ってね」
「朝食? ……まあ、アイルがいいって言うならいいんじゃないか? 作るの俺じゃないし」
「それなら問題はないね。許可はさっきとったから」
「手が早いな、オイ……」
俺がそう返すと、一ノ瀬は苦笑いしながら答えた。
「ぶっちゃけると、金欠なのだよ」
「ホントにぶっちゃけたな……。あ~でもそうか。おまえ、序列500番台だもんな」
「そうなんだよ。あまり待遇もよくなくてね。しまいにはイジメられる始末さ。ははは」
「いや、笑えないからな? ていうかそう言うことなら適当な相手に序列戦申し込めばいいんじゃないか? 今のおまえなら勝てるだろ。自慢じゃないけど俺の”能力”って結構強いぞ?」
「それはもちろんわかっているさ。でも、ここであまり目立ち過ぎると後々面倒になりそうでね」
「まあ、俺と同じ”能力”だもんな。そりゃあ目立つよ」
俺は少し納得しながら《創造主》で麦茶の注がれたコップを二人分創造し、一つを俺の前に、もう一つを一ノ瀬の前に置いた。そして、コップのお茶を一口飲む。
それを見ていた一ノ瀬があきれた様子で口を開いた。
「本当に便利な”権能”だね、《創造主》と言うのは。そんなこともできるのか」
「まあな。いつもはアイルに入れてもらうんだが、今は忙しそうだしな」
そう言いながらアイルの方を見ると、エプロン姿で朝食を作っていた。何というか、新妻って感じだ。
ちなみに一ノ瀬には俺の三つの”権能”のことは話している。と言うか話さないと説明できないことが多過ぎたんだ。
一ノ瀬の傷を治すのには《創造主》を使う必要があったし、ラプラスが見える以上《超高度AI》の説明も必須。《死霊吸収》に至っては一ノ瀬の”能力”の都合上、話さないとパニックになるだろう。すべて仕方なかったのだ。
星野と藤原はなんとなく”権能”を持ってるってことしか知らない。
「でも、便利になったこともたくさんあるんだ」
俺の創造したお茶を飲みながら一ノ瀬がそんなことを言い出した。
「便利?」
「うん、何と言っても『生活魔法』が使えるようになったのが大きい。それに魔力にも余裕ができた」
「確かにそれは大きいな」
「だろう?」
確かに家電製品がないこの世界では『生活魔法』は必須だ。魔道具のようなものはあるが、その他はほとんどすべて自分の”魔法”を使う必要がある。特に洗濯は『生活魔法』無しではつらいだろう。『洗浄』と『乾燥』ってホント便利だからな。
そして、魔道具も”魔法”も魔力を注がないと働かない。【主従契約】で魔力にマイナス補正がかかっていた時はろくに使えなかっただろう。
そう考えると、確かにいろいろと便利になったのか。
ちなみに、俺の部屋の台所には俺の創った家電製品(魔力で動くよう改良済み)を完備している。その他に、洗濯機などもある。
だってこの世界の魔道具より、日本の製品の方が効率がいいじゃん? 使いやすいしさ。
そんなことを考えていると、台所からアイルが朝食を運んできた。
「お待たせいたしました、扇様、唯さん」
そうして運ばれてきたのはご飯にさんまの塩焼き、お味噌汁という和風な献立だった。
俺は全員が席に着いたのを見て手を合わせる。
「それじゃあ、いただき――――」
《……おーぎ、わたしもたべたい》
「え? ちゃんとあげるよ?」
《……いすにすわってたべたい》
「椅子? 小さいの創ろうか?」
そう聞くとラプラスは首を横に振った。
つまり、みんなと一緒にして食べたいってことか? 困ったな……。いっそのこと俺たちが小さくなるか? 【サイズ】を使えばそれも可能――――……ってそうじゃん! 【サイズ】があった!
俺はラプラスを肩から床に降ろす。ラプラスは何をするのかと首を傾げていた。
「よし、お前の要望に応えようじゃないか、ラプラス」
《……できるの?》
「多分な。じゃあ行くぞ? 【サイズ】」
俺が”能力”を発動させると、ラプラスはみるみる大きくなり、人間の女の子(見た目6歳)と同じほどの大きさに成長した。背丈は俺の腰くらいの高さだ。
それを見ていたラプラスが驚いたような顔をする。
《……おおきくなった?》
「なったぞ。鏡見るか?」
そう言って姿見を創造する。
《…………ほんとうにおおきくなってる》
その言葉を確かめるようにラプラスは姿見の前でくるりと回った。
う~ん、裸Yシャツ姿で回るのはどうかと思うよ?
俺は思わず視線を外した。そして一ノ瀬と目があう。
「ここにロリコンの変態がいるよ」
「一ノ瀬? 少し黙ろうか?」
俺はあまり気にしないようにして、ラプラス用の椅子を創った。朝食は俺のを分ければいいだろう。
《……ありがとう、おーぎ!》
「気にするなよ。それじゃあ改めて、いただきます」
「「いただきます」」
《……いただきます!》
そうして俺たちは朝食を食べ始めた。
余談ではあるが、アイルにはラプラスの姿が見えていないので扇が一人で芝居をしているようにしか見えない。だが、それが解決するのはもうしばらく先のことだ。




