顔合わせ
15日目
午前中の授業を乗り越え昼休みに突入した。
「屋上行くわよ、八重樫」
「お腹すいた~」
「扇様、今日のお弁当でございます」
「おっ、ありがとアイル。ただちょ~っとだけ遅れるから、屋上には先に行っててくれ」
俺がアイルの作ったお弁当を受け取りながらそう言うと、三人は首を傾げた。
「何か用事?」
星野が代表でそんなことを聞いてくる。
「まあな。すぐに済むよ」
「そ、わかった。それじゃあさっさと終わらせて来なさいよ」
「おう」
そう言いながら三人は教室を出ていった。
それじゃ俺も用事を済ませるとしますか。
俺は人を探して辺りを見渡す。すると思いのほか速く見つかった。
近づき声をかける。
「一ノ瀬さん、ちょっといいか?」
俺が一ノ瀬さんに話しかけたことが意外だったのか、教室に残っていたクラスの連中がざわつく。
「おいアイツ、一ノ瀬に話しかけたぞ」「マジかよ、どういうつもりだ?」「まさか次のハーレム候補か!?」「一ノ瀬? 趣味悪すぎ」「でもアイツ胸だけはデカいからな。誑し込まれたんじゃね?」「有り得るわ~」
なんて言葉が聞こえてくる。
ただクラスメイトに話しかけただけなのにな。まあ、俺はいつもアイルと一緒にいるからこういう反応には慣れてる。軽くスルーだ。
「? 誰かと思えば主様じゃないか。どうしたんだい? ボクに話しかけるだなんて珍しいね」
椅子に座ったまま振り返った一ノ瀬さんが茶化すように言ってくる。一ノ瀬さんもまったく気にしてない様子だ。
「昨日言っておいただろ? 今日の昼休みに顔合わせするって」
「ああ、そうだったね」
そう、昨日のうちに俺のパーティーに勧誘しておいたのだ。返事は一発OK。他に当てもなかったのでちょうどよかった。
この様子だと忘れてたみたいだが。
「それじゃあ行こうか。とはいっても屋上は初めてだからね。主様、案内をお願いできるかな?」
「おう、任せとけ」
そう言って俺たちは教室から出た。
屋上へと続く廊下を歩いていく。今日は道順を覚えてもらうために【空間転移】は使わない。
その代わり雑談がものすごい増えたが、たまにはこれもいいと思った。
「そう言えば、本当にボクが入ってもよかったのかい?」
屋上にもう少しで到着するという時、一ノ瀬さんがそんなことを聞いてきた。間違いなくパーティーの話だろう。
「別にいいんじゃないか? あいつらも代表者に一任するって言ってたし。文句はないだろ」
「そうかな」
「そうだろ。まあ、もしも大丈夫なのか聞かれたときは軽くデモンストレーションしてやればいいよ」
「【雷撃】でも放てばいいのかな?」
「それは自分で考えておいてくれ。いざとなれば俺も協力する」
「そう言うことなら了解だよ」
話が一区切りついた時、目の前に屋上への扉が現れた。
「到着。これから顔合わせだけど準備はいいか?」
「大丈夫。問題ないよ」
それを聞いた俺は小さく頷き、扉を開けた。
「あっ、扇君! こっちこっち~!」
藤原の元気のいい声が聞こえてきた。
眼を向けるといつもの場所に藤原達三人が座っていた。
「おう、お待たせ」
俺はそこに軽く返事をしながら合流する。
「お待ちしておりました、扇様」
「やっと来たわね。用事っていったい何だったのよ?」
「それはすぐにわかるよ。とりあえず紹介したい人がいるんだ」
「だれだれ!?」
「紹介? 彼女とか?」
「か、彼女……ですか?」
星野の言葉にアイルがビクッと震える。
何を勘違いしてるんだ? こいつらは。いや、俺の言い方が悪かったのか? 何はともあれ、訂正はしておいたほうが良いだろう。
「違う違う。紹介したいのはパーティーメンバーだ」
俺がそう言うと三者三様の反応を示した。
「見つかったんだ! よかったね!」
笑顔で喜んでくれる藤原。
「な~んだ。つまんないの」
つまらなそうにそっぽを向く星野。
「そ、そうでしたか」
安心した様子で胸をなでおろすアイル。
正直に言って藤原以外の反応の意味がよくわからなかった。
もう、話を進めてもいいかな?
「さてと、それじゃあ注目。紹介しよう、5人目のパーティーメンバー、一ノ瀬唯さんだ――って、あれ? どこ行った?」
紹介しようと後ろを向くと、そこにあるはずの一ノ瀬さんの姿がなかった。
どこ行った?
《……すぐとなりにいるよ》
「え?」
いつも通り肩に乗っているラプラスにそう言われて隣を見る。
いなくない?
《……ちがうよ。はんたい》
「こっちか」
《……そうそっちー》
俺は反対側を見る。
やっぱりいなくない? と思ったが、よく見ると何か違和感があることに気が付いた。
これまさか【隠密】か?
「……何やってるんだ? 一ノ瀬さん」
「おや、バレてしまったようだね。なに、一種のデモンストレーションと言うやつだよ」
何もない空間から声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、一ノ瀬さんが現れた。
「やるならやると、一言言ってからやってくれ」
「わかった。次からはそうするよ」
そんなやり取りをした後、ふとアイルたちの方を見ると、ポカンとした顔をしていた。
「改めて紹介しよう。一ノ瀬唯さんだ」
「よろしくお願いするよ」
そう言いながら一ノ瀬さんは一礼する。
その様子を見ていた星野が聞いてきた。
「一ノ瀬唯って…………アンタ、可愛いから連れてきたとかじゃないでしょうね?」
「ちげぇよ。安心しろって。ちゃんと戦力になるから」
「本当でしょうね」
まだまだ疑っている様子の星野。これは一度見せた方が早いか。
「本当だ。試してやろうか?」
「……面白いじゃない。やってみなさいよ」
「よし。と言う訳だから、よろしく頼むよ一ノ瀬さん」
俺だそう言うと一ノ瀬さんは了解したとでも言うように頷いた。
そして右手を空に向かって突き出す。
「それじゃあ行くよ? 【雷撃】」
一ノ瀬さんがそう言うのと同時に、右手から青緑色の雷が天に向かって一直線に放たれた。
それを見ていた星野と藤原は唖然とする。
アイルだけは一ノ瀬さんの”能力”を事前に知っていたこともあり、あまり驚いていなかったが、他の二人を見る限り、効果は覿面のようだ。
「ふぅ……どうかな、主様」
「おう、ばっちりだ。お疲れ」
俺が一ノ瀬さんに言葉を返していると、星野と藤原が意識を取り戻した。
「や、八重樫、今のってまさか……」
どうやら星野は気が付いたらしい。
「ああ、そのまさかだ。一ノ瀬さんは特殊な能力を持っててな、この通り俺の”能力”を使うことが出来る。まだ精密なコントロールはできないが、それでも力を示したんだ。これで戦力にならないとは言わせないぞ?」
「わかってるわよそれくらい。少し驚いただけ。……さて、歓迎するわ一ノ瀬さん」
「よろしく一ノ瀬さん! それにしても凄いね! 今の【雷撃】でしょ? いいな~僕も使ってみたいな~!」
「よろしくお願いします、一ノ瀬さん」
「よろしくお願いするよ。でも一ノ瀬さんは少し硬すぎるんじゃないかな。もっと好きに呼んでいいよ」
「そう? それじゃあ、唯で」
「唯ちゃん!」
「それでは私は唯さんとお呼びします」
「じゃあ俺は一ノ瀬で」
俺がそう言うと一ノ瀬は俺の方を向いて首を傾げた。
「今のは流れ的に名前呼びじゃないのかな?」
「仕方ないだろ? この前からずっと一ノ瀬さんって呼んでたんだから。名字呼びになれたんだよ」
「それじゃあ、名前呼びも練習しておいてくれ。慣れるまでは一ノ瀬でいいよ」
「善処しよう」
俺と一ノ瀬とのやり取りを見ていた星野が訝しむように眉を細める。
「アンタたち妙に距離が近いわね。いつの間に仲良くなったの?」
「まあ、いろいろあったんだよ」
「いろいろあったからね」
「なにそれ、どういうこと?」
俺と一ノ瀬のあいまいな反応にさらに訝しむ星野。俺の口から【主従契約】のことを話すわけにもいかないので笑ってごまかす。
まあ何はともあれ、こうして無事顔合わせは終了した。
謎の男子生徒 Side
「うん、無事に右腕も合流したようだね。はははッ面白くなってきたな~」
薄暗い部屋の中で、親指と人差し指で作った輪の中に写る屋上の映像を見ていた男子生徒がうんうんと頷きながら、楽しそうに笑う。
その様子は新たな楽しみを見つけた子供の様だった。
「ん~扇君たちは来週からダンジョン攻略か~。いいな~僕も行きたいな~。でも僕は不用意に動けないんだよね~。動くとバレちゃうしさ~」
男子生徒は悩ましそうにう~ん、と声を上げながら腕を組む。
そして、何かを考え付いたように顔を上げた。
「そうだ! あの子に頼もう! 間接的になら動けるからね! そうと決まればさっそく実行~!【メッセージ】っと」
そう言いながら”能力”を発動する。
男子生徒はそのまま虚空に向かってしゃべり始めた。
「あ~ユリスちゃん? 僕だよ~! …………え? 僕なんて名前の人は知らない? またまた~ちゃんとわかってるくせに~可愛いな~ははははッ」
誰かと会話するように言葉を続ける。
「ん~? そうそう、ちょっとお願いがあってね。……嫌? そこを何とか、僕の顔に免じてさ、頼むよ! …………大丈夫だって、ユリスちゃんなら簡単だから」
その後、しばしの間交渉するような会話が続いた。
「はははははッそれじゃあ言うね。僕がお願いしたいのは、ある人物を殺すことだよ。チャンスは一度きり。失敗したらその時はその時だね~。あっ、それから絶対に真正面からぶつかってね! ……なぜかって? そんなの一瞬で終わったら面白くないからだよ! …………そうそう、それじゃあよろしくね! 健闘を祈るよ! ははははッ」
そうして会話を終えた男子生徒はニヤニヤとした笑みをこぼす。
「いや~、お友達が死んだとき扇君はどんな反応をするのかな~。ははははッ今から楽しみだな~。ぞくぞくするな~。扇君にはもっともっと強くなってもらわないといけないからね! 頑張ってほしいな~」
そう言って、男子生徒はこれから起こるであろう未来を思い描いて楽しそうに笑った。




