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【完全回復】

「お、おい? 殺してないよな?」


 目の前に転がる黒焦げの物体×4を見て恐る恐る聞いてみた。


「大丈夫、今のボクにとって主様の命令は絶対だからね。殺すなと言われれば、殺せない程度の威力しか出せなくなる」

「な、ならいいんだけど」


 ひとまず安心……していいのか? 

 目の前に転がってるのは事実だし? これ後々問題になるんじゃ……


「はぁ……、仕方ないか」

「? 主様?」

「話は後、とりあえずこいつらをどうにかしよう」


 俺の言葉を聞いた一ノ瀬さんが首を傾げる。


「殺すのかな? 確かにあの【強酸】……だったかな。あれを使えば証拠は残らないだろうね」

「おい、物騒なこと言うなよ。逆だ逆」

「逆?」

「ああ、回復させる」

「それには何か意味があるのかな?」

「まあ、多少の脅しには使えるかな」


 こっちに回復手段があるという事は、傷つけて回復して、の無限ループが可能という事だ。

 しかもこっちは殺せない程度の威力しか出せない。つまり半殺しだ。

 今の【雷撃】の威力を身をもって体験した今、これ以上関わろうとは思わないだろうな。


「なるほどね。主様は鬼畜でいらっしゃる」

「お前な……」


 そんなやり取りをしつつ、俺は黒焦げの物体×4の近くによった。


 そして一番近くにあった物体に触れる。


「【再生】っと」


 俺が【再生】を発動すると、黒焦げの物体は元の色を取り戻し、焦げあと一つない状態へと復元された。

 これを後三回続ければ終わりだ。 


「……あ、あれっ、ここは……」


 【再生】を受けた女子生徒が目を覚ましたが、とりあえずスルーだ。

 俺は残り三つの物体にも【再生】を発動させる。

 すると、何事もなかったかのように全員目を覚ました。


「……なにが、どうなって……」

「私たち無事だったの……?」

「これぇ、どういう状況ぉ?」


 思い思いの反応を見せる女子生徒達。

 普通だったら少しくらい待ってやるところだが、こいつらは一ノ瀬さんをいじめていたんだ。そんな気遣いは必要ないだろう。


「さてと、実際に体験してもらった通り俺は傷を一瞬で治す”能力”を持っている。それを踏まえたうえで聞いてくれ。もしも、お前たちがこれから先も一ノ瀬さんに危害を加えるというのなら、俺はお前たちに死んだほうがマシだと思える程の苦痛を与えてやる。わかったな?」


 俺が【威圧】を発動した状態でそう言うと女子生徒達は首が飛ぶんじゃないかと思う勢いで首を縦に振った。

 その脅え切った表情を見て、俺は溜息をつく。


「安心しろよ。お前たちが何もしないなら俺も何もしない。それだけは保証してやる」


 そう言うと再びぶんぶんと首を振った。脅えの色も少しは薄らいだ気がする。


「わかったならもう行っていいぞ。用があるのはお前たちにじゃないからな」


 それを聞くや否や女子生徒たちは脱兎のごとく駆け出した。いや、この状況から言えば逃げ出したって言い方のほうが正しいか。


「さてと、次は一ノ瀬さんだな」


 俺は一ノ瀬さんの方に向き直った。


「ぼ、ボクに拷問するのかい? 主様がそれを望むならやぶさかではないけれど」

「そんなことするわけないだろ?」

「そ、そうなのかい?」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」


 思わず溜息をつく。


「それじゃあ、ボクに何をするのかな」

「ま、あいつらにしたことと同じことだよ」

「同じこと?」

「ああ、とりあえず――お腹を見せてくれ」

「え?」


 一ノ瀬さんが固まった。それからおずおずと言った様子で口を開く。


「ど、どうしてだい? ボクのお腹に興味があるのかな?」

「ん? ……ああ、すまん。言い方が悪かったな。――傷を見せてくれ」

「傷?」

「ああ、結構ひどくやられてたみたいだからな。その傷も【再生】で治してやるよ。男に肌を見せることに抵抗はあるだろうけど、そこは我慢してくれ。あっ、これは命令じゃないから、嫌なら断ってもいいぞ」


 俺がそう言うと一ノ瀬さんはなるほどと頷いた。


「そんなに気にすることはないよ。命令だという明確な意思をもって言葉を発しない限り命令と判断されないからね」

「そうなのか」

「だから安心していい。あとそうだね、そう言うことならよろしく頼むよ。でもその前に主様の部屋に行ってもいいかな? さすがに野外じゃ恥ずかしいからね」


 そう言って辺りを見渡す。いくら周りから死角になっているとはいえ、確かに外で脱ぐのは恥ずかしいだろう。


「それもそうだな。それじゃあつかまってくれ」


 俺は一ノ瀬さんに手を差し伸べた。

 その意図を察した一ノ瀬さんはすぐにその手を握る。


「行くよ? 【空間転移】


 ”能力”を発動すると共に俺たちは一瞬だけ浮遊感に包まれた。



  ◆◆◆



「はい到着」

「……ここは?」

「俺の部屋の前」


 そこには見覚えのあるドアがあった。


「本当に一瞬で移動できるんだね」

「まあな。とりあえず入ってくれ」

「お邪魔するよ」


 俺はただいま~と言いながら部屋の中に入る。

 どうやらアイルはまだ来ていないらしい。


「え~と、こっちに座ってもらっていいか?」

「わかった」


 俺たちは二人ベッドに腰掛けた。

 ……あれ? なんだか雰囲気が。いや、手を出すつもりはないけどね? 昨日初めて話した女の子を自分の部屋に連れ込んでるって、状況的にヤバくない? あと座る場所をもっと考えるべきだった。


「……」

「……」


 二人の間に気まずい空気が流れる。

 その空気に耐えかねた俺は口を開いた。


「そ、それじゃあ早速だけど、傷を見せてもらえるか?」

「了解だよ」


 そう言って一ノ瀬さんは上の制服を脱いだ。真っ白な下着があらわになる。……でかいな。

 ってそうじゃない。え? なんで全部脱ぐの? お腹だけでいいんだけど?


 だが、その答えは一ノ瀬さんの肌を見た瞬間にわかった。

 そう言うことか。

 一ノ瀬さんの肌には今回のお腹の打撲痕以外にも無数の傷跡があった。


「……ひどいな」


 思わず声が漏れる。でもこれは――


「ど、どうしたのかな。ボクも恥ずかしいからね。できることなら手早く済ませてくれると助かるよ」

「……悪い、一ノ瀬さん。この傷は【再生】じゃ治せない」

「……どういうことだい?」


 俺は一ノ瀬さんに説明した。【再生】と言う”能力”の弱点を。


「俺の”能力”【再生】はあくまでも()()()()()()()だけなんだ。その為には俺自身が元の状態を知っておく必要がある。でも……俺が知ってるのは昨日の一ノ瀬さんだけだ」

「つまり……昨日の状態には戻せるけど、それよりも前の状態には戻せない、という事かな?」

「そうなるな」


 他にも方法があるにはある。でもそうなると俺の”権能”を知らせることになるからな。


「それじゃあボクが【再生】を使うというのはどうかな」

「一ノ瀬さんが?」


 確かにそれならいける、か?


《やめておいたほうが良いよ》


 《超高度AI》モードのラプラスがそう言った。


「ラプラス? どうしてだ?」

《一ノ瀬さんはまだ”能力”を制御できていないから。そんな状態で【再生】なんて使ったら最悪生まれる前の状態まで再生されるかも》

「……そう言うことか」


 俺が奪った”能力”をその場で使用できているのはひとえに《死霊吸収》のおかげだ。この”権能”は技術も一緒に吸収するからな。

 でも一ノ瀬さんにはその技術がない。


「確かに、ボクはまだ力を制御できていないらしいね」

「え?」


 今なんて? 俺はまだ()()()()()()()のに……


「どうしてわかったんだ?」

「え? だって主様の()()()()()()()()()がたった今そう言ったじゃないか」


 一ノ瀬さんまさか――


「――見えてるのか?」

「うん。契約したときからね」


 どういう事だ? アイルにすら見えなかったのに。


《多分だけど契約したときにパスか何かがつながったんだと思う》

「パス……か。まあ何はともあれ、よかったなラプラス」

《……うれしい》


 《超高度AI》モードを解除したラプラスがそう言った。

 

「それそろ服を着てもいいかな?」


 そうだった。放置していい格好じゃないな。

 でも、俺は今とても機嫌がいい。少しくらいなら”権能”を見せてもいいって思えるくらいには。ってラプラスも”権能”だったな。


「まだ待ってくれ。約束通り傷は治すよ」

「? どうやってだい?」

「なに、【再生】が使えないならもっと別の”能力”を()()()いいんだよ」

「創る?」

「そう。《超高度AI》、悪いな、もう一度だけ頼む。《創造主》を使って一ノ瀬さんの傷を完全に治せる能力を創ってくれ」

《任せて。――――…………完成。名前は【完全回復パーフェクトリカバリー】》

「さすが」

《……とーぜん》


 そう言ってラプラスは腰に手を当てて胸を張った。あとでお礼しないとな。


「さてと、一ノ瀬さん。準備はいい?」

「よろしく頼むよ」

「じゃあ行くよ。【完全回復】」


 俺が肌に触れ”能力”を発動させると、一ノ瀬さんの身体が薄緑色の光に包まれた。そして、その体に合った無数の傷は跡形もなく消え去り、きれいな肌に戻った。


「完璧だな」

「これは……凄いね。本当にあの一瞬で新しい”能力”を創ってしまったのか」

「ああ、他言無用だからな?」

「了解だよ」


 一ノ瀬さんはそう呟くと制服を着始めた。

 俺はそっと顔を逸らす。


「ふふ、見たいなら別にみてもいいけど?」

「いや、さすがにそれは……」

「それに、お礼もしたいからね」

「お礼?」

「これでもボクも女の子のはしくれだからね。あの傷はなかなか辛いものがあった。それが無くなったんだからお礼ぐらいさせてくれ。――本当にありがとう」


 背中から聞こえてきたお礼の言葉を俺は素直に受け止めた。

ついに50話目です!

めでたいような、まだまだこれからなような、不思議な気分です。


何はともあれ、これからも頑張っていきたいと思います!


あと、もし『また読みたい』『続きが気になる』と思った人は是非ブックマーク&評価をよろしくお願いします!

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