大切な連絡
寮を出た後、俺たちは登校する他の生徒の視線をこれでもかと言うほど集めていた。それはもう鬱陶しいほどに。
すれ違う生徒の会話が耳に入る。「あれが噂の……」「あんな奴がホントに洋祐様を倒したの?」「噂じゃ”権能”まで使えるらしいぜ」「いいよな~、あんなすげぇ力持ってたらやりたい放題だろ」「マジそれな!」「横にいる女って彼女?」「朝から女侍らせていいご身分だな」「俺もあんな彼女が欲しいぜ」「いやいや、付き合ってないらしいぜ?」「マジか!? 俺狙ってみようかな」「しっ! 聞こえたら殺されるぞ!」とか何とか。
……ほとんどアイルのことだったな。
アイル可愛いからね。美少女に目が行くのは分かる。
でもさ、殺さないからな? なんで俺が殺人鬼みたいになってるだよ。
序列戦のアレは伊藤の奴が勝手に自爆しただけだろ。
「はぁ……」
今日何度目かの溜息をつく。
まあ、押しかけられて質問攻めにあうよりははるかにマシだが。それでもつらいものはつらい。
一方でアイルは平然としていた。周りの声が気にならないのだろうか? さすがのスルースキルだな。
ラプラスはラプラスで《……ここがおーぎの、がっこう……》なんてことをつぶやいていた。
……案外俺の気にし過ぎなのかもしれない。
そうこう考えているうちに自分の教室までたどり着いた。緊張する。
たかだかドア一枚を開けるだけなのにこれだけ緊張するとは……。
「扇様? 入らないのですか?」
「いや、うん、入るよ? …………よし、行こう」
俺は覚悟を決めて教室へと入る。
すると案の定、クラス中の視線が集まった。
ああ、久しぶりだなこの感じ。編入したばかりの頃を思い出す。懐かしい。
とは言ってもあまり気持ちの良いものじゃないんだけどね。
そんなことを思いながら席に着く。すると聞きなれた声が聞こえてきた。
「おはよう、扇君! アイルちゃん!」
「おはよう。アンタたちいつも一緒にいるよね。いい加減付き合ったら?」
「おー、おはよう。あと星野、それは余計なお世話だ」
「藤原さん、梨乃亜さん、おはようございます」
俺の元までやってきた藤原と星野に朝の挨拶をする。
すると、俺の肩に乗っている裸Yシャツ少女、ラプラスが話しかけてきた。
《……おーぎのともだち?》
「まあな。男の方が藤原護で、女の方が星野梨乃亜だ」
《……ん、おぼえた。ふじわら……ほしの》
「おっ、えらいな」
《……とーぜん》
そう言ってラプラスは胸を張った。無いけどね。
俺がラプラスと会話をしていると、星野が訝しげな視線を送ってきた。藤原も不思議そうな顔でこっちを見ている。
まあ、目の前の奴がいきなり誰もいない方を見ながら喋ってるんだから、そういう反応になるのも当然か。
「八重樫、何一人でぶつぶつ言ってるのよ?」
さてと、どう説明すべきか。そのまま「肩に乗ってる少女と話してた」なんて言ったら流石に引かれるだろう。俺もその説明はどうかと思う。
でも、結局は正直に説明するしかないんだけどな。信じるか信じないかはこいつら次第だ。
と、言うわけで、かくかくしかじかと説明した。”権能”と言う部分は除いて。結果、
「へ~、病院行く?」
「扇君、お大事にね?」
全く信じなかった。それどころか正気を疑われた。まあ、別に良いんだけどね。無理に信じてもらおうともしてないし、別に良いんだけどね。……ぐすんっ。
俺が心の中で若干傷ついていると、教室の扉が開き、高城先生が入ってきた。そしてHRが始まる。
「今日は大切な連絡がある。よく聞いておくように」
ん? 珍しいな。いつもはサラッとした感じで終わらせるのに。何かあるのか?
「すでに何人かの生徒は先輩たちから聞いて知っていると思うが、お前たちには来週から一か月間、ダンジョン攻略に臨んでもらう」
先生がそう口にした瞬間、クラス中が沸き上がった。
中には立ち上がって喜ぶ者もいる。
と言うかこの世界にもダンジョンってあったんだな。
「静かにしろ。気持ちは分かるが、今は話を聞け。……それでは詳しい説明を行う」
生徒たちを静めた後、先生は詳細を話し始めた。
「お前たちに攻略してもらうダンジョンは、ここより南方に位置するアスロル大迷宮だ。なに、攻略と言っても、ダンジョンを踏破しろと言っているわけではない。その代わり、お前たちにはそのダンジョンで魔石を集めて、その合計金額で競ってもらう」
それからも先生の説明は続いた。それを簡単にまとめると、こういう事らしい。
・一か月間の間ダンジョン、アスロル大迷宮を攻略しつつ魔石を集め、最終日までに集めた魔石の合計金額で競う。
・ダンジョンに潜るかどうかは生徒の自由。全く潜らずに近くの町で休んでいてもいし、毎日潜ってもいい。
・攻略は5人1組のパーティーで臨まなくてはならない(このクラスは50人なので全10組)。組み合わせは自由で、今週中に5人組を作って先生に申請をしなくてはいけない。
・最終日の集計結果は序列に影響する。1位の組は序列が5アップ、2位の組は3アップ、3位の組は1アップ、4~7位の組は変動なし、8位の組は1ダウン、9位の組は3ダウン、10位の組は5ダウンする。
・序列変更時に他生徒と序列が被った場合、今回の結果で順位が上だった者が優先される。
・このダンジョンでの事故や、負傷、死亡などの一切は自己責任。
・攻略に必要な道具などは各自で用意。
・宿は学校側が用意する。
とまあ、簡単にまとめるとこんな感じだ。細かいところは当日に冊子が配布されるとか。
編入してから初めての序列変動ありのイベントだ。それもダンジョン。否が応でも期待が高まってしまう。わくわくだ。楽しみ過ぎる。
「――最後に、ダンジョンに潜る際はギルドの認証、ギルドカードが必要だ。来週までに各自、作っておくように。あと、何度も言うがパーティーメンバーは慎重に選べよ? 文字通り命を預けるんだからな。
話は以上だ。次の授業は闘技場で行う。くれぐれも遅れないように」
そう言って、HRは終了した。
周囲が一気に盛り上がる。すでに一緒に組む約束をしている生徒もいた。
まあ、気持ちは分からなくもない。ただ気になることもある。試しに聞いてみるか。
こういう時の《超高度AI》だよな。
俺は肩から降りて机の上でゴロゴロと転がって遊んでいるラプラスに質問した。簡単な演算と調べもの程度なら俺が”権能”として発動しなくても、ラプラスが自分でやってくれる。
「なあ、ラプラス。これってそこら辺にいる魔物の魔石じゃダメなのか?」
そう、そこだ。そこが気になっていた。
魔石の集計なら別にどこにでもいる魔物の魔石でもいいのではないかと。
と言うか魔石ならアイルの【収納】の中に腐るほどある。いや、使わないけどね? それだと楽しくないし。
でも一応確認だけ。
俺がそう聞くとラプラスは転がるのをやめてムクリと起き上がった。そして、どことなく雰囲気が変わる。
《ダメ。それだとバレる》
「どうして?」
《ダンジョン産の魔石と普通の魔石は違うから》
この状態の話し方はどこかいつもと違う。多分ラプラス自身が自分を”権能”として発動させているからだと思う。ただ、俺が発動するときよりもできることは少ない。
それでも”能力”以上の性能はあるが。
ラプラスが何処からか取り出した二枚の画像を使って説明を始める。
その画像に写っていたものは『魔石』だった。片方は見たことのある『紫色の魔石』、もう片方は見たことのない『赤色の魔石』だった。
《見て分かると思うけど、ダンジョン産の魔石は色が違うの。普通の魔石が紫色なのに対してダンジョン産は赤色。普通の魔石を持っていったら一発でバレる》
「そう言うことか。これで納得がいった。ありがとな、ラプラス。お疲れ様」
《……ふ~……きにしなくていいよ。これもわたしのやくめだがら」
俺がお礼を言うとラプラスの雰囲気は元に戻った。
「さてと、納得もいったことだし、早く移動するか」
《……れっつごー》
再びラプラスを肩の上にのせて、俺はアイルたちと一緒に闘技場へ向かった。
昨日、初めて感想を頂きました!
ものすごく嬉しかったです! 大興奮しました!
やっぱり誰かに応援されると、嬉しいし、やる気出ますよね!
この気持ちを胸に、これからも頑張っていきたいと思います!
それから補足です。
他クラスの生徒は、クラス別に違うダンジョンへと向かいます。
以上です。
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