試合前に大富豪ってどうなの?
12日目
今現在、伊藤洋祐との序列戦を控えた俺の部屋では激励会が開かれていた。
「はぁ……なんか今までで一番長い一週間だった気がする。――はい、6」
うん。今思い返してもなかなか(精神的に)きつかった。もう二度とやりたくない。
「そういやアンタ毎日戦ってたよね。ま、最後の試合なんだから頑張りなさいよ。――んじゃあ9で」
「頑張ってね扇君! 僕応援してるから!――う~んと、Jバック!」
「そうですね。扇様、私も心から応援しております。――3です」
みんなから応援してもらえる。それはものすごく嬉しい。
人間だれしも褒められたり応援されるのは好きなものだからな。
「おう、頑張るよ! と言うか、伊藤って奴は一発ぶん殴ってやらないと気が済まないからな。――っで、誰かジョーカーは? 俺はパス」
俺がそう問いかけると、
「私もパス」
「パス!」
全員パスした。
まあ、大丈夫だろう。アイルの手札はまだ8枚も残ってるし、まだ焦る時じゃない。
一方、俺の手札は8、9、10、10、Kだ。なかなか際どいが、次俺のターンになれば勝てる。
あとは、アイルが何を出してくるか、だが――
「誰も出さない、と言うことは流しですね。申し訳ございません扇様。――革命です」
そう言ってアイルは場に4枚のカードを出した。
「……え?」
俺は絶句した。
革命が起きたからではない。革命に使われたカードを見て絶句したのだ。
――ハートの7、ダイヤの7、スペードの7、そして――ジョーカー
7渡し、自分の手札を場に出した7の枚数だけ次の人に渡す、と言うものだ。
そして今場に出ている7はジョーカーも併せて4枚。
つまり、アイルはこれで上がり。そして俺は、
「プレゼントでございます、扇様」
「なん……だと……」
手札が4枚増えて9枚となった。
ちなみに受け取ったカードは、5、A、2、2、だった。
え? ちょっとアイルさん? 今革命中なんですけど? 2なんていらないんですけど?
「申し訳ございません。上がりです」
「鬼かッ!」
俺がそう叫ぶと、その様子を見て目ざとく俺の状況に気が付いた2人は、
「アッハハハッ、その様子だとなかなかいいカード貰ったみたいね八重樫。……プフッ」
「ドンマイドンマイ! まぁ次……フッ……頑張ればいいよ!……フフッ」
盛大に煽ってきた。
「……テメェら覚えとけよ? この借りは絶対に返すからな?」
「プフッ、やれるもんならやってみなさいよ」
「そうだよ扇君!」
「あっそう、そういうこと言っちゃう? 言っちゃうんだ? …………見とけよお前ら! こっから大逆転してやるっ!」
◆◆◆
そして数分後。
「誰だよ……大富豪しようとか言い出した奴……」
俺は見事に惨敗していた。
順位はアイル、藤原、星野、俺の順番だ。
まぁ、無理だろうなぁとは思ってたんだけどね、うん。
やっぱりアイルの7渡しがきつかったか。無念……。
俺が床に手をついて項垂れているちょうどその時、時計は序列戦の15分前を示していた。
「あ~楽しかったっ。フゥー、フゥー……それじゃあ頑張りなさいよ!」
「頑張ってねっ!」
「扇様、ご武運を」
「あ~うん、そうだな。行ってくる」
応援されたのになぜかあまり嬉しくなかった。
◆◆◆
そうして闘技場に入場した俺は、伊藤洋祐と初めて対面した。
ショートの黒髪。身長はすらっと高く180cmほど。整った顔立ちに眼鏡をつけていてとても理知的に見える。見るからに理数系と言った感じだ。
「初めましてだな。知ってると思うが俺は八重樫扇だ。あんたにはいろいろと世話になったからな、この試合でたっぷりとお礼してやるよ」
俺がそう言うと、伊藤は中指で眼鏡をクイッとして返した。
「伊藤洋祐だ。なに、礼は不要だ。俺が好きでやっていたことだからな。気にするな」
「いやいや、そう言う訳にもいかないんで」
「全く、律義なやつだな」
「いや~それほどでも」
その会話の内容とは裏腹に、その場には険悪な雰囲気が漂っていた。
それを敏感に感じ取った審判の教師は、審判用の保護結界の中で一歩後ずさった。
そして、改めてマイクを握り直し、
「そ、それでは両者準備はいいですかっ!? それでは序列戦――――――――始めっ!」
序列戦の開始を宣言した。
先手は頂こう。
「【雷撃】」
俺は右手を前に突き出し”能力”を発動させる。すると、掌から青緑色のスパークが煌めき、バチバチバチッと言う音とともに一直線に雷が放たれた。
「【雷撃】か。それは攻略済みだ。【反射板】」
伊藤がそう呟くと、伊藤と雷との間に赤い半透明の板が出現した。
その赤い板に雷がぶつかると――そっくりそのまま反転した。
「まあ、【反射板】って言うぐらいだからな。そりゃあ反射するよな。【雷操作】」
俺は【雷操作】を発動し反射された【雷撃】を横にそらす。すべてを逸らした後、伊藤の方を見ると、未だに【反射板】が展開されていた。
にしても、【反射板】か。なかなか厄介な”能力”だな。
……念のため他の”能力”でも試しておくか。
俺は持参したネックレスタイプの剣のキーホルダーを掴みチェーンから外した。
元の大きさに戻った鉄剣を握り”能力”を発動する。
「【強酸】【斬撃】」
薄水色の液体を鉄剣に纏わせて、それを【斬撃】で飛ばす。
反射されても余裕で対応できる様に一振りだけ。
それでも【強酸】を纏った【斬撃】は触れた瞬間にすべてを分解する。
生身で受ければ致命傷は避けられないだろう。
「無駄なことを」
その言葉通り、【反射板】に触れた薄水色の刃はあっさりと反転し、俺に牙をむいた。
「だと思ったよ。【隠密】【縮地】」
俺は【縮地】を発動し【斬撃】をよけながら伊藤の背後に肉薄する。
「【超硬化】【剛撃】ッ!」
遠距離攻撃がダメなら近接攻撃だ。
俺は鉄剣で思いっきり伊藤に斬りつけた。が、
「無駄だと言っているだろう」
伊藤がそう言うと目の前に赤い板が滑り込んできた。
「は……ッ!?」
仕方ないッ、そのまま叩き切るッ!
「はぁああッ!――――――……ッ!?」
俺の鉄剣が赤い板に触れた瞬間、全てが反転した。
鉄剣は砕け散り、腕は恐らく折れている。
そして何より、俺の胸には大きな太刀傷があった。
胸の傷から血が噴き出し体中を痛みが駆け抜ける。
「~~~~~ッ!」
俺は兎に角その場から離れた。
その後、痛みを堪えて胸の傷を確認する。
かなり深く切れているようで、血が止めなく溢れていた。
そして鉄剣は持ち手の所だけになっている。
両腕はやはり折れているようだ。
近接攻撃まで反射するのかよ!? 反則だろ!
「扇様ッ!?」
俺が内心で舌打ちしていると、観客席からアイルの叫び声が聞こえてきた。
「~~~~~~ッ、大丈夫だ! 心配するな! 【再生】ッ!」
俺は唯一の回復能力である【再生】を発動する。
すると、腕の痛みが無くなり、胸の傷は一瞬にして塞がった。
それどころか手に持っていた鉄剣すらも元通りになっている。
【再生】。自分自身と、触れているモノをもとの状態に戻す”能力”。
かなり強いがその分魔力の消費量が半端じゃないので連発はできない。
「ほう、まさか回復系の”能力”まで所持していたとはな。これは少し演算をし直す必要がありそうだ」
「訳の分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「こちらの話だ。気にする必要はない。――それよりも、君は自分の心配をしたらどうだ? 見ての通り、君の”能力”の一切はこの【反射板】の前に等しく無意味だ。そんな絶望的な状況でどう戦う?」
確かに、【縮地】と【隠密】に対応した【反射板】に対して接近戦では分が悪い。
とは言え、遠距離で戦えるかと言われればそれも無理だろう。
【ダークネスドミネーション】ならば行けるかもしれないが、もしも反射された場合、【再生】できないほどの傷を負う可能性がある。……絶体絶命だな。
……だが、これ以上アイルに心配をかけるわけにはいかない。
かけたくないッ。だったら答えは一つだッ!
絶対に反射できない攻撃を放つだけッ!
「何もしないならこっちから行くぞ? 地面よ、我が敵を刺し穿て、『土魔法:アース・ニードル』」
素早く詠唱を終えた伊藤から魔法が放たれる。
地面が4本の槍へと変化し、俺に向かって飛来する。
覚悟は決めた。もともとそのつもりだったし、何も問題ない。
俺は転生特典の権能を発動する。
「《創造主》」
俺はイメージで空中に盾を創造した。その盾で『アース・ニードル』を防ぐ。
「なんの能力かは知らないが、【反射板】前では等しく無意味――」
「――少し黙れよ。どうせ次の攻撃は防げないんだから」
続けて鉄の剣を創造する。
そして、その矛先を伊藤へと向け打ち出した。
「だから無…………駄ッ!?」
その剣はあっさりと【反射板】を突き破り、そのまま伊藤の背後の壁へと勢いを落とすことなく激突した。
伊藤の口から驚きの声が漏れる。その表情も同じように驚きの色に染まっていた。
「さあ、第二ラウンドといこうかッ!」




