アイルの序列戦
8日目
今日俺は珍しく観客席に座っていた。
当然自分の試合がなかったわけではない。
こことは別の闘技場でだが確かにあった。
人数は13人と昨日と変わらなかったな。
まあ、瞬殺してきたが。開始早々の【雷撃】ぶっぱで一撃。
試合時間は過去最短の2秒を記録した。
なぜ俺がそんなに急いで試合を終わらせてきたのかと言うとズバリ、アイルの試合を見るためだ。いや~ほんとギリギリだったんだよ。
試合時間めちゃくちゃかぶってるし、何気に俺の試合があった闘技場からここまで遠いしで大変だった。
結果として間に合ってるからそれはまあいいか。
それよりも今大切なのはアイルの試合だ。
相手は確か序列149位……ぐらいの相手だったと思う。
ちなみに女だ。が詳しくは忘れた。
まあ、アイルって序列31位の藤原に勝ってるから今更100番台なんて相手にもならないだろうけど……。
でも一応”神の魔法”は使っちゃダメって言ってるから使わないと思う。
「いよいよだね! アイルちゃんの試合!」
「……そうだな」
「アンタもしかして緊張してんの?」
「べ、別に緊張なんてしてないし? 全然これっぽっちもしてないし?」
「その反応がもう怪しいわね」
「うるさい。ほらっ、もう始まるぞ」
俺はチラッと時計を見る。試合開始まで残り30秒ほどだ。
闘技場の舞台にはすでにアイルとその相手の女の子がスタンバっている。
アイルの格好はこの世界に転生したときに着ていた白をベースとした軽装の鎧だった。
その姿はさながら神話の世界に出てくる戦乙女のようだった。
見る者すべてを魅了する美しさ、そんな感じだ。
正直に言ってものすごく似合っていた。
見るのが初めてではない俺でも息をのむほどだ。
初見の人はどう感じるんだろうな。
別に試合前に何かしらの装備を身に着けることは別にルール違反ではない。
大多数が制服か体操服と言うだけでアイルのように装備を身に着けている生徒も確かにいる。
珍しいのは確かだが。
おっと、もう始まるな。楽しみだ。
そして、審判の合図とともに序列戦が始まった。
「『弾光剣』」
先に仕掛けたのはアイルだった。右腕を真上に挙げ”魔法”を発動する。
アイルが”魔法”を発動した直後、その背後にとてつもない大きさの魔法陣が描かれ、光が集まり、一つ、また一つと次々に剣を形作っていった。
次の瞬間には光でできた幾百の剣がその矛先を相手の女子生徒に向けた状態で構えていた。
そして、真上に挙げられた右腕を勢いよく目の前まで振り下ろした。
まるで”突撃しろ”と命令するように。
すると周囲の光剣が一瞬波打ったかと思うと、さながら弾丸のごとく次々と打ち出され女子生徒に向かって飛来した。
その”魔法”はまるで――
「あれは……【ソード・レイン】、か?」
そう、俺が雷竜と戦った時に使った技、【ソード・レイン】にそっくりだった。
あんな”魔法”があったとは。
あれカッコいいし俺も使ってみたいな。あとでアイルに聞いておこう。
『弾光剣』と呼ばれた”魔法”の弾幕は壁や地面に激突し、全て打ち終わる頃にはその周囲は煙に包まれていた。
中は見えない。これもしかして相手の女の子死んだんじゃないか? そう思い相手の安否を確認するために俺は【熱源感知】を発動させた。
これを使えば温度の具合である程度の状態は分かる。
驚くべきことにその女子生徒は生きていた。それもほとんど万全の状態で。
一体どうやってあの弾幕から生き延びた?
あれは物量的に藤原の【結界術】でも防ぎきるのは不可能だぞ?
それをやってのけたあいつは何者だ?
考えられるのは回避系か迎撃系、盾系の”能力”だ。
ただあの”魔法”を防ぐレベルの”能力”となると相当なものだ。
一体どんな力だ? 気になるな。
この試合、思いのほか楽しめるかもな。
アイル Side
『光魔法:弾光剣』。
この日のため……いえ、扇様にお見せするために扇様の【ソード・レイン】を模して作り上げた”魔法”なのですが……あの様子だと生きていますね。
光の速さで飛来する弾丸のごとき光剣をすべて防ぎ切ったということでしょうか。
それともすべて避けきったのでしょうか。
どちらにせよ驚きです。
「……土煙が邪魔ですね。払ってしまいましょう。『風魔法:嵐風』」
私がその”魔法”を威力を軽減して発動すると、目の前に魔法陣が描かれ、まるで嵐のような風が発生し土煙だけを吹き飛ばした。
ちなみにわざわざ魔法陣を描いているのは演出です。
扇様が以前、
「やっぱ魔法陣ってカッコいいよな! ファンタジーって感じがするし!」
と、仰られていたので念のため魔法陣も描きました。
扇様に喜んでいただければ幸いです。
煙が払われ、そこから現れた女子生徒は手に持った剣を杖代わりにして、肩で息をしていました。
ほとんど無傷ですが、体力の消費が大きかったようですね。
敵の前であからさまな疲弊を見せるのはよくありません。
『弾光剣』を防ぎ切ったのは称賛に値しますが……どうやらここまでの様ですね。
できることなら扇様に一秒でも長く楽しんでいただきたかったのですが、仕方ないですね。
終わらせるとしましょう。
「『光魔法:弾光剣』」
先ほどよりもはるかに小さい魔法陣を描き、十数本の光剣を作り出す。
そして同じような動作ですべての光剣に突撃するように命じる。
すると光剣はほぼ同時に射出され、女生徒に向かって飛来した。
終わりですね。私はそう確信していましたが、それはよい結果で裏切られました。
女子生徒は手に持った剣を慌てて構え直すと、流れるような動きですべての光剣を切り裂いたのです。
私は思わず心の中で称賛しました。
まさか光の速さで飛来するすべての光剣を切り裂くとは。
素直に称賛します。
それは十数本防いだからと言うだけではありません。
先ほどの500を超える光剣をすべて同じ方法で防ぎ切ったということも併せてです。
「凄いですね。あれ程の弾幕を防ぎ切ったことは素直に称賛します。ですが、なぜ攻めてこないのですか? 攻めないことには勝てるものも勝てませんよ」
「……それ、ハァ……本気で言って、ハァ……るの?」
「勿論です。あの剣一本で私の”魔法”を防ぎ切ったことは称賛します」
「そっちじゃなくて……本当に……私があなたに勝てると、思ってるの?」
「ああ、そのことですか」
それはもちろん、
「思っておりません。例えあなたが私の”魔法”を防ぐことが出来たとしても、私に勝つことは絶対に不可能です」
「はっきり言うね」
「事実ですから」
私がそう言うと女子生徒はハハッと笑いました。
「じゃあやってみなよ。少なくとも一太刀は入れてあげる」
「面白いですね。受けて立ちましょう」
そう言って私と女子生徒は改めて向き合った。




